性癖
今回、俺が考えた道筋は、まず始めは街道を行く乗り合い馬車に乗って、街の近くにきたら降りる。
ほんの少しだが馬車に乗っている方が安全で楽だろう。人間の街に辿り着く前に降りたら獣人やら魔族やらで問題にはならないだろうしな。
というわけで事前に馬車に予約を入れて定刻通りに来たのだが……どうにもトラブルがあったらしい。
御者の男が馬車の中に顔を出して軽く頭を下げる。
「すみません……もう一人、予約を入れていた方がいたんですけど、どうにもまだ来ていないようでして……もう少し待っていただいても……」
ミエナは仕方なさそうに頷き、シャルも同じような反応をし……。俺はなんとなく嫌な気がして御者の男に尋ねる。
「……その予約、もしかして16.17歳ぐらいの女か? 背格好は普通ぐらいで、髪をこう結んでいて、表情があどけない感じの人間」
「ええ、もしかして一緒に旅をする予定だったんですか?」
「いや……そのつもりはなかったんだが……」
俺は深くため息を吐いてからその人間の名前を呼ぶ。
「クウカ、いるんだろ。出てこい」
反応はなく、御者の男は不思議そうに首を傾げる。
「ランドロスさん、流石のクウカさんも何ヶ月もの長旅にストーカーをしについてきたりは……」
とシャルが言い、俺はもう一度呼びかける。
「クウカ、今なら頭を撫でてやるから出てこい」
俺がそう言った瞬間、馬車の底が少し揺れて、底からクウカがひょっこりと顔を出す。どうやら馬車の底に張り付いて隠れていたらしい。
「……おはよう、クウカ」
「おはよ、ロスくん」
「……色々と言いたいところだが、今日は一言にする帰れ」
「いや」
「帰れ」
「いや」
同じやりとりを何度もして、クウカはじっと俺を見る。
「役に立つよ。他の国に行くなら人間はいた方がいいでしょ? 何かあったときに私が代表して話をしたらだいたい大丈夫だろうし、シャルちゃんを前には出したくないでしょ?」
「……それはそうだが、ネルミアが困るだろ。クウカがいなくなると」
「ネルには許可ももらったよ。とりあえず他のパーティに入るって」
「……何ヶ月もの旅になるんだ。用意はしていないだろ」
「チヨさんが私の分も用意してくれたよ!」
「……俺が持ってるのかよ、クウカの荷物」
はあ……と深くため息を吐く。
シャルとネネに目を向けると、ネネは興味なさそうにそっぽを向いてシャルは助けを求めるみたいにミエナに目を向ける。
「……ネネとシャルママに加えてクウカちゃんまで一緒に旅をしたらさ、私までランドのハーレムパーティに加入したみたいになりそうだなぁ。男一人で女四人でそのうち三人が好きってなると」
「そうだよな。ミエナは来てほしくないよな」
「んー、いや、追い払ってもついてくるだろうし、そうなると遠くからストーカーされるわけだよね? そっちの方がお互い危なそうだから普通に連れて行っていいんじゃないかな」
まぁ、クウカは無理矢理にでも付いてくるか……。そうなるとクウカは離れて歩くことになるので、もしものときに咄嗟に助けることが出来なくなるので危ないかもしれない。
「……いや、でも……しかしな……こちらのギルドのことで頼るのも」
「私がロスくんの力になりたいだけだから気にしないで」
「気になるに決まってるだろ」
ガリガリと頭を掻いてため息を吐く。
「無理をするなよ。場合によっては、近くの人間の街に放り込むから、そこからまた馬車とかに乗って帰るように。それに同意するなら連れて行く」
「場合って?」
「危険だったりしたらだ」
「危険だったら、尚更一緒に行くから同意は出来ないよ。でも、ついて行きたい」
「ワガママ言うなよ」
むー、とクウカは俺に目を向けて首を横に振る。
「私は着いていきたいんじゃなくて助けになりたいの。ロスくんの」
「いらない。必要ない。危険なことをするな」
「……ロスくんの秘密をバラすよ」
「!?」
俺の……秘密? 一体何を……?
いや、クウカにストーカーをされている以上、かなり多くのことを知られてしまっている。特にクウカのストーカーに気がつく以前はかなりノーガードで覗かれていただろう。
カルアやシャルと交際する以前の時期となると……シャルやクルルの写真を見ていたら興奮してしまって……ということもある。
…………ダメだ。知られるわけにはいかない。引かれるかもしれない。
「……クウカ、秘密が何かは分からないが、それをしたら俺はお前のことを嫌いになるぞ」
「で、でも、それでも、嫌われても助けになりたいんだもん!」
クウカと睨み合い、仕方なくため息を吐いてから彼女の頭に手を乗せる。
「……隠れて着いて来られる方が困るか」
「ロスくん!」
「でも、邪魔をするなよ」
「しないよ!」
「旅の途中もシャルやネネとイチャイチャと引っ付くけど、邪魔をするなよ?」
「そ、それは……の、脳が壊れる」
そんなことを口にしながらもクウカは馬車の席に座る。
「いいよ! 分かったよ! 存分にロスくんに片想い中の私の目の前でイチャイチャすればいいさ! 私は……私は……! 最近、好きな男の子が他の女とイチャイチャちゅっちゅしている姿にちょっと興奮出来るようになってきたから無問題だよ!!!!」
「えぇ……」
と、ミエナがドン引きした声をあげるが、ミエナの趣味も相当やばいからな? 俺はクウカにドン引きするが、ミエナはドン引きする資格はないだろう。
「むしろ、ちゅーしてるところとか見たら変な気持ちになって嬉しいまであるね!」
「……その、なんか、ごめんな。クウカ」
クウカの突然の性癖の暴露により、なんとも言い難い空気の中馬車が出発した。
……うん、なんか、普通に嫌がられるのより、興奮された方がイチャイチャしにくいな。




