ひとりよりも落ち着ける
どうするべきか、何を聞くべきか。
顔を見られないようにしようとも尋ねたことで情報を探られるだろう。何を確かめようとしているかで、こちらの持っている情報を見透かされる可能性がある。
……そもそも、コイツと会って話すことが俺にとってメリットだったのか? 信用出来ない情報を元に行動なんて出来るのか? 本当はクルルを奪うために転移させたのではないのか?
頭の中でグルグルと思考が渦巻くが、良いという答えが出ない。
おそらく俺は最善手を取らなければ後悔するが、最善手のみを取り続けるなんてことは不可能だ。
何かしらの失敗はする。そのときに致命的にならないように立ち回るのが、俺のすべきことだ。
今の場合、メイタークの情報を鵜呑みにすることやこちらの情報を渡すことが一番大きいリスクだ。
しかし……話に整合性はあった。
信用出来ないからと切り捨てては、いつまで経っても真相に辿り着けず、遠回りをし続けることになる。
「……俺をどうやって見つけた?」
「ん? ああ、ギルド組合で君を見かけたって人がいたからね。前に会った君の様子からして、クルルのことを本当に心の底から愛しているようだったから、一日でも早く行動すると思ってさ。今日の昼頃に帰ってきたとして、夕方までに何らかの情報を集めてうちのギルドに疑いを持ち、人のいなくなった夜に空間魔法を利用して探索する。そうなるとだいたい近くの路地裏にいるってことぐらいは想像がつくよ」
「……俺を目視する前に名前を呼んだろ」
「路地を回る前に毎回声をかけてたんだよ。いるかいないかに関わらずね。今夜くるって分かっていたら、適当に名前を呼びながら歩いてるだけでそっちが反応してくれるって寸法だよ。ハッタリも効いてるしね」
納得出来るような、そうでないような答え。
どうにもこの男を信用しきれないし、けれども切り捨てるというには情報が大きすぎる。
「……ランドロス君は僕のことが信用出来ないみたいだね」
「……クルルのことを信用しているからな」
「お嫁さんの親族と仲良くするつもりは?」
「そういう関係性じゃないだろ。クルルとメイタークは」
「まぁそれはそうだね。でも、それはさ、本当にそれが理由なのかな?」
メイタークは俺の肩をトンと叩いて部屋の中央へと移動する。
「……なんで君は、この場でこの魔法陣のメモを取らないのかな」
「なんでって……」
「他のはまだしも、この魔法陣が正しいものかは専門家を頼れば判断出来るでしょ? なのに、それをせずに僕を疑おうとしている」
俺が思わず目を開いてメイタークを見ると、彼は部屋の照明を点けてより明るくする。
「何故か教えてあげようか? 君はいい人なんだよ。とてもね、とてもいい人だ。……だからかつての仲間をね、見捨てたくないんだよ」
「っ……俺のことを知っているなら分かっているだろう。アイツらは俺を裏切った! いや、初めから仲間ですらなかった!」
俺の反論を聞き、メイタークはニコニコと笑みを浮かべながら部屋の床に座り込む。その余裕そうな態度に、思わず語気が強くなるを
「そうかもね、そうだろうね。……で?」
「嫌っていて、憎んでいる!」
「で? ……殺したいの? 死んでほしいの?」
「っ……」
俺が即答することが出来ずに歯噛みすると、メイタークはゆっくりとした落ち着いた声で続ける。
「僕の話を信じてクルル達を助けにいけば、彼らを見捨てることになる。だから、信じない」
「っ……! クルルの方が大切に決まってるだろ! クルル達が安全であろうと、シユウ達が放っておけば殺されようと! クルルを優先して助けに行くに決まっている!」
「そうだろうね。だから、真実が定まったら君はそうする。だから、真実が定まって欲しくない。だから僕に対して嫌悪感を覚えているんだよ。悪いことじゃない。むしろ、嫌いな人でも憎んでいる人でも慈悲を掛けるなんてなかなかいないほどのいい人だよ。クルルが選ぶだけはあるね」
褒めているように聞こえるが、その言葉は甚だ心外だった。それでは、俺がシユウの馬鹿を優先しているようだろうが。
メイタークは一瞬で自分を捻り殺せるだろう俺の怒りを受けても、恐怖のひとつも見せることはなく落ち着いてヘラヘラと笑ったままだ。
「うん。怖くはないよ。ここまでのお人好し相手に怯えたりはしない。むしろ、今ここで誰かに襲われたときに守ってもらえすらするだろうと思うと、ひとりでいるときよりも余程のこと落ち着けるほど心地良いぐらいだ」
兜で顔を隠しているはずなのに……何故、俺の考えを読んだような……。
「ん? 別に表情だけじゃないよ。表情が大きいのは否定しないけど、小さな身動ぎ、呼吸、視線、何を考えているのか推測する材料は幾らでもある。まぁ、表情があるのとないのでは雲泥の差ではあるけどね」
「っ……! じゃあ何でもいい! 俺に信じさせるだけの証拠を見せろよ! 今すぐにでも、クルルに会いたいんだ!」
「僕には難しいかな。まぁでも……分かっている情報をあげるなら、次に勇者と重戦士を襲うのは、僧侶の葬儀のときだよ。武装もそんなにしてないだろうし、二人同時に襲わないと逃げられるかもしれないからね」
「っ! そんなこと、俺が知ったところで……!」
メイタークはじっと俺を見る。その目は「本当に助けないの?」と俺に尋ね掛けるようだった。
無言なのは、俺が勢いのまま「助けない」と宣言するのを封じ込めるために敢えて口にしないでいるように思えるを
「……そもそも、レンカのことを知らないのになんで俺がアイツらに裏切られたことを知っているんだ」
「ん? ああ、僧侶にハニートラップ……というか、若い男前の男をあてがって色々と情報を得たからだよ。あ、一応言うと僕が主導したわけじゃないからね」
「……悪辣だ」
「そうかな。気を使ってあげてるつもりだけどね。何たって僧侶の彼女は……はは、まぁ君には言わない方がいいかな」
「何がだ」
「いやね、僕は気を使えるから、無駄に君が嫌がることは言わないでおこうってだけだよ。ああ、証拠ね、証拠か……。まあ、証拠じゃあないけど、その空間転移の魔法の理屈や中継地点の場所の地図を君にあげよう」
メイタークはゴソゴソと地図と紙の束を取り出して俺に渡す。
「……この床の術式……魔法陣といったか? 写しても?」
「うん、構わないよ。また何か聞きたいことがあれば、夜にここに来るといいよ。姪の婿だ、歓迎するよ」
「……今日聞いたことが真実なら、仲間を裏切ったことになるぞ。今はグランと協力関係にあるから、葬儀の時に狙うと分かっていたら撃退する」
「始めに言ったよね。仲間を売りにきたって。存分に倒せばいいよ」
っ……クルルが苦手としているのがよく分かる。悪辣で、不快で……けれど、無理矢理こちらを交渉の席に座らせる。
……罠かもしれないが、罠なら俺が突破出来る。
クルル達の救出に行く前に葬儀が始まったら様子を見にいくぐらいはするか。……シユウとグランのためではなく、メイタークの言葉の真偽を確かめるために。




