子供
朝、寒い。
シャルの身体を抱き寄せて暖を取りつつ目を開ける。今日は一段と冷えるな。森の中という環境のせいもあるかもしれない。
横目でクウカとミエナの方を見ると眠りながら毛布を取り合っているのが見えて、仕方なくシャルから手を離してふたりに異空間倉庫から取り出した毛布をかけて窓から外を見る。
もう昼に近いほどの時間になっていて、普段ではありえないほど長い時間寝ていたことが分かる。
特に俺とシャルは昨日の昼から夜まで寝て、それから食事を摂ったあとまた寝てからこの時間まで寝ているので十二時間近くは寝ているな。
寝過ぎて身体が怠いとは思うが、寒さで身体を動かすのも億劫だ。
もっと寝たいけれど寝るのも怠い。どうしたものかと考えていると、扉が外からトントンとノックされる。
「誰だ?」
「ああ、僕だよ。ユタネラだけど、妹がご飯作ったから持ってきたんだ」
「妹? ……ああ、そういえばいたな。……あー、ちょっとそこで待っていてくれ、今開ける」
あまり嫁の寝ている姿を見られたくないので扉を小さく開けてそこをすり抜けるようにして出る。眩しい日の光に眉を顰めていると、カゴにサンドイッチと手に鍋を持っているユタネラがまだ酒気の残ったため息を吐く。
「あー、悪いな。ミエナと会うのも気まずいんだろ。なのに飯まで用意してもらって」
「いや……妹に無理矢理持たされてね。まぁ気にしなくていいけど、僕も頼みがあってね」
「ミエナのことか?」
「ううん。森に入るならついでに薬の材料を採ってきてもらえないかなって。生薬だから定期的に古くなったら捨てて新しいのを作らないとダメなんだよね」
「物の見分けとか出来ないぞ」
「図鑑を渡すから適当にそれっぽいのを集めてきてくれたらいいよ。鑑定はこっちでするから」
まぁそれなら断る理由もないか。軽く頷き、異空間倉庫から机を取り出して地面に置く。
ユタネラは少し驚いた表情を浮かべてからその机の上に料理を置いてから俺の方を見る。
「外で食べるの?」
「この小屋だと流石に狭いからな。それにユタネラも一緒に食っていくんだろ? 普段寝ているところに異性が入ると少し嫌がるかもしれないからな」
主にネネがそういうのは苦手そうなので多少寒いけれど仕方ない。
俺が椅子を並べたりとしているとユタネラは首を横に振る。
「僕は届けにきただけだからいいよ。まだ酔いが残ってるし、今ミエナさんに会ったら変なことを口走りかねないからね」
「ミエナは多少変なことを口走られようが気にしないと思うが……。というか、普段自分が色んな奴を困らせているんだから時々は困る側になったらいい」
ユタネラは「はは」と笑ってから金の頭を掻く。
「やっぱり、仲いいね。というか、こんな小さな小屋で一緒に寝てるし……。あれ、そういえば今ミエナさんは?」
「疲れているみたいでまだ寝てるな」
ユタネラは「疲れ……。夜遅くまで何かしてた……? 暗い中で、狭い小屋の中……。ランドロスくんもまだ眠たそうで……」とぶつぶつ口にしてから机に手を置いてしゃがみ込む。
「……まぁ……あるよね。うん。分かってる。分かってたさ。ミエナさんも大人の女性なわけだし。そもそも僕なんかがどうこう言えるはずもないしね」
「……何か勘違いしてないか?」
「大丈夫だよ。うん。少し落ち込むけど、大丈夫。流石に脳が壊れてるけど大丈夫」
脳が壊れてたら大丈夫じゃないのでは……? と思っているとユタネラはフラフラと歩いていってしまう。
……間違いなく変な誤解をされてるな。いや、まぁどちらにせよ、またミエナとお見合いをするってことにはならないだろうから問題はないか。
そのままひとりで食事の準備をして待っていると、遠くの方から小さなエルフの子供達がとてとてと寄ってくる。
「旅人さん、今からご飯なの?」
「ん? ああ、そうだな」
「この机どこから出したの? 昨日持ってなかったよね?」
「空間魔法……物を出したりしまったり出来る魔法で出したんだ。ほら」
異空間倉庫からお菓子を取り出して子供達に渡すと目を輝かせてそれを受け取っていく。
「わー! おじさんありがとう!」
「おう。多分、俺はお前たちより歳下だけどな」
適当にお菓子を配ったら子供たちは椅子に座って食べ始める。まぁ別にいいか。俺も椅子に座ってみんなが起きてくるのを待ちながら子供達を見る。
俺にも子供が出来たらこんな感じだろうか。上手く会話は出来ないけど、可愛らしいな。
孤児院でもギルドでもそう思ったし、子供好きなのかもしれない。
軽く微笑んでいると不思議そうなまで見られる。
「どうしたの? 欲しいならあげるよ」
「いや、俺があげたものだろ。それ」
苦笑してから菓子を受け取って食べていると、小屋が空いて眠たそうなシャルが出てきて俺達を見て固まる。
「ら、ら……ら、ランドロスさん!? う、浮気ですか!?」
「なんでだよ……子供だろ」
「僕もクルルさんも同じくらいの年齢ですし……」
「そういうんじゃない。普通にお菓子をあげてただけだ」
シャルは疑わしそうな目で俺と子供達の中の女の子を交互に見て警戒するように俺の隣に移動する。
「……早とちりだったようです。すみません」
「いや、まぁ心配するのも分かる」
俺の中ではシャル達とこういう子供では全く違うのだけど分からないよな。
何というか、精神性というか、雰囲気というか……そういったものの印象が違うためにそういう対象にはならないのだ。
まぁ、傍目から見ればロリコンでしかないから分からないのだろうが。
「そういえば、おじさん」
「なんだ。歳上の子供」
「最近森で遊んでいても、全然動物がいないの」
「冬眠してるんじゃないのか? いや、まだ早いか」
「うん。お父さんに聞いたら危ない魔物がいるかもしれないから子供だけでは森に行くなって。おじさん弱そうだから気をつけた方がいいよ」
「あー、魔物の影響で逃げてるのか。それは確かに危なそうだな。ありがとう」
まぁ一応警戒はしておくか。魔物程度には負けることはないだろうが。




