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協力

 迷宮【天より下るノアの塔】という最難関の迷宮の最上部は、どうということがない……どころか、よく見覚えのある光景に似ているように思えた。

 ネネはその室内の様子を見てポツリと呟く。


「材質とかは違うが、ギルドの寮に似ているな」


 ネネの言う通り、寮とかなり似ていた。廊下の片側に均一に扉が並んでいて、反対側に窓のような物がある。

 道幅も天井の高さも寮とかなり近しいように思えた。


「まぁ、そりゃそうだよ。人の使い心地のいい造りなんて、ある程度決まってるしさ」

「そんなものか。……どこを使えばいいとかあるか?」

「えーっと、私はあそこの門を曲がったあたりの部屋を使ってるから、そこ以外かな。一応防音とかはしっかりしてるから隣でも大丈夫だけど」

「部屋の大きさとかは?」

「基本的に一人部屋しか用意してないなぁ。色々と都合があって」


 ……三人で一人部屋は狭いよな。

 シャルに目を向けて相談しようとすると、管理者は近くの部屋の扉を開けて俺達に見せる。


「部屋の広さはこれぐらい」

「あー、寮の一人部屋と同じくらいか。……まぁ、カルアとシャルの三人でも生活出来ていたし、問題はないか?」

「別に何部屋使ってもいいよ?」

「……シャルを寂しがらせたくないんだ」


 再びシャルに目を向けると、シャルは少し恥ずかしそうな表情をしながら管理者に尋ねる。


「あ、あの……部屋は大丈夫なんですけど……。その、聞いた話で申し訳ないんですけど、トウノボリさんって迷宮の中を好きに見れるんですよね? ……そ、その、部屋の中とかも……」

「あっ、それは大丈夫だよ。流石にこの階層は見れないよ。自分一人しかいないところを監視しても意味ないからそういうのは付けてないよ」

「そ、そうなんですか。すみません」


 シャルは安心した表情を浮かべながらペコリと頭を下げる。


「えっと……基本的に一人部屋で大丈夫ですが、着替えるところとかはほしいです」

「あ、うん。好きに使っていいよ」


 シャルは俺とネネに目を向ける。


「あー、ネネ、どうする? ネネは狭い部屋苦手だから負担かけるが……」

「何かあった時に逃げやすい位置がいい」

「じゃあエスカレーターってやつの近くにするか」

「決まった? じゃあ、鍵を取りに行くついでにトイレとかお風呂の場所案内するね。あとランドリーとか色々」


 管理者について行くと、かなり大きい大浴場とたくさんあるシャワー室、それにサウナやら、炊事場、洗面所、トイレなど色々なところを案内される。


「……本当に広いな。トイレなんて五箇所もある」

「まぁ本来はもっと多くの人がいたはずだからね。同じ形のフロアがあと五個あるからそれも好きに使っていいよ」

「……いや、好きに使えと言われても、使い道ないだろ」

「トレーニングジムとかあるよ? 使い方教えてあげようか?」

「……普段なら結構嬉しい気がするが、今はそういう状況でもないしな」


 本当に何百人が不自由なく暮らせそうな空間だ。


「あ、ここは食糧庫だよ。とは言っても保存食だけだから、新鮮なのが食べたかったら街に戻るか、80か81階層に行ってね」

「いたせり尽くせりですね……」

「まぁ、お金稼ぎをするために頼み事が遅れられると私も嫌だから気にしなくていいよ」


 だとしてもかなりありがたい。というか……本当にカルアの言葉の通り、甘っちょろいというか……人を信じ過ぎているというか……。

 世界の不幸の大元凶の癖に、ただの世間知らずのお嬢様のようにすら感じる。


「ベッドとかの家具とか日用品とか、あと服とかも倉庫に入ってるから自分達で探してね。ランドロスがいたら運べるでしょ」

「何から何まで悪いな。今すぐは無理だが、受けた恩は後で必ず返す」


 俺がそう言うと、管理者は困ったように笑う。

 一通り回り終わったので倉庫から必要そうなものをもらっていき、先程決めた部屋に移していく。


 ある程度の物を運び終えて、シャルを椅子に座らせてから管理者の方に目を向ける。


「よし、こんなものか。……じゃあ、ミエナの回収をしたいんだが、場所は……」

「あ、今は7階層の中ほどだったよ」

「じゃあ回収に……」

「いや……水浴びしてたから後の方がいいかな」

「ああ……じゃあそうするか」


 あと協力出来そうな奴は……ダマラスや二代目のギルドマスター辺りには声をかけるか。あと、二代目と同じギルドであるクウカ……と考えるが、少し逡巡してしまう。


 クウカは優秀だ。その上この国での生活も長い人間であり、情報収集という点においてはこれ以上ないほど適した人物なのは間違いない。

 それに俺が頼めば何の迷いもなく、交換条件や報酬すらなく、それどころか多分生活の面倒を見るとかまで言い出しそうである。


 ……だからこそ、恋心を利用するようで頼むことが憚られる。


「ランドロスさん、どうしたんですか?」

「いや、誰から頼みに行こうかと考えていてな」

「そうですか……あの、その、ついて行くのは……」

「……いや、悪い。すぐに帰ってくる」

「……はい。えっと、僕に出来ることがあったら、なんでも言ってくださいね?」

「ああ、頼りにしてる。……ネネ、ちょっとでも寝ておけよ」


 俺がそう言うとネネは少し不満そうに俺を見る。


「……無事と分かったなら、そんなに急ぐべきではないだろう。ランドロスも歩き疲れているだろ」

「人に会いに行くだけだから危険はない。……気苦労をかけて悪いとは思っているが、状況が状況なんだし……」


 ネネは否定も肯定もせず、小さな声で俺に言う。


「……しばらく住む準備はしておく」

「ああ、助かる」


 そう言ってから部屋から出て、扉を出せるようにだけしてから迷宮国の方へと戻る。

 いつもの街中に戻ってきたことを確かめつつ、誰から話に行くかを考えて……。


 頼むかどうかは分からないが……一番俺たちのことを心配しているであろうクウカと二代目のところからか。


 ……本当にどうするべきかなぁ。頼まないと頼まないで落ち込ませそうだしなぁ。

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