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不老不死

 クウカが目を覚ましてから数日が経過し、クウカもすっかり元気になってギルドに帰っていった。

 なんだかんだと人の手も借りながら旅に必要な準備が済み、後はもう向かうだけだ。


 今すぐにでも出て行きたい気持ちもあるが……まぁ世話になったトウノボリにちゃんと挨拶をするのが筋というものだろう。


 ……まぁ、トウノボリの年齢からして数ヶ月なんて一瞬らしいので挨拶をしなくても気にしないかもしれないが。


 などと考えながらトウノボリの部屋に行って呼び鈴を鳴らす。

 ……そう言えば、部屋に来るのは初めてだな。


「はいはーい。あれ、ランドロスくん、どうしたの?」

「ああ、用意が終わったからそろそろカルアとクルル達を迎えにいこうと思ってな。世話になったから挨拶をしようと思って。……まぁ、早ければ2ヶ月、遅くても半年もすれば帰ってくるからトウノボリにとっては一瞬かもしれないが」

「……出る前に、お茶でも飲んでいく?」


 シャルとネネはしっかりと準備を終えていたが、ミエナはアホなのでまだ持っていくものを整理するのに時間がかかっていた。30分もかからないだろうけど、お茶を飲む時間ぐらいはあるか。


 部屋に入ると少し芳香剤の匂いが強く、鼻を少し掻く。


「あ、えっと……ごめん、臭かった?」

「いや、臭くはないが芳香剤の匂いが……」

「ごめん、ちょっと加減が分かってなかったかも……久しぶりで」

「トウノボリの久しぶりってなると、万年単位か……」


 一人部屋のはずで、多分シャルやネネやミエナも入ったことがないはずの部屋なのに机の前には椅子が二つ並んでいて、片方は少し古ぼけていたがもう片方は綺麗なものだった。


「……もしかして、ずっと部屋に遊びに来るのを待ってたのか?」


 俺が部屋の隅に飾られた花を見ながら尋ねると、トウノボリはぶんぶんと首を横に振って否定する。


「い、いや、そういうわけじゃなくてね」


 そう言ったあと、トウノボリは少し押し黙ってから口を開き直す。


「……いや、うん。実は待ってた。……コーヒーでいい?」

「何でもいい。悪いな少し遠慮していた。シャル達もトウノボリには世話になりっぱなしだから、あまり気安くは接することが出来ないみたいでな」


 椅子に腰掛けると、トウノボリはこぽこぽと音を立てる機械から黒い液体を出してカップに注ぐ。独特な匂いが部屋の中に広がっていく。


 物珍しさからトウノボリの手元を見ていると、彼女は照れ臭そうに手元を隠す仕草を見せたので、俺はそれから目を逸らして部屋の隅にある花に目を向ける。


「……気安く接することが出来ないのか、そもそも私のことが嫌いなのか分からないけどね」

「……らしくないことを言うな。どうかしたのか?」

「ん……いや……好かれるような性格ではないと自分でも分かってるからね」

「シャルは世話になっている人を嫌うような性格じゃない。……ネネは嫌いだろうけどな、俺への好意をバラされたわけだし」

「……私も頭を刺されたからチャラってことにならないかな? 私のおかげで結ばれたんだし、結果オーライだしね?」

「俺に聞かれても……」


 コーヒーが俺の前に置かれて、トウノボリは俺の正面に座る。初めて会ったときに比べて明らかに表情豊かで人間味のある仕草をしていた。


「まぁ……私も、好きな人のことをバラされると嫌かも。……謝ろうかなぁ」

「案外そういう心の機微とか分かるんだな」

「あ、う、うん。そりゃね、私も人間だしね」

「6万年前には好きな男とかいたのか」

「そ、そりゃ、そりゃあもうね、そうだよ。私は学生時代から美人と評判でモテモテのモテだったからね。男をこう手玉に取りまくったものだよ。……疑ってないよね」


 トウノボリにじっと見られて、特に疑う必要もないので普通に頷く。


「まぁ、特に疑うことはないな」

「そ、そうかな。えへへ。……コーヒー、美味しい?」

「味は苦いな。でも、いい匂いがする」


