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仕方ない

 随分と酔ってるようだなぁ。一応ミエナの友人なわけだしあまり無碍にはしたくないとは思うが、シャルの睡眠時間を減らしたくはない。

 ……それに一応、魔族も探してやりたいのであまり時間をかけたくないな。と思っているとシャルはこてりと可愛らしく首を傾げる。


「ミエナさんのこと、好きなんですか?」


 シャルのあまりに直球な問いにユタネラの表情が固まる。


「…….いやシャル、あくまでもお見合い婚なんだから俺達みたいな恋愛結婚とは違うんじゃないか? そりゃ嫌いではないだろうけど、重要なのは条件が合うかどうかで……」


 聡明なシャルにしては珍しい少し外れた言葉だ。

 ウェイトレスをしているエルフが俺とシャルの前に液体の入った瓶とツマミになるような料理を置いて「ごゆっくりー」と言っていく。


 適当に料理をつまんでいるとユタネラは俺たちから目を逸らして酒をちびちびと飲み始める。


「……えっ、いや……ミエナとは見合いなんだよな?」

「そうだよ」

「だよな。……ああ、びっくりした」

「ん、んぅ……好きなんじゃないんです? てっきり、そうなのかなぁって」


 シャルはコップに飲み物を注いでそれをこくこくと飲む。口の端に飲み物が付いていたのでそれを拭ってやると気恥ずかしそうな笑みを浮かべる。

 ユタネラはそんな俺たちの様子を見て仕切り直すようにオホンと咳き込んでから頷く。


「もちろん、悪くは思ってないよ。当然だけど嫌いだったらお見合いなんて断るしね」

「好きなんですか?」

「……まぁ、エルフはご存知の通り多くの種族より長く生きるから同族で婚姻した方が都合がいいし、数が少ないから好きとか嫌いとかよりも都合が優先になるよね」


 ユタネラの声が尻すぼみに小さくなっていき、誤魔化すように料理をパクパクと食べていく。


「それで、好きなんですか?」


 再三となるシャルの疑問。ユタネラは目を逸らして顔を俯かせながら小さな声を出す。


「……好きだよ。結構古くからの知り合いだからね」

「見合いじゃないのか?」

「見合いの相手なんて限られてるんだから、適当に彼女にだけ当てはまるような条件を言ったら世話好きのおばさんが組んでくれるからね」

「はあ……賢いな」


 自分で飲み物を注いで飲む。独特な香りのものだが悪くないな。なんだろうか、甘いけど果実か何かを絞ったものだろうか。


「ミエナか……。あー、悪口ではないから気を悪くしないでほしいんだが、だいぶ変なやつじゃないか?」

「……まぁ、少しおちゃめなところはあるよね」

「おう……」


 まぁ現実的な話として、ミエナが迷宮鼠を離れることはないだろうし、ユタネラもここから離れられないならどうしようもないだろう。


 ユタネラは可哀想だと思うがどうしようもなさそうだ。俺がそう思っていると、ユタネラは少し気にした様子で俺を見つめる。


「……君は、その……ミエナさんとはいい仲なのかい?」

「友人ではあるけどそれ以上は……」


 それ以上はないと言おうとして、不意にミエナの「私はこの中の全員いける」という言葉を思い出してしまう。


「それ以上はないぞ」

「今の間は何……?」

「いや俺はこの通り妻がいるからな」


 シャルに目を向けてそういうと、シャルはペコリと頭を下げる。

 ユタネラは一瞬不思議そうな表情を浮かべて「ああ……」と遠い目を浮かべる。


「なんだよ」

「いや、なんでもないよ。まぁ、何にせよどうしようもないんだけどね。……そもそも僕は好かれてないどころか避けられてるしね。はあ……」


 ユタネラは深くため息を吐く。


「まぁ、好きな人に逃げられたときの気持ちは俺もよく分かる」

「僕、逃げたわけではないですよ」

「……まぁ何にせよ芽はないんだよね。もうお酒でも飲んで忘れるしかないよ。あはは」

「……話は変わるんだが、あの魔族のおっさんを居候させてるみたいだけど大丈夫なのか?」

「ん? ああ、ヤドウさん? 温厚な人だし、働き者だから助かってるよ。魔族には珍しいぐらい気さくだしね」


 そういう評価なのか……まぁ鹿を取ってきていたし真面目なのは確かかもしれない。


「仲間とはぐれたらしいが、多分近日中に一人は見つけられると思う。その後も何人か見つかるかもしれないが、この里に匿えるか? 人間とも交流があるんだろ」


 ひとりやふたりならまだしも、それより多くなれば隠すのは難しくなるだろう。

 無理なら当然里から出て行くことになるのだろうが、行く場などあるのだろうか。


 俺にどうこう出来るような話ではないが、どうしても心配してしまう。

 ユタネラは微かに笑ってゆっくりと口を開く。


「……ミエナさんから好かれてそうだね」

「どうした急に、何でだ?」

「昔から優しい子だったから。……そっちでも優しいだろう?」


 ユタネラがそう尋ね、俺はミエナの普段の生活を思い出す。……クルルに甘えてる姿の印象しかねえな……。


「……そうだな」

「何その間は……えっ、違うの?」

「いや、違わないけど。……まぁうん。それで、ここで匿うのは無理だよな」

「まぁ……そうだね。助けてあげたいのは山々だけど現実としてはそこまでの余裕はないかな。ひとりやふたりなら大丈夫だろうけど」

「だよなぁ……かと言って他に当てもないしな」

「しばらくなら大丈夫だけどね。人間もくるから流石に永住は難しいかな」


 そりゃそうだよな。どうしたものだろうか……。


「……いっそのこと、新しい村でも作ったらいい気がしてきたな」

「それは難しいんじゃない?」

「まぁそうなんだけど、どうしても現実的に難しいだろ。魔族が安心して過ごせる場所は。……迷宮国もそんなに余裕はないというか……難民が近くにたくさんいるのが現状だしな」

「どこも大変だね。外の世界は」


 ユタネラは深くため息を吐いて酒を煽る。

 酒気の混ざった息を吐き出して、天井を仰ぐように顔を上げた。


「……解決出来ないことはあるよ。ヤドウさんには悪いけどね、僕達としても人間と揉めるのは危険が大きすぎる」

「匿ってやってるのにずいぶん冷静だな」

「助けられる範囲で助けるけど、それ以上はどうしようもないし、仕方ないからね。あー、話の落差が酷い」

「ミエナの話をした方が良かったか?」


 俺が尋ねるとユタネラは黙って小さく頷く。

 ……ギルドでの話ぐらいするか。



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