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野盗

 馬車に揺られながら地図と睨めっこをしつつ、横目でシャルを見る。流れでクウカを連れていくことになったが怒っていないだろうか。


 先程ミエナにハーレムパーティと揶揄されたが、まぁ事実としてミエナ以外の三人には好かれているし、シャルとネネは嫁だしであまり否定出来ることでもない。

 シャルは俺のために我慢しているものの、重婚そういうことが嫌いなようだし、クウカが俺にベタベタするのは嫌がるだろう。


 ……と、考えていたが、あまり怒った様子がない。

 地図から目を離してシャルの方に目を向けると、シャルは首を傾げて俺の方に目を向け返す。


「どうかしましたか?」

「……いや、クウカが急遽旅の仲間に入ったが、嫌じゃなかったかと」

「……まぁ、面白くはないです。夫を狙う人が堂々と目の前にいるのは。でも、心配しているというのは事実でしょうし、クウカさんはストーカーをしたり覗きをしたり、少し倫理観や道徳心に欠けていることに目を瞑ればいい人ですから、あまり親切を無碍にはしたくないです」


 その割に言葉に若干のトゲがあるような……まぁ俺を狙っているのも倫理観が壊滅しているのも事実ではあるけども。


「あはは……ご、ごめんね?」

「いえ、僕がお礼を言う立場で、謝らせると申し訳ないです」

「……でも、色々とね」

「んぅ……あまりひっつかないでくださいね。ランドロスさんは僕のですから」


 シャルの手がぎゅっと俺の服を摘む。

 確執はあるようだが、仕方ないか。いくらシャルが天使とは言ってもふつうは嫌だよな。

 もしもシャルのことを好きな男がシャルに近づいてきたら、絶対ぶん殴って追い出すな、俺だったら。そう考えるとシャルはほんの少しトゲがある程度だし、そのトゲも「僕はこれ以上嫁が増えてほしくない」という意思表示程度の可愛らしいものだ。


 ……ちゃんとシャルを愛してやろう。色々と負担をかけているし。

 まぁ少しいい気がしていない程度のシャルに対して……まさかネネが少し不機嫌だ。


 ネネは俺がいくら他の女の子とイチャイチャしていても気にせず寝たりしていたぐらいなので、クウカが増えても気にしないと思っていたが……。

 じっと見ているとネネは不満そうに口を開く。


「……ランドロス、一応言っておくけど私は嫉妬をしているわけではない」

「まだ何も言ってないが……」

「私はそもそも四人目だし、浮気などに対して何も言えない立場。気が張っているのは、その……斥候や隠密の役割が被るから役に立たなくなるかもしれないと思っているだけ」

「……ああ、ネネは役割とか気にするもんな」


 ネネもクウカも隠密行動を得意としている斥候で、純粋な隠密能力ならクウカ、逆に敵を探知するならネネ、クウカは土魔法を使った落とし穴やバリケードなどの工作が出来て、戦闘能力ならネネの方が上……と、役割は被っているが能力に違いがあり、それも含めて気になるのだろう。


 ネネはたびたび「人を殺すのは私がする」と主張していたように役目などを気にして、それを果たすのが良いことと思っているので役割を奪われることを危惧しているのだろう。


「……ネネの耳は頼りにしている。俺の空間把握も完璧ではないから助かる」

「……ん」

「あり合わせのパーティだからあまりバランスが良くないのは確かだな。斥候が二人に魔法使いが一人、天使が一人と魔法剣士の俺か。……欲を言えば前衛が俺以外もほしかったな」

「ロスくんがいたら大丈夫じゃないの?」

「俺が一人で四人守るのは手が足りない。まぁ、ネネとミエナはソロで迷宮に潜ることが多いぐらいだし、前衛も多少は兼ねれるだろうが。……まぁ、魔物ぐらいなら俺一人でなんとかなるが」


 一番恐れるべきは、やはり人間なんだよな。

 と思っているとネネがピクリと耳を動かし、続いてクウカが馬車の扉から身を乗り出して後ろを覗く。


「ロスくん、遠くに人が見えるね」

「……早速か」


 俺も覗いてみるが、目視出来る範囲には見えない。やっぱり本職の斥候は違うなと思っていると、ミエナは首を傾げる。


「早速って?」

「戦争と化け物の影響で野盗が増えているだろうという話だ」

「んー、魔法で足止めしようか?」

「ミエナの魔法だと街道を閉鎖することになるから他の人の迷惑になるだろ。ちょっと行ってくる。すぐに追いつくからそのまま進んでいてくれ」


 馬車から降りてしばらく待っていると、馬に乗った男達が……いや、数人女も混じっているようだ。

 農村が重税で立ち行かなくなった結果……と容易に想像がついてしまい、悪い人をぶっ倒すなんて気分にはなれない。


「……まぁ流石に助けてはいられないが」


 どうせ助けにはなってやれない。流石に事情を鑑みれば同情はするが……。

 手を前に向けて、赤い雷を放つ。


 天の雲を引き裂くような轟音が響き渡り、彼らの乗っていた馬が怯えて暴れ出す。


 暴れ馬から落ちた野盗の方に足を運び、しゃがみ込んで視線を合わせつつ口を開く。


「……事情は話さなくても分かる。お前は、お前達は悪くない。ここにはいないが、きっと家で幼子が腹を空かせているのだろう」


 怯えと混乱の見える表情と、俺の言葉の意味を探ろうとする視線。同族の……人殺しの昏い色はまだ見えない。


「だが、善悪に限らず、野盗などしていれば善人を傷つけるだろうし、反撃にも合うだろう。奪うしか生きる方法がなければ仕方ないのだろうが、罪は罪でいずれ報いとなって帰ってくる」

「っ……」


 やっと俺の言葉の意味が分かったのか、男は何かを反論しようして、俺の言葉によって遮られる。


「あと半年もすれば、この辺りに飢えはなくなる。もう種は蒔かれているんだ」


 カルアの蒔いた、食料を生み出す魔法理論はすでに人に伝わっている。カルアの多忙や今回の事件のせいで遅れが発生してはいるが、食料を他国からの輸入に頼っている迷宮国では非常に有用なものであり……間違いなく全力で研究と実用化はされていっているはずだ。


「っ……種?」

「ああ、種はもう蒔かれた。だから、俺はお前たちを見逃す。半年耐えてくれ。もうこんなことをしなくて良くなる。間違いなく……野盗に落ちるよりも被害は少なくて済むから」


 そう言ってから、少額だけ金銭を置いていく。


「追うなよ。次は殺すことになるから」


 説得出来たのかは分からない。

 圧倒的な力を持つ者が相手によく分からない理屈で見逃してもらえたと思うだけで、他の相手にする可能性は高い。


 ……だが、止めようと思ったら殺すしかなくなる。カルアが止めてくれた手を汚したくはない。

 何より、農民が野盗に堕ちたのならば、まず間違いなく村には子供がいる。こいつらを殺せば、ここにいない子供も死ぬ。


 ……放っておけば、別の相手に被害がいく可能性が高いと分かっていても、殺せない。

 正しい行動でも正義でもなく、明らかに間違った判断だが……。


「頼む。半年、耐えてくれ」


 カルアも、シャルも、クルルも……。苦しいくせに、ずっと人を殺したことを後悔しているくせに、俺の代わりに人を殺そうとしたネネが悲しむだろう、俺が殺せば。


 半ば逃げ出すように、俺は馬車を追う。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今は違くても調子にのったミエナをランドがわからせてなし崩し的にハーレムに加わる未来が見えるよ
[一言] あれ、ミエナってもうハーレムメンバーじゃなかったっけ?(混乱中)
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