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酒盛り

 さて、話が終わると一気に暇になるな。

 ネネが腕の中で「風呂に入ったばかりで暑い!」と文句を言っているのを抑えながらシャルに目を向ける。


「おおよそ、四人分の旅の荷物は持っているから、簡単な整備と予備の準備と一週間後に食料をもらうこと以外にはあまりやることがない。ああ、いや、孤児院の方に連絡を入れるために人に頼むぐらいはあるか。まぁ、何にせよ一週間は身動きが取れないのと、やることがないから、その間ならいくらでもお願いを聞けるんだが……」

「えっと、ワガママを聞いてくれるってことですか?」

「ああ、多少無理なことでも善処する」


 シャルは少し迷った表情を浮かべてから、ネネの方をチラチラと見る。


「え、えっと……その、僕もネネさんにしているのみたいなこと、してほしいです」

「えっ、椅子にしたいのか? ま、まぁ……か、構わない……が……」

「ち、違いますっ! そ、その、抱っこがいいなぁって……」

「ああ、そういう……もちろんいいぞ。というか、俺が嬉しいだけだな。もっと困るようなことでもいいんだが」


 ネネが必死に俺の腕からもがいて出て隣の椅子に座り直して俺を睨む。シャルは「急かしたわけではないのですけど……」とネネにペコリと頭を下げて、俺に向き合うような形で膝の上に乗る。


 ネネも小柄だが、やっぱりシャルは小さくて可愛い。

 あまりに軽くて柔らかいため、ネネにしていたようなギュッと強く抱きしめるようなことをしたら怪我をさせてしまいそうだったので、膝の上から落ちないように支える程度に抱いていると、シャルは上目遣いで俺を見つめて誘うような仕草でチョンチョンと服を引っ張る。


 ネネと違って思いっきり抱きしめるのは怖いな、と思いながら抱く力を強めると、シャルの表情は溶けるようなものに変わり頬や口元がふにゃふにゃになる。


「あ、ランドロスに頼みたいことがあったんだけど、私もひとつだけいい?」

「……トウノボリ、妻でもない女性を抱きしめるのはちょっとな」

「違うよ。遺伝子を調べたいから、そのサンプルを提供してほしいなってだけだよ」

「遺伝子?」

「なんて説明すればいいかな。んー、血が繋がってたら色々と似るでしょ? その繋がりの中身というか、人の設計図みたいな」


 つまり、どういうことだ? と首を傾げると、トウノボリはピンと指を立てる。


「それを調べたらランドロスの先祖についてある程度は分かるの。まぁかなり大雑把にしか分からないけど、希少属性のルーツが調べられるかもなって。ついでに病気とかに関しても検査してあげるよ」

「はあ……まぁ何でもいいが」


 トウノボリに「これで頬の内側を擦ってね」と言われて変な小さい棒と袋を渡されて、言われるままにそうしてからトウノボリに渡すと、シャルがじとりとした目でトウノボリを見る。


「変なことに使わないですよね?」

「使わないよ……。というか、そういうこと言ってるとそういう願望があると思われるよ?」

「なな、なっ! ないですっ! そんなことしないですよっ!」

「ええ……焦り方がガチのやつ……」

「ち、違いますっ! ちゅーならいつもしてますもんっ! わざわざ間接ちゅーを狙う必要はないですっ!」


 シャルは俺の上でパタパタと動いて反論して、その反論を聞いたミエナがガックリと項垂れてぶつぶつと言う。


「えっ……ママ、口の中を舐めるようなキスまで……の、脳が壊れる……。わ、私、百年も生きてきて女の子とそんなことしたこと……。えっ、もしかしてマスターもランドにそういうことをされ……ね、寝取られ……?」


