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膝枕

 細かな問題がある中、馬車はゆっくりと進んでいく。

 ……奇しくも勇者パーティと同じ人数だが、内実は大きく違い、全員が俺のことを嫌っていたのに対して、このパーティは全員が俺のことを好いている。


 ……いや、ダメだろこれ……思ったよりも色々ダメだろこの旅……。もはや何をするにしても問題になるだろ。

 ミエナだけ恋愛感情ではなくただの性欲なのでまだマシだが……いや、マシだろうか。

 ……いや、まぁミエナはなんだかんだとクルルに片思いをしながらも交際を申し込むことが出来ないほど奥手だし、なんとかなる……よな?


 頭を抱えているとネネが俺に目を向けてポツリと言う。


「今日の夜も見張りをするんだから寝た方がいいと思う」

「あー、まぁ、それはそうだな」


 俺もミエナみたいに座ったまま寝るかと思っていると、ネネは自分のふとももをポンと叩く。

 膝枕をしてくれるということだろうか。しかしこの状況で…….と戸惑っているとネネの手が俺の肩を持って俺を自分の方に倒していく。


 仕方なくそのままふとももに頭を乗せると、筋肉は付いているものの男のものとは明らかに違う柔らかさといい匂いを感じる。

 ……どうしよう。気持ちいいし心地いいしで天国なのだが、天国すぎて半魔族にもあるツノが元気になってしまいそうである。


 ……嫌がって起き上がったらネネを傷つけるかもしれないが、この体勢で別のところが起き上がったらクウカやミエナにバレるだろう。

 クウカやミエナの脚が間近で見えている状況でそれはまずい。非常にまずい。


 グッと目を閉じて、ネネの匂いや柔らかさを感じないように寝ようとするが、そんな寝ようとして簡単に寝られるようなものではない。

 何か、この天国のような状況の中でも萎えるようなことを考えて……と商人の顔を思い出すと一瞬で気持ちが落ち着く。


 ありがとう商人。


「……まぁ、寝るか。ネネもあとで交代な。脚が痺れたら起こしてくれ」

「ああ。…………おやすみ」


 おやすみと言うぐらい、恥ずかしがって目を逸らさずに言ってもいいのに……などと思いながら寝ようとして、クウカがほんの少し足を開いてスカートの中を覗けるような姿勢をする。


 ……わざとなのか? いや、クルルでもないんだし、わざと下着を見えるようにはしないだろう。仕草も不自然なものではなかったし、見えそうに見えてギリギリで見えていないので違うだろう。


 男として気にならないわけではないが、男として覗くなんて卑怯な真似をするべきではないと考えてぐっと目を閉じる。


 目を閉じれば当然のようにカルアとクルルのことを思い出し、ふたりは大丈夫だろうかと不安になってくる。

 ふたりとも寂しがりで、特にカルアはなんだかんだと甘えん坊なところがあるし、クルルも何でもかんでも背負い込んでしまう性格だ。


 無理をしていないだろうか。頑張りすぎて体を壊したりしていないだろうか。


 それに……考えないようにしていたが、カルアはアルカナ王国の王女だった。見つかれば……いや、大丈夫か。カルアのことだからちゃんと見つからないでいてくれるはずだ。


 不安が募ってきて眠れずにいると、ネネの手が俺の頭を撫でる。


「……傷だらけの手で、ごめん」

「謝られても困る。……手、貸してくれ」


 頭の上に乗っていた手を手元に引き寄せて軽く握る。柔らかくて気持ちいいが、手のひらにはタコがあったり、少し皮が分厚かったりするのが分かる。手の甲や、特に指先には細かい古傷がたくさん見える。薄くなっているものも多いが、生々しい怪我の痕はネネの人生の壮絶さを物語っているようだ。


「……女らしくない」

「人によりけりだろ。そう思うかは」

「……ランドロスは、女らしい女の方が好きだろう」


 目を開けてネネの方を見ると、特に感情の読めない表情で呟いていた。……みんなのいる前でらしくないな。弱音を吐くなんて、そんなに……俺がクウカやミエナに取られるのが怖かったのだろうか。


 まぁ、ふたりとも見目はいいもんな。性格はとても恐ろしいが。


「まぁ……それはそうだけど」


 と、俺が言うと、握っていた手が小さくピクリと揺れる。


「ネネは可愛らしい女性だと思っているから、好きなタイプには当てはまってるな。……もちろん、好みとかじゃなくても、そんなの関係なく好きだけどな」


 俺がそう言うとネネは微かに笑みを浮かべ……。


「私も、ネネのことは大好きだよ」

「あ、ああ。……ありがとう」


 取るなよミエナ。俺の口説き文句を。いい感じの雰囲気になってたのに。


 微妙な空気の中、ミエナは俺の方に目を向けてじとりと睨む。


「私は座りながら寝てるのに、ランドは膝枕なんていいご身分だね」

「夜に見張りするんだからそれぐらいいいだろ……」

「……たしかに」

「納得するのか……」


 まぁさっさと寝るか。これ以上起きていたらミエナに「きゃー、ランドがスカートの中覗いてくるー! えっち」とからかってこられそうだ。


 俺はいいけど、ネネやシャルはそういう性的なものを含む冗談が苦手だろうしな。


「あー、ミエナ、昼頃に一度休憩をすると思うんだが、野外で料理とか出来るか? シャルに焚き火で料理をしてもらうのは不安でな」

「……そろそろ寝なよ、ランド」

「いや、色々と心配になってな。……もし野盗や魔物が来たら起こせよ?」

「もー、分かってるよ。もしかしてそこから見える景色がいいから寝たくないとか? やんっ! ランドのえっち!」


 ……もう寝るか。

 シャルもネネも旅のためにズボンを履いているのに、クウカとミエナは……いや、まぁミエナは迷宮によく泊まっているし旅慣れもしているから大丈夫という判断なのだろうが……クウカは大丈夫なのだろうか。


 多分俺がいるからオシャレをしようとしてるのだろうが……不安だな。俺が異空間倉庫に預かっている他の人のズボンを貸して渡すのも考えたが、当然シャルとはサイズが大きく違うし、ネネもクウカよりもだいぶ腰が細そうなので多分合わないだろうな。


 クウカも太っているわけではないが……俺の嫁は全員細身だからなぁ……。ミエナの服は会うかもしれないが、ズボンも持ってきてるだろうか。


 そんなことを心配しているうちにまぶたがうとうとと落ちてくる。……まぁ、なんとかなるか。馬車に乗っていられる時間も短いので、今はゆっくりと体を休めよう。


 結局一週間の間、ずっと動きっぱなしで疲れたし、すぐにシャルを背負って歩くことになるから、今のうちに体力を回復させないと……。


 こうやって体を長く動かすのは、やっぱり半魔族の体だと不利だな。……体力のことを考えるとシユウやグランが少し羨ましい。……そう言えば、魔族の残党とかも気をつけないとな……散り散りに逃げているはずだから、人里から離れていて歩きやすいような場所にはいてもおかしくない。


 そのまま意識が失われていく。……寝てる間にネネの匂いで体が反応したらまずいよな。などと思うが、まぶたが上がらずに意識が完全になくなった。



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