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攻められる

「まぁまぁ、ほら、ランドロスも飲みなよ」

「……変な酒だな」

「お米から作ったお酒だよ。まあ、正確にはお米から作ったお酒と同じ成分の液体だよ」

「何だそれ……」


 得体の知れないものだが、まぁ飲むのは問題無さそうなので口に含むと、ギルドで飲んでいるものよりも明らかに濃い酒気を感じる。

 下戸ではないがあまり強い酒を飲んだ経験がないので少し眉を顰めると、トウノボリは首を傾げる。


「あれ、お気に召さない感じ?」

「……いや、美味いとは思う。飲み慣れない物だから、悪酔いしそうだなと」


 俺が隣にいるネネを見てそう言うと、ネネは少し眠たそうなとろんとした瞳で俺を見つめる。


「何こっちを見てる。全然だぞ。全然まだ酔ってない」

「いや、酔ってるやつはみんなそう言う。ほら、酒ばっかじゃなく水とかも飲んで」


 俺が水を渡すと、ネネは嬉しそうにこくこくと喉を鳴らして飲んでいく。


「……ご機嫌だな」

「そんなことない。とても不機嫌だ。ランドロスは、すぐに先生の方にばかり行く」

「いや……ひとりで料理させるのは不安だろ? ネネが料理すると言っていたら、ネネの方に行っていたよ」

「……嘘吐き」

「嘘は吐いてないって……」


 困りながら話をしていると、ネネは楽しそうにくすくすと笑みを浮かべる。

 そんなに俺を困らせて、好き好きと言わせるのが楽しいのか。構ってちゃんだ。


「はあ……そんなに、ネネのことが好きだって言わないと不安か?」

「不安じゃない。……ただ」


 ネネは俺の肩を掴み、じっと俺を見つめる。


「ランドロスに好きと伝える方法を、私はこれしか知らないんだ」

「普通に好きと言えよ……。普通、そんなツンケンしたことを言えば「嫌われてるのかな」と不安に思うだろうよ」


 じっと俺を見つめるネネは、面白そうにクスリと笑みを浮かべる。


「そんな勘違いはしないだろ。……可愛い奴め」

「…….いや、そうなんだけどな」

「そんなに好きだって言って欲しいのか?」


 いつのまにか立場が逆転している。酔っているからか、あるいは吹っ切れたあとだからか。

 少し気恥ずかしく思いながら「ああ」と口にすると、ネネは俺の頬に手を当て、そのまま反対側の頬に口付ける。


「……ふふ、赤くなって、可愛い」

「な、い、いや、ネネ、お前……酔いすぎだろ」


 思わず顔を伏せようとすると、顎を触られて顔を下げるのを防がれる。


「……ランドロス、恥ずかしくなると何か言おうとして、少しだけ口を開ける癖があるよな。でも、結局言葉は出ない」

「……そういう、人の情けないところを観察するな」

「好きだから、する」


 ネネは真剣な表情で俺を見つめ、俺はバッと立ち上がってネネから逃げようとするが、ネネは俺を逃さず、壁際に追い込んで、壁に手を付いて俺を逃さないようにする。


「お、おい。いつもの復讐のつもりか? ……いや、本当、相手からグイグイと来られるのは慣れてないから……というか、酔っ払って絡むなんてらしくないぞ」

「……ランドロスは、忘れたのか? お前を先に好きになったのは私だ。その癖、お前はいつも自分が私を口説き落としたかのように振る舞う」


 壁際に追い込まれて硬直しているとネネの手が俺の肩を掴む。


「好きと言えと言ったのは、ランドロスだ。好きに振る舞えと言ったのも、ランドロスだ」

「それはそうなんだけど……。これ、普通は男女逆じゃないか?」

「普通というなら、こんな全身傷だらけの女は忌避する」

「いや、傷があろうとなかろうと、ネネは魅力的だしな」

「……そう言ったからには、もう離さないぞ。子供じゃないから興奮しないとか言うなよ」


 そんなこと言うわけないだろ。

 ……というか、我慢しないネネはこんな感じなのか。どうにも男らしいというか、シャルやカルア、クルルと言った他の嫁とは違って……俺を誘ってスキンシップをするのではなく、自分からやってくる。


 男らしく振る舞わなければと思っているのに、照れが優ってしまう。


「……あ、あー、じゃあ、クルルには悪いが、もう籍を入れるか?」

「望むところだ」


 何かの勝負をしてるのか? ……ああ、これ、多分照れたら負けと思ってるな。

 完全に出来上がっているネネを見ていると、ミエナが立ち上がる。


「私も望むところだよ!」

「……ミエナとは結婚しない」

「なんで!?」

「いや……なんでって……言う必要あるか?」


 ミエナは別に俺のことを異性として好きではないし、俺も同様だから……なんて今更だろ。


「あのね、ランド、ちょっと勘違いしてるよ」

「何がだ?」

「私をロリコンだと思ってる。小さな女の子しか好きになれないと思ってるみたいだけど、違う」


 えっ、まさか、コイツ俺のことが……!?


「私はね、今のランドみたいな、凛々しい表情の女の子に壁ドンされて追い詰められるみたいなのも興奮するタイプだよ!!」

「……ネネも狙ってるなら、余計に結婚は出来ないな。いや、そもそもするつもりもないが」

「ずーるーいー! ランドはいっつもそうだ! 独り占めばかりして!」

「……いや、キミカを好きなんじゃなかったのか」

「ふん、どうせキミカちゃんと仲良くなったら隣から取っていく癖に」

「そんなことしねえよ……」


 俺をなんだと思ってるんだ。

 そしてネネはいつまで俺を壁ドンし続けるんだ。仕方なくネネの肩を押し、その女性らしい感触に少しドギマギしながら席に戻る。


「……恋バナばっかり、やめない? おばあちゃん、もう歳も歳だから話に乗れなくてちょっと寂しくなってきた」

「おばあちゃんも恋をしたらいいんだよ。私とかどう? 大切にするよ」

「……ミエナはないかなぁ」

「私、美少女エルフキャラなのに扱い酷くない? これでも街では色んな人から告白されてる系エルフなんだけど……?」

「いや、美人だとは思うよ。うん」


 酒を飲みながら考える。

 俺もミエナは美人だとは思う。綺麗な金糸の髪もスッとした輪郭や柔らかな笑み、整った顔立ち。

 だが……こう、エロくない。まったくもって……エロくない。


 多分全裸で迫られても興奮出来ない自信がある。

 何というか……その、人格が、エロくないのだ、ミエナは。


 ネネに攻め返された照れを誤魔化すようにごくごくと酒を飲む。……かなり各々、好き勝手に飲んだり話したりしてるな。少人数なのに。


 ……今思うと、さっきのネネのやり方は俺の真似か。好意の伝え方が分からないと言っていたから、きっと俺の真似をしたのだろう。


 ……自分があんな風にされるとかなり恥ずかしいな。行為を改めるつもりはないが。

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