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見合い

 走って馬車に戻ると、心配そうにしていたシャルが俺の全身をグニグニと弄る。


「け、怪我はないですか? 痛いところは……」

「大丈夫。魔法で脅かしただけで戦ってすらいないからな」


 なされるがままに触られ続けてしばらくして解放されたと思うと、ネネが俺をジロジロと見て怪我の有無を確かめ、続いてクウカにペタペタと撫でられる。


「……もういいか? 追い払うのよりも怪我の確認の方が時間かかってそうなんだが」

「ランド、ワガママだよ。私だって女の子にペタペタされたい」

「……じゃあ、今度また襲って来られた時はミエナに任せるな」

「いや、面倒くさいからランドが戦って、怪我の有無の確認は私がされる感じで」

「馬車で待ってる奴が怪我しないだろ……」


 クウカからも解放されて馬車の中に座り直す。……野盗がこんなに早くから出るとなると街道を使わない方が安全だったかもしれないな。


「んー、でも私が戦ったところでみんなそんなに心配してくれないでしょ? 全身血だらけで帰ったらみんなにドン引きされそう」

「いや、返り血かミエナの血か分からないなら当然ちゃんと確認するぞ」

「……一応聞くけど、確認って服とか脱がす感じ?」

「当然だろ。他にどうやって確認するんだ」

「……よし、戦闘は可能な限りランドに任せよう!」


 なんでだ……ミエナはかなり強い方で、俺が来る前は迷宮鼠で一番強かったぐらいなんだし、ちゃんと戦ってくれよ。手加減も俺より上手そうだし、と思ってじとりと睨むとミエナは首を横に振る。


「……いや、私も女の子だから、流石に男の子に裸を見られるのとかは避けるよ。特にランドはえっちだし」

「えっちではない」

「えっ」


 えっではない。と、思っていると、他の三人からも「えっ」という表情を向けられる。……いや、俺よりもクルルの方が性欲強いし……。俺は男として当然の反応をしているだけだし……。


 俺が心の中で言い訳を重ねていると、クウカは少し顔を赤らめながら考え込む仕草を見せる。


「……怪我をしたら脱がされる……。合法的に、ロスくんに裸を見せて誘惑……」

「おい、クウカ」

「あ、い、いや! 大丈夫! そんなことしないから! 今日の下着かわいいの着けてきてないもんっ!」

「……お、おう」


 仮にかわいい下着だったとしても返り血塗れか怪我で血だらけなら怖いだけだろ……。シャルはクウカの反応を見て「しゃー!」と威嚇をするが、正直かわいいだけなのでクウカも怖がったりはしない。


「とりあえず、ミエナは基本的に遠距離で戦えるんだから返り血を浴びることはないだろうから戦ってくれ。クウカは戦闘はそんなに得意じゃないんだし、戦っている最中の周囲の警戒を頼む」

「……私は?」

「ネネは無理ばかりするから危なっかしいんだよな……。基本は戦えないシャルを守っていてほしい。あと周囲の警戒も。戦闘時以外は……負担が大きそうだが、夜の見張りを俺と交代で頼めるか? 人間のクウカやエルフのミエナは夜中の探知範囲が極端に狭まるから夜を任せるのは不安だ」


 負担が大きいという俺の言葉を聞いたネネの猫耳がピクンと揺れて、それから表情は変わらないまま尻尾がご機嫌そうにぴょこぴょこと可愛らしく動く。


「分かった」


 ……負担が大きくなると嬉しそうにするのは助かるんだけど、また無理をしそうで不安だな……。

 よしよしと頭を撫でようとした手を跳ね除けられつつ、空間魔法で地図を取り出して広げる。


「とりあえず、クウカは急な参加だから改めて道程を説明していくぞ」

「あ、はーい」

「まず、目的地はこの点の辺りだ。おおよそしか分かっていないが、草原しかないところにポツンとでかい建物があるはずだから見つけるのは簡単なはずだ。それでそこまでの道だが、今乗っている馬車でこの辺りに降りる」

「あれ? 馬車を乗り継いでいくんじゃないの?」


 クウカは不思議そうに首を傾げて、俺とネネがため息を吐く。


「……クウカは迷宮国出身か?」

「えっ、うん。そだよ?」

「迷宮国でもあると思うが、基本的に魔族や獣人は猛烈に敵対視されている種族だから人の街には寄れない。間違いなく荒ごとになるからな」

「ええ……」

「帰るか?」

「いや、行くよ。……宿とかないと辛いかもと思ったけど、ロスくんのためだもん!」

「……いや、宿ならあるぞ。異空間倉庫に小型の小屋が入ってるからな。……流石に一週間で買えたのは物置小屋みたいな小さなものだが」


 俺の発言を聞いたクウカは「ええ……」とドン引きした表情を俺に向ける。


「そんなに大きいものも出し入れ出来るの?」

「限界を試したことはないが、多分普通の城ぐらいまでならいける。まぁ、大きければ大きいほど、地面に置いた時に揺れて壊れやすいだろうから、実用なら普通の民家程度だな」

「入ってる小屋ってどのくらいの大きさ?」

「迷宮鼠の寮の一室ぐらいだな。ほら、俺が初めに住んでいたあたり」

「あー、五人だとかなり狭そうだね」


 クウカは少し考え込む表情をしてから残念そうに息を吐く。


「……えっちなことは出来ないね」

「しないぞ」

「でも、着替えとか身体を拭いたりとか大変そうだね」

「俺が外で見張りをしてる間にしたらいいだろ」

「覗かない?」

「覗くか。そもそも覗かなくても頼んだら見せてくれそうだしな。……それはともかく、この地図のこの辺りで馬車を降りる。それでここを真っ直ぐに進んで、エルフの里に寄る」

「エルフの里?」

「ミエナのツテがあるから問題なく入れる。何かあった時に物資を補給したいし、少しは魔物の脅威がないところで寝ないと体がもたないからな」


 なるほどと頷くクウカは不思議そうにミエナを見る。


「ミエナさんって迷宮国の出じゃなかったんだね。子供の頃から知ってたから、てっきり迷宮国の人かと」

「ん、まぁエルフは寿命が長いからね。まぁエルフの里出身でもなくて人里出身だから何度か尋ねたことがある程度だけど」

「あ、てっきりそこの出身かと思っていた。……親戚でもいるのか?」


 俺が尋ねるとミエナは小さく首を横に振り、気恥ずかしそうに頬を掻く。


「いやぁ……なんというか、んー、あれだね」


 妙に引っ張るな……と思っていると、馬車がガタリと揺れて、地図を覗き込んでいたクウカが俺の方にこけかけて……ぶつかる寸前で止まる。


「せ、セーフ!」

「大丈夫か? ……てっきりわざとでも機会があればひっついてくるかと思っていたが」

「いや……ロスくんに嫌われることはしたくないし、それで、ミエナさんはエルフの里に何で行ったの?」


 嫌われたくないならストーカーはやめてくれと考えながらミエナに目を向ける。


「あー、実は、お見合いでね」

「……へ?」


 クウカはミエナの言葉に驚いて力が抜けたせいか俺の方に倒れてしまいながら、キョトンとした表情でミエナを見る。


 当然のように俺やシャル、そこそこ付き合いの長いネネも目を開いて驚いていた。


 ……ミエナが、見合い?

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― 新着の感想 ―
[一言] あわかった、見合い相手に「ミエナは俺の女だ、すごく気持ちよかったぜ?」って言うやつだ
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