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回収

 シャルと抱き合っていると、ネネがじとりとした目で俺を睨んでいることに気がつき、シャルと離れてから手招きする。


「誰が抱きつくか」

「なら睨むなよ……あー、そろそろミエナも迎えに行くか。一時間もかからないだろうし」


 俺がそう言うと、シャルが寂しそうな表情を浮かべる。


「……先生、その間に風呂にでも入りに行くか?」

「あ……そうですね。んう、入ってる間に、戻って来られるでしょうし……」

「悪いな。すぐに帰ってくるから」


 シャルの頭を撫でて、ネネにシャルのことを頼むように目配せをすると仕方なさそうに頷く。

 それからすぐにトウノボリから聞いていたミルナのいる階層に移動して、空間把握を広げていくも人影が見つからないので触手型に切り替えてうねうねと探しながら俺自身も移動しているうちにミエナを見つける。


 どうやら食事の準備をしているようなので遠慮せずに空間縮小を使って高速で移動してミエナの方に移動すると、ミエナはこちらに気がついて一瞬だけ構えてから俺と分かったのか構えを解く。


「あれ? ランド、どうしたの?」

「……何者かにギルドが襲われた」

「…………へ? えっ!? マスターは!? みんなは無事!?」


 ミエナは飛び付くようにして俺の肩を掴み、濡れた金の髪が頬に触れる。


「俺も出かけていたときだったから詳細は不明だが、おそらくは空間魔法使いによって別の場所にギルドごと飛ばされただけだ。飛ばされた中にはカルアも初代もメレクもいるから人死にはないと思うが、行方不明だ」


 ミエナは俺の服をぎゅっと握り込み、黙って俺を見つめて続きを促す。


「外では台風があったことと、空間魔法によって飛ばされたのが夜間だったこともあり、大半が寮にいたから、おそらくギルドの仲間で飛ばされていないのは、俺達とシャルとネネだけだ」

「シャルママとネネ? ……あっ」


 ミエナはおそらくみんな無事ということに安心したのか、しょうもないことを考えて顔を赤くする。


「ギルドがないから、今はこの迷宮の管理者の住んでいるところを借りている」

「……ええ、なんで」

「いや、襲われたことを考えると、また襲撃を受ける可能性があるだろ? この塔の最上階には来られないだろうから安全だ」

「いやそれはそうなんだけど…….まぁ、うん。ランドの奇行には慣れたよ。……みんながどこに行ったとかは分からないの?」

「めちゃくちゃ大まかな位置なら……おそらくアルカナ王国の周辺だと思われるって程度だな」

「……それは広すぎて分からないね」

「だから飛ばした奴を探そうとしているんだが……とりあえず、使える人手が欲しいと思ってミエナを連れ戻しにきた」


 俺の言葉にミエナはコクリと頷き、近くの木に掛けていた衣服などを片付け始め、ぽいぽいと俺の方に投げてくる。

 片付けるのが面倒だからって男の俺に衣服を渡すなよ……まぁ気にはしないが。


「何か手がかりはあるの? 初代がいるなら並大抵のことは……というか、一国相手とかじゃない限りは大丈夫だろうけど、早く回収したいしね。あー、ギルドごとないってことはお金とか大変なことに……」

「……余裕そうだな」

「んー、まぁマスターとしばらく会えないのは悲しいけど、初代がいたら大丈夫だよ」

「信頼してるのな」

「いや、信頼というか……強さだけならランド並みだと思うよ?」


 ……俺並みって、そんなにか? 確かにほぼ無制限に使える治癒魔法は凄まじく、魔力の量だけなら一流の魔法使いの千倍はありそうなほどの、もはや別種の生き物レベルではあるが……他はそれほどでもない気がするが。


 俺なら一方的に封殺出来ると思うが……。

 そう考えていると、ミエナは濡れた髪を布で拭いながら、俺の思考を読んだように首を横に振る。


「まぁ方向性は違うよ。でも……初代が本気を出したら、人は死なない。それだけは間違いないよ」

「……まぁ俺は初代の本気というか……魔力の自然回復量を超えるだけの魔法を使っているところを見たことがないしな」

「私としては安心だよ。それで、手がかりは?」

「普通に見つけるのはよほど運が良くない限りは無理筋だ。亜人混じりだと他国では自由に動けないしな。犯人なら飛ばした場所が分かるだろうというのが管理者の説明だから、それを見つけるしかないな」

「……見つけられるの?」


 ミエナは俺の方をじっと見つめる。


「……地道に探すつもりか?」

「んー、まぁ私はエルフだし、普通に人間の国でも生活できるから、アルカナ王国付近って分かっていれば色んなところで聞き込みをしたら一年もあれば見つけられるかなって」

「一年もあれば帰ってくるんじゃないか? 子供が多いから一度には無理だろうが、何回かに分けていれば……そうなると、見つけるのよりギルドを再建した方がいい」

「でも、それだと多分、責任感の強いマスターは最後まで飛ばされた方に残ると思うよ。……拠点を簡単には変えられないだろうし、そうなると人と関わる必要が出てくる。人間であるマスターとカルアは、残る必要が出てくるよ」


 ミエナは「それでいいの?」という視線を俺へと向ける。


「……犯人を捕まえられなければ第一陣が帰ってきたとき、場所を聞いて入れ替わりで俺が行く。俺がいれば行軍速度も数倍になるし、一度に帰って来られる人数も増えるし、そうするべきだ」

「まぁ、それが確実なのは分かるけど……」

「こっちに残っている奴が少ないんだ。早く会いたいという想いで考えなしに飛び出すのはダメだろ。……シャルもいるしな。シャルの体力だと旅には耐えられない」


 ガリガリと頭を掻いてミエナの荷物を片付ける。


「それに、そもそもとして飛ばした奴をとっ捕まえない限りは戻ってきて再建したところでまた飛ばされるだけだろ」

「ん……そもそも恨まれるようなことをしてないのに、なんでそんななされたんだろ」

「…………俺のせいかもしれない」


 俺がそう言うと、ミエナは首を傾げる。


「ランドのせい?」

「……細かい話はあとでゆっくりとするが、元勇者パーティの奴が狙われているかもしれない。それで俺が邪魔だったとかの可能性がある。たまたまそこにいなかったが、本来は俺を一時的に遠退けるための魔法だったのかも」

「……いや、それはランドのせいじゃなくない? 巻き込まれただけじゃんか」

「…………あー、ありがとう」


 慰めてくれているのかと思ったが、そうではなく本気で思っていたのかミエナは首を傾げていた。


「よし、迷宮の最上階に戻るぞ」

「……なんか、こういう形でワープするみたいな感じで迷宮の最上階に行くとは思ってなかったな……」

「まぁ、別に最上階に何かあるわけじゃないぞ。普通の居住区で」

「迷宮国では望みが叶うとか金銀財宝が眠ってるとか噂されてたんだけどなぁ」


 まぁ……あの技術力があれば望みは叶えられそうではあるが。


「最上階まで行った奴がいないのに、何でそんな噂があるんだよ。明らかにデマだろ」

「そりゃそうだけどね。あー、本当に叶うなら、マスターと結ばれるように願うのに」

「俺の嫁を取ろうとするな」


 ミエナは案外落ち着いていると言うか、軽口を叩く余裕があるようだ。それは初代への信頼のおかげか、それとも歳のおかげで落ち着いているからか。


 ……まぁ、焦られるとこちらも困るので、こういう反応の方が助かるな。

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