いつか刺される
食事を終えて、早く手掛かりを探しに行きたいとは思うが、一応交流会みたいなものでもあるのだからすぐに出ていくのも失礼か。
けれど何を話すべきか……と考えて、少し前から考えていたことを口にする。
「トウノボリ、この前、俺が嫌がっておいてなんだが……迷宮鼠に来ないか? いや、決定権は持ってないんだが、クルルがいいと言えば」
「……えっ、いや、いいよ。そんなに仲良くしたら死んだとき悲しいし」
「一緒に死ねばいいだろ」
俺の言葉に場の空気が固まる。
ミエナが頬を引き攣らせて食べている手を止め、シャルが俺の腕をガッと掴む。
「え、ええ……それは、えっと、どういう……?」
「う、浮気ですか!? だ、ダメですよ!?」
あっけに取られた表情をしているトウノボリを他所に二人に話す。
「いや、悪意があるわけでも浮気でもなく……というか、浮気だとしたら重すぎるだろ、その告白」
「ランドロスさんは元々命賭けで守るとか真顔で言う重すぎる人なので、同じ墓に入ろうみたいなことはいいそうです」
「いや、そう言うんじゃなくてな……」
少し気恥ずかしくなり、頭を掻きながらトウノボリに目を向ける。
「あー、トウノボリがひとりで生きてるのは、この世界の人間のためだろ。言葉の節々に希死念慮を感じるし、その気持ちは痛いほど分かる」
大切な人が死ぬのも、一人で生きるのも、寂しく辛く、耐え難い。
「だから……俺とカルアが救ってやる。世界のついでにな。そうすれば世界のために生き続ける必要はなくなるし、先に人が死んでいくから人と仲良く出来ないなんてこともなくて済む」
俺の言葉を聞いたトウノボリはパチリパチリと瞬きをして、照れて苦笑するように手で口元を隠す。
「え、えっと……もしかして、六万歳歳下の男の子に口説かれてる?」
「口説いてねえよ。嫁の前だぞ、変なこと言うな」
「変なことを言ってるのはランドロスだと思うけど……」
「別に無理にとは言わないけどな。キリがないだろ。人類を守るために無限に生き続けるなんて」
トウノボリは考えたこともなかったという風な驚いた表情で俺を見る。
「えっと、あまり考えたこともなかったかな」
「延々と一人で生きるつもりじゃないなら、そうするのもいいんじゃないかと……まぁ、無理にとは言わないし、途中で死ぬのが嫌になったら止めてもいいしな」
「……でも、そもそもの話として、この六万年負け続けていて……」
「勝つよ。カルアと俺は」
パチリパチリと瞬きをしたトウノボリと目が合う。何度も話していたつもりだったが、こうやって目が合うのは初めてのような気がする。
「……信じて、いいの?」
「ああ。だから、どうするかを考えておいてくれ。寮の部屋は足りないから、魔法で扉を繋げるとかになるか。あーいや、多分建て替えることになるから大丈夫か? まぁ、何にせよ。大丈夫だ」
トウノボリから返事はなく、隣にいたシャルにじとりとした目で見られる。
「また女の子口説いてます……」
「口説いてない」
「パパ、そういうのダメだよ?」
「パパじゃない」
ネネの方に目を向けると、少し俺を睨んでから仕方ないなとばかりにため息を吐かれる。
「ネネ、いいか?」
「ん……私はお前を助けるよ。それだけだ」
ヤケに素直……いや、ミエナとトウノボリがいるからあまりツンツンしていないだけか。
みんなが食べ終わったのを見て、片付けながら立ち上がる。
「じゃあ、俺は手がかりを探してくるのとトウノボリの依頼のこともやってくる」
「えっ、そろそろ夜ですよね?」
「夜の間に出来ることをやっておかないとな。……シャルが寝ている間の方がいいだろ。起きてる時は話したい」
「えっと、それだとランドロスさんはいつ寝るんですか?」
「……考えてなかったな。まぁ適当に時間を取るよ」
「ええ……本当に大丈夫ですか?」
「ああ、平気だ。無理はしないよ」
シャルの頭をよしよしと撫でてからその場を後にしようとすると、ミエナがボソリと言う。
「パパドロスって、女の子に刺されて死にそうだよね」
何でだよ。別に悪いことしてないだろ。
多少不満に思うが言い返すことはせずにその場を後にして、夜の街に移動する。
秋の夜ということもあり、少しの風で体が冷える感触を覚えて上着を着込む。
グランのところに行こうかと思ったが、夜になったばかりならまだ帰っていないかもしれないので先に鬼食い猟犬を軽く探るか。
暗く人気のない街中なのはいつもと違わないが、どうにも妙に肌寒い。単に気温が低いからか……それともここのところ妙なことが続いているからか。
空間把握の感触を確かめながら早足で歩き、猟犬のギルドの近くの路地裏に着いたので空間把握を触手型のものに切り替えて、うねうねと動かしてギルドの中を入らずに探索する。
まず正面の扉から入れる、一般の人でも入ることの出来る区画……特におかしなものは見当たらず、普通のギルドと同じような掲示板や依頼の授受のための受付、それに食堂や酒場としての機能……まあ普通だな。
特におかしいものはないかと探っていると、中に人を見つけて少し驚く。
シルガやイユリのような技術がなければ、当然こちらが見つかることはあり得ないがほんの少しだけビビってしまった。何で夜中にひとりで……見張りか何かだろうか。
それからゆっくりと内部の方に入り込ませるが文字なんかは読めないのであまり意味はないか……そもそも裏の仕事を引き受けるならこのギルドの建物を使うのではなく別の場所で受けるだろうし……と思っていると、妙な部屋が見つかる。
かなり広いが……物はほとんど置いておらず、床に何かが描かれた鉄板のような物で敷き詰められている。
「……魔法の、術式?」
俺がそう口にした時、触手型にしていたため疎かになっていた警戒のせいか、路地裏との交差する道からガサリと音が聞こえた。
空間拡大で隠れ……としようとした瞬間、俺の名前を呼ぶ声が聞こえて魔法を発動しようとしていた手が止まる。
「ランドロス君、いるかい?」
「っ……お前は……鬼食い猟犬の……」
ギルドマスター、ムー・ゼル・メイターク。クルルの叔父である男がそこに立っていた。
「警戒は要らないよ。仲間を売りにきたんだ、君にね」