 俺もミエナもそういう意味では寝てないし、そもそもミエナのものではないのだから寝取られではない。普通に好きだった女の子が他の人と交際を始めただけである。


「……ランド、ランドロスが、憎いよ」

「俺に俺への憎悪を愚痴るな」

「私だって……あの悪そのもののランドロスのように、女の子をたくさん侍らしたかったよ!!」

「俺への陰口を俺にするな」


 ミエナは「くそう、くそう」と悔しそうにする。


「……あのな、ミエナ。……人同士の関係何だから取ったとか取られたとかじゃないだろ。お互い好きになったってだけのことだ」

「浮気者に真っ当なことを言われたよ!?」

「……それを言われると何も言い返せなくなる」

「シャル、浮気者のランドじゃなくて私にしない?」

「えっ、いえ、僕が好きなのはランドロスさんですから……。あと、その……ミエナさんも浮気出来たらしそうですよね?」


 まぁ、キミカのことが好きになったと言いながらクルルやシャルやカルアや、と可愛いロリに反応しまくってるしな。俺と同じ立場になったら間違いなくしてるだろう。


「…….うう、もうヤケだ。旅に出る前の景気付けとして、飲むよ!」


 ミエナがそう言うと、暇そうにしていたトウノボリがパッと反応してミエナを見る。


「飲む!? お酒飲む!? よし、お姉さんたくさん振舞っちゃうよ! あ、おつまみとかも作ろうかなぁ! ランドロスとネネも飲むよね!?」

「ええ……突然はしゃぎ始めたぞ、この神」


 そういえば昨夜も飲もうとしていたなぁと思っていると、シャルがポンと俺の上から降りる。


「えっと、お料理なら僕が作りましょうか? その、一応サクさん達に習っているので……」

「えっ、いいの? 人の手料理はなかなか食べれないからありがたいね。お酒に合うのがいいんだけど……」

「えっと、よくランドロスさんがお酒を飲みながら食べてるような奴ですよね」


 シャルはパタパタと食糧庫の方に行ってしまい、なんとなく寂しい気持ちになる。

 というか……酒を飲む前に、【羊毛数え】のギルドに行って、孤児院の方に伝言を頼みたかったんだが……まぁ、ネネも乗り気のようだし諦めるか。


 トウノボリはご機嫌そうに酒を取りにいき、ミエナとネネと俺だけ残る。


 ミエナは先程までのぶつくさと言っていた不満そうな顔をやめて、ネネの方に目を向ける。


「……いつから? ネネは」

「何がだ」


 ネネはそっぽを向いて答えて、ミエナは困ったように笑う。


「私も、ネネのことは心配してたんだよ? 教えてくれてもいいじゃんか」

「好意がバレたのは……夏の終わり頃だ」

「バレたのはって、告白したんじゃないの?」

「するか、バカ」


 ネネは逃げるように机に突っ伏して、代わりに俺が答える。


「あー、トウノボリが勝手にバラしてな。それから少しして、まぁ交際が始まった感じだな」

「付き合ってはない」

「婚約が始まった感じだな」

「……それもしてない」


 俺の返事を聞いたミエナは不思議そうに首を傾げる。


「ランドロス、小さい女の子以外もいけたんだね。まぁネネは小柄だけど」

「いや、俺はたまたま好きになったやつが子供のことが多いってだけで……。まぁ、割と大人の女は苦手かもしれないが。ここに来るまでに関わった大人の女って、ルーナとレンカの勇者パーティだけだしな」

「私も苦手なの?」

「……ほとんど男として見てるしな。平気だ」


 しばらく話していると、酒を台車で運んできたトウノボリと、両手に食材を持ったシャルが戻ってきて、シャルはそのまま食堂の奥にある調理場に向かう。


「シャルに任せてばかりだと悪いから俺も手伝ってくる。先に飲んどいてくれ」

「げへへ、こうやって友達とお酒なんて何万年ぶりかな。……あ、酔わせてお持ち帰りしようとか思わないでね?」


 お持ち帰り? ……ああ、部屋に連れこんで変なことをするということか。


「ネネ以外はしないから安心しろ」

「それなら安心だね」

「……私は一切安心して飲めなくなったな」

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[一言] クウカ「あれぇ〜、レギュラー化すると思ったのに出番は?」
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