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ランドはそういうところあるよね

 ミエナの言葉を聞いたシャルは小首を傾げる。


「エルフの里って……人間の国の中にあるんですか?」

「んー、この国に似てるかな。国の中に小さな国があるみたいな感じになってるのが現状。この国とは違って仲は悪いけどね」

「どこにあるんだ?」

「地図上ならこの辺りかな」


 ミエナは机の上に置いてある地図に指差しているようだが、机の下でシャルの脚をガン見している現状では見ることが出来ない。


「シャル、どの辺りなんだ?」

「……えっと、そろそろネネさんの下から出てきません? えっと……ちょうど目的地に真っ直ぐ向かって目的地と現在地の真ん中ぐらいですね」

「……街道からは逸れるか。地形としては割と平坦ではあるが……」

「僕なら平気です。……と、言いたいですけど……」

「俺が背負って行くから大丈夫だ」


 シャルが申し訳なさそうに深々と頭を下げるが、合法的にシャルと引っ付けるのは俺にとって嬉しいだけである。


「とりあえず、エルフの里を通るような道にするか。少しでも補充が出来る方がいいしな」

「ん、じゃあ直線を描くような感じの通り道にする?」

「いや、ある程度は高低差が少なかったりして歩きやすい道を選ぼう。真っ直ぐ行くのよりかは結果的に早くなる」

「んー、とは言っても地図では高低差は分かっても歩きやすいかどうかまでは……」

「植生とか土地の特徴はトウノボリが誰よりも詳しいだろ」


 トウノボリの脚の方に目を向けると、彼女は「……そろそろ出てこない? 流石に机の下から覗き込まれてたらちょっと恥ずかしいんだけど」と言ってから答える。


 普通に男の俺と裸で風呂に入ろうとしていたのに脚を見られるのは恥ずかしいのか……。いや、一方的に見られる状況だからだろうか。


「えーっと、まぁ、知識は古いけど定期的に点検してるから大丈夫かな。とりあえず私の持ってる地図に良さそうな道を書くね」


 トウノボリは何かを書いた後に机の下に地図を渡す。

 簡単なルートと、何故そこが歩きやすいかを書いてあり分かりやすい。


「あと、行き道だけになるけど運河を使う方法もあるね」

「関所だらけだし人も多いから河は無理だな」

「じゃあ多分このルートがいいかな。……あー、でも、動物とか果物とか少ないから道すがらの狩りや採集で食料を得るのは難しいかも」

「……いや、早めに移動するのを優先したいし、俺の積載量なら途中で補給なしでもいける可能性が高い」

「そっか。あー、帰り道はもう冬になるから、別のルートを通らないとダメかも」

「通れなくなるのか?」

「いや、地形的に冷えやすいんだよね。子供もいるなら避けた方がいいかな」


 ああ、季節か……これから寒くなるもんな。帰り道は嫁みんなとくっついて暖を取りたいな。


「だから行きはこうで、帰りはこんな感じかな。細かくは後で書いておくよ。それで、ランドロスが見つけたその希少魔法使いのいる組織について教えてくれる? というか、どこにいるのか知りたいんだけど」


 俺はネネに乗られたまま首を横に降る。


「今はダメだ」

「えっ、なんで? 急な裏切り?」

「裏切るわけないだろ。俺がいない間に危険なことをしてほしくない。一番話が通じやすい相手は立場があるから数ヶ月でいなくなるなんてことはないだろうから、俺が帰ってくるまで待っていてほしい」

「ええ……めちゃくちゃ歳下の子に過保護にされてる……逆に怖い」

「ランドはそういうとこあるよね」


 いや、普通に知り合いが危ないことをしようとしていたら止めるだろ。


「守りたいと思うのぐらい普通だろ。特別なことじゃない」

「机の下で女の子の椅子になってる男にめっちゃくちゃカッコつけられてる……」

「ランドはそういうとこあるよね」


 椅子になりたくてなってるわけではない。

 まぁ、この状況だと説得力がないのは確かか。


 仕方ない腰を上げて、背中からずり落ちるネネを抱きかかえながら椅子に座り、ネネと向かい合うような形で抱きしめる。


「な、な、何を……!?」


 椅子に座って向き合う格好はネネには恥ずかしかったのか、目の前で顔を真っ赤にして俺から逃げようとするが、ぎゅっと抱き寄せて頬同士を横に付けるような形でトウノボリの方に目を向ける。


「とにかくな、友人に危ないことはさせたくない。トウノボリからしたら早ければ二ヶ月、遅くとも三から四ヶ月程度なんて一瞬だろ」

「お嫁さんとめっちゃイチャつきながら心配してくる……」

「ランドはそういうところあるよね」

「まだ嫁じゃないっ! あと、ランドロスは他の女にデレデレしてるなっ!」


 全くデレデレはしていないが……。


「いや、トウノボリにそういう感情は持っていないが……」

「お前はそんなことを言いながらカルアやクルルや勇者や僧侶やクウカやイユリやミエナや私に手を出そうとしてるだろっ!」

「ストーカーと殺されかけた奴と師匠と男とロリコンが混じってたぞ……?」


 というか、半数は別に俺に対してそんな感じの好意を持っていないし、シユウやルーナに関してはかなりハッキリと敵対的である。


 よしよしとネネの背中を撫でながら落ち着かせようとしてると手を払われる。


「ランドロスは……もう少し距離感を考えるべきだ」

「……例えば?」

「まず、私を膝の上に乗せて抱きかかえるな。あと、そこまで親しくない相手を過保護にするな」

「いや、トウノボリにはこうして世話になってるんだし、助けられるところは助けたいだろ」

「手伝いはいいと思うが、それと自分の考えを押し付けるのは違うだろ」

「いや……普通、友人が無理しそうなら止めないか?」


 ネネは俺の膝から降りるのが無理と分かったのか、俺の肩に顎を乗せて胸にしなだれかかる。


「……そこまで強引にはしないものだ」

「いや、うーん、メレクとかしそうじゃないか? 初代もするだろうし、こんなもんだろ」

「比較相手がおかしい……」


 いや、俺の知り合いの大人の男をあげただけなんだが。商人とかならもっと上手く説得出来るだろうが、まぁ危なそうな知り合いがいて放置することはないだろう。


「うーん、でも、旅の途中でランドロスが命を落とす可能性もあるよね?」

「帰りは初代がいるし、行きは人数が少ないから逃げられるから、まず危険はない。それに、カルアがいた方が色々と都合がいいから、少し待っていてくれ」


 トウノボリはポリポリと頬をかいて、気恥ずかしそうに俺を見る。


「ランドロスって、男の人……って感じがするね」

「なんだそれ……」

「いや、なんとなく懐かしいなって。まぁ、数ヶ月くらいなら瞬きしてるうちにすぎるから、それでいいよ。友達と喧嘩する方が嫌だしね」


 納得してくれたのだろうか。と思っていると、隣にいたシャルにアイスクリームを掬ったスプーンを口の前に持って来られてそれを食べる。


 間接キスなのでは? と思ったが、よく見ると俺の前に置かれていたスプーンを使っていたようなのでそういうわけではなさそうだ。


 トウノボリは俺達のやりとりを微笑ましそうに眺めてもう一度頷く。


「待つのは慣れっこだから、うん。……でも、死なないでね。ランドロス」

「戦地に赴くわけでもないのに大仰だな」


 思わず少し笑う。

 というか、他の三人も一緒に行くのに俺にだけ名指しするのはどうなんだ。……そんなにすぐ死にそうに見えるのだろうか。


 まぁ……死にかける経験は人よりも多いだろうけども。

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