 カルアは苦手だろうな……と思いながらコーヒーを飲んでいく。

 ……話題ないな。と思っていると、トウノボリは思い出したように口を開く。


「そう言えば、遺伝子検査の結果出たよ」

「あんまり興味がないというか、聞いても分からないと思うが」

「結論から言うと……人間の母親の方はほぼ純粋な人間だったけど、父親はだいぶ変わってるね」

「……変わってる?」

「魔族をベースに、エルフの長命と古代人の希少魔法を追加して、獣人やらも少し混ぜられてる。遺伝子操作じゃなくて品種改良かな。……多分こんなに都合よく各種族の強い部分ばかりが出てくることはそうそうないだろうから、たくさんはいないだろうけど、ここまでされると少し驚くね」


 そう言えば、メイタークもネヘルトはエルフの血が入っていると言っていたか。


「……トウノボリ、俺は大丈夫なのか? シャル達と共に歳を取りたいんだが」

「ランドロスくんは人間と同じ寿命っぽいよ。……長生きしたくないの?」

「長生きはしたいけど、嫁に先立たれるのは恐ろしい」


 トウノボリは口元を笑うような形にしながら、明らかに視線や仕草は緊張したようにガチガチになりながら、ほんの少し震えた声で俺に尋ねる。


「……永遠の命に興味ない? い、いや、ほら、カルアちゃんがいたら多分再現出来ると思うんだよね。魔王とか勇者とか関係なしにさ」

「まぁカルアなら出来そうだとは思うけど」

「ほら、そしたらさ、みんなでゆっくり出来るよ。命が長いと、色んなことを焦らずに出来るんだよ。ランドロスくんもお嫁さんと毎日イチャイチャしたいと思っていても、なかなか時間が取れないでしょ? 不老不死ならそれが出来る!」


 まぁ、ずっとイチャイチャし続けるのは魅力的ではあるな……。無限にシャルの細くてふにふにのお腹を撫で続けたいと思ったことは一度や二度ではない。


 何故か怯えたように緊張して強張った様子のトウノボリを見つつ、コーヒーに口を付ける。


「まぁ魅力的ではあるか」

「……なっちゃう? 不老不死。もちろん老いも若いも自由自在だよ」

「でも、席ってものがあるんじゃないか? 土地には限りがあるし、食料にも限りがある。俺が大切な人の大切な人の大切な人の大切な人……みたいにさ、無限に不老不死みたいにしたら食うもんがなくなるだろ」

「いや、ほら、この塔みたいに空間魔法で広げて」

「理屈みたいなことはサッパリだが、それが出来るなら、トウノボリはこの世界に来てないんじゃないのか? 元の世界にいられなかったのは、魔法技術がそこまで万能じゃないからだろ」


 トウノボリは少しずつ、少しずつ、表情を歪めていく。口元の笑みはなくなって、唇が震えるようにして、けれども何かを取り繕うように笑って見せる。


「あ、はは、でも、カルアがいたらどうにかなるかもしれないよ」

「……無理ってことはトウノボリが一番分かってるんじゃないのか? それが出来たら、大陸の外からくる化け物の相手なんかせずに、塔の中を空間魔法で馬鹿みたいに広げたらいいだろ」


 トウノボリはポリポリと頰を掻いて「図星を突かれちゃったかー」と口にしてからコーヒーカップを持ち上げる。


「……トウノボリ、もしかして寂しいのか?」

「え、な、何が?」

「いや、てっきり何万年と生きているから平気なのかも思っていたが、俺たちと何ヶ月か離れるのが寂しくて、その後ずっと一緒にいられるという希望が欲しいとかそういうことのように見えて」

「いや、いや、そこまで子供じゃないよ。誰よりも大人だよ、私は」

「わざわざ出掛ける前の俺を部屋に誘ってるし、やっぱり離れるのが寂しくてワガママ言ってるだろ」

「ち、違うよ! ……みんなの夢でしょ、不老不死。友達だから分けてあげようかと思っただけで……」


 トウノボリは慌てながらそう言い、俺は呆れてトウノボリを誘う。


「一緒に行くか?何ヶ月か放置するぐらいなら平気だろ」

「……行かないよ」


 そこまで寂しいならついて来ればいいのに……。

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