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人に歴史あり

 カルアは気まずい思いをしながらクルルに目を向けると、クルルも気まずそうに頬を掻くだけだ。


「……ヤンとはね……まぁ……うん、そうだね。あんまりね」


 明らかにテンションの落ちたメルを見て、カルアが小声でクルルに尋ねる。


「クルルさん、人の心が分かりますよね? その……恋愛的なのも分かるんですか?」

「分かるけど、分かるからこそあまり突っ込みたくないというかな……。恋愛って嫉妬とか憎悪とかすごいから、あまり引っ掻き回したりは……そもそも、私はあんまり人の心をどうこうしようとかは好きじゃないかな」

「えっと、まぁ……そうですよね。ランドロスさんのことを好きになったときも、遠慮してましたし」


 カルアは少し考えつつメルを見る。

 メルを応援したい気持ちがないわけではないけれど、他にも複数人がヤンを好いているわけで安易に応援するとも言えない状況だ。


「ん、あ、あー、そういえば、なんでヤンさんを好きになったんですか?」

「あ、うん。えへへ……子供の頃、亜人差別の人に誘拐されたことがあってね。……その時、ヤンがボロボロになりながら助けてくれて……」


 メルが気恥ずかしそうに答えて、カルアが頭を抱える。「思ったよりガチなやつ……!」と心の中で叫び、気軽な感じで「他の男の子にしたら?」みたいなことを言うに言えなくなってしまう。


 イユリは軽く頷きながらお茶を飲みつつ「あー、昔あったねー、そんなこと」とのほほんとした表情で口にする。


「そ、そういう軽い話なんです?」

「まぁ、かなり昔のことだしね。あの時はみんな大慌てだったけど、犯人はちゃんと捕まったしね」

「あのときに比べて、だいぶ亜人への風当たりも良くなってきたよね。カルアちゃんとクルルの旦那さんの活躍もあるけど、ミエナも頑張ってくれてるからね」

「……ミエナさん、ですか?」


 カルアが不思議そうに首を傾げると、クルルは小さく頷く。


「私もかなり小さいとき……記憶もないようなときのことだけど。メルが攫われてからね、ミエナがギルドの評判とかをあげるために人から悪口を言われながらも色んなところに顔を出して繋がりを作ってくれていてね」

「地道な評判上げですか……ん、私が来た当初も結構酷かったように思えますけど」

「もっと酷かったんだよ。まぁ、私は人間なのもあってそんなに覚えてないんだけどね」

「はあ……あのミエナさんが……まぁ、おかしなところはありますが、面倒見がいいのは事実ですよね。もっと人見知り全開だった以前のランドロスさんとも仲良くしてましたし」


 カルアは「人に歴史あり、ということですね」と締めくくりながら頷く。

 普段からクルルやシャルに執着を見せているロリコンエルフというイメージだったけど、少しだけ見直す。まぁ考えてみると、ギルドマスターであるクルルが会合に行くときには基本的にミエナを連れて行っているぐらいだし、よほど信頼しているのだろう。


「……こう考えてみると、みんな色々ありますね。ランドロスさんは魔王を倒してますし、クルルさんも色々ありましたし……あれ、もしかして私って案外普通……?」

「いや、来歴で言うとカルアが一番おかしいかなぁ」


 カルアにクルルが突っ込んでいると、メルがトントンとふたりの肩を叩く。


「それより恋バナ……。とりあえず、二人はどこまで行ったの?」

「えっ、私は知っての通り結婚してますけど……。クルルさんはまだですけど、落ち着いたらいずれでしょうね」

「そうじゃなくて、いや、それもそうなんだけど……。そもそも、かなりのスピード婚だったけど、交際期間とかあったの?」

「交際期間……好意を伝えあった時から結婚することは決めていたので婚約の時期はありましたが、交際期間はないですね。というか、ランドロスさんはそこのところが真面目というか……あれです、案外信心深いところがあるので「女性と交際する=結婚」みたいに思っているみたいなので」

「……うーん、微妙に盛り上がらないね。恋バナ」

「まぁ……」


 カルアは微妙な表情を浮かべて目を逸らす。


「……流石に、クルルさんの目の前で惚気るのもアレですし、メルちゃんもそんなに自分のことは話したくないですよね? イユリちゃんもそうですし……。このメンバーだと盛り上がりにくいです」

「そこはほら……えっちなことをしたとか聞いたら、私は一人で盛り上がれるから」

「……してませんよ。私の身体が心配だからって、してくれません」

「へー、愛されてるね。このこのー」

「やっ、もう、突かないでくださいっ……まったく……。別の話をしませんか? 例えば、今度探索者学校の試験をクルルさんが請け負うんですよね?」


 カルアがクルルに目を向けてそう言うと、メルは露骨につまらなさそうに唇を尖らせる。


「あ、うん。試験と言っても落とすとか落とさないとかそういうものじゃなくて、単にギルドに振り分けるために話をするってだけだけどね」

「うちにも増えるんですか? 新しい人」

「うーん、どうかな。例年通りならまず来ないよ。でも、今年はランドロスが活躍したこともあって、かつてないほど受け入れられてるからね」


 クルルの言葉を聞いて、カルアはメルのつつきを避けながらゆっくりと口を開く。


「……うちのギルドで評判が良くて有名な人、ミエナさんとランドロスさんで、ギルドマスターがクルルさんなの……ロリコンが少女を崇めるギルドと思われてません?」


 カルアの言葉を聞いたメルの手が止まる。


「……もう手遅れだよ」

「あ、はい」

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