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睡眠不足

 シャルは俺の上に乗っかった体勢のまま、俺をじっと見つめる。


「し、仕方ないじゃないですか。僕はまだ子供だと分かってはいますけど、カルアさんから色々聞いてしまって、ランドロスさんにそういう目で見られて……きょ、興味が湧くのは自然なことではないでしょうか?」

「そ、そうか……その、悪い」

「ランドロスさんのことが大好きで、結婚もして、一生添い遂げるわけです。事のはずみで色々してしまっても問題ないわけです」

「……いや、別に全く責めたりはしてないけど。それに、シャルはえっちだと思うけど、同時に貞淑だとも思っているからな」


 俺以外の男との距離感は遠いし、服装や仕草なども落ち着いていてお淑やかなものだ。

 シャルはうるうるとした瞳を俺に向けて「ほんとですか?」と首を傾げる。


「ああもちろん。……クウカはいつまでここにいるんだ?」

「えっ、あっ……ロスくんを落とした手腕を学ぼうかと思って……。えっちになればいいんだね」

「それは違うと思います……。あと、妻の目の前で不倫の計画を立てないでください」


 迫られるのは普通に困るから勘弁してほしい。

 シャルにもネネにも怒られてしまいそうだし……庇われて怪我をさせてしまった手前、無碍にはしにくい。流石に迫られても断りはするが気を使うのは確かだ。


 どうしようか考えていると、クウカ自分の胸を強調するような体勢を取りながら恥ずかしそうに口を開く。


「う、うふーん」

「…………おう」


 とりあえず、勢いで流されてしまうことはありえなさそうで安心した。

 そうこうしている間にミエナが小屋の方に顔を出して「ご飯出来たよー」と声をかけてきたのでそちらに向かおうとするが、シャルが退いてくれない。


 というか、ミエナはこの状況でもツッコミを入れたりしないんだな。


 外に出て五人で並んで食事を摂る。

 食べている途中、ネネが匙を握ったままうとうととし出しているのを見て軽く肩を触って起こす。


「大丈夫か? 疲れ溜まってるならもう寝てくるか?」

「……見張りもあるだろ」

「そんなに眠そうにしていたら見張りにならないだろ。今日は俺が夜の間は起きてるから大丈夫だ」

「……魔族の血が入っているお前は体力がないだろ。徹夜なんか不向きだ。私と違って魔力も使ってる」

「それを言うなら、猫の獣人も睡眠時間は長く必要だろ。日が完全に暮れるまで一時間ぐらいあるだろうからそれまではクウカに任せて仮眠を取るから、そのあとは俺が起きてるよ。明日にはエルフの里に着くみたいだしな」


 多少の無理は利くだろうと思ってそう言うと、ネネは不満そうに俺を睨む。


「ええ……いや、なんで怒ってるんだ? 無理をして倒れたら困るだろ」

「……一時間ほど、二人とも休むことになる」

「ああ、そうだな」


 ネネは心底怒った表情で俺に向かって言う。


「寝れるか、馬鹿」

「……いや、一時間寝たあとすぐに起きて見張りじゃなくてそのまま寝ていていいぞ?」

「その一時間が寝れない」

「なんでだ?」

「…………ランドロスが寝てるところで寝るのは、大丈夫。でも、ランドロスが起きてるかもしれないところの隣で寝るのは無理だ」

「なんでだ?」


 ネネは大真面目な表情で、自分の食事を喉奥に流し込んでから俺を睨む。


「……変なところを触ってくるだろ。ランドロス」

「…………めちゃくちゃ冤罪だ。いつも一緒に寝ているシャルは冤罪だと分かるだろうけど、他のふたりは分からないだろうからやめてくれ」


 ミエナは呆れたような表情を俺に向ける。


「ランド……確かにネネはクールぶってるけど慌てやすかったりでセクハラしたくなるよ。でもさ、ダメだと思うよ、そういうのは。気持ちは分かるよ。……気持ちは分かるなあ」

「分かりすぎだろ気持ち。違うからな。完全に冤罪だ」

「……いやぁ、ランドのことだしなぁ。色々としてそう」


 普段の言動のせいで一切信用がない。……めちゃくちゃ我慢しているというのに……。


「……まぁ、ネネ、ミエナもクウカもまだ寝ないだろうし別のベッドで寝ればいいだろ」

「それはそれで……」

「どうしろと……まぁ別に外で寝ても大丈夫だが」

「…………触らないというなら、一緒でいい」

「……素直じゃないな、ネネは」


 まぁ今更か。照れ屋なところも可愛いんだが。

 それから後片付けなどをしてから小屋に入ってベッドに寝転がると両隣にシャルとネネが寝転がる。


「……すみません。僕も見張りとか出来たらいいんですけど」

「こういうのは種族とか先天的なところが大きいから仕方ない。普通はもっと大人数で街道を沿っていくからそんなに問題ないわけだしな」

「……でも、ずっとおぶられてますし、ご迷惑をおかけしてます」

「大丈夫だって。……ネネも寝るから、話は明日にしよう。俺は一切気にしていないから」

「ん、んぅ……ごめんなさい」


 ネネは触ると怒るので、シャルの小さな身体をぎゅっと抱きしめて目を瞑る。

 可愛いし暖かいしいい匂いがするなぁ。と思っていると、ネネが俺の背中をツンとつつく。


「……どうかしたか?」

「……わ、わ」

「わ?」

「私も……そ、それを、してほしい」


 変なとこを触るだのなんだのと言っていたのに……。少し苦笑してから、シャルの頭を撫でてからネネの方に向いて抱きしめる。


「……ミエナやクウカの前で甘えるのは恥ずかしかったか?」

「…….うるさい」

「もっと普通に甘えていいのに」

「…………寝れなくなるから、もういい」

「はいはい。……まぁ、素直になるのは難しいよな」

「お前はいつも欲望に素直だけどな」


 急に毒を吐くなよ……。


「……いや、俺は結構我慢してると思うぞ。手を出してないしな。我慢してなければ百回は手を出してる」

「ひゃ……む、無理だからな。……無理だから」

「……おう」


 そのまま目を閉じて寝て、少しして小屋の扉が開いた音が聞こえて目を覚ます。どうやら日が暮れてクウカが入ってきたようだ。


 目を覚ましてネネを見ると、ネネは目を開けて気恥ずかしそうな様子をしていた。……もしかして、全然寝れてなかったのか?

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