友人よ
幸せである。もう、ただ、ただ、ひたすらに嬉しい。
空が青い! 草が萌え広がって! 風が美味い!
この世界は最高だ! ありがとう! ありがとう世界!
俺をこの世に誕生させて! シャルをこの世に誕生させて! 俺とシャルを出会わせてくれて!
こんな、何の捻りもなく直球で嬉しさだけが胸中にあることなんてあるだろうか。ただひたすらに、無限に幸福である。
キスを二度もしたのだ。あの、シャルと。シャルは俺のことが好き、俺もシャルのことが好き。
お友達からということではあったが、キスもしたし実質的には恋人関係のようなものである。柔らかかったな、気持ちよかったな……。頼めばもう一度出来るだろうか。
世界が光に満ち溢れていて楽しい。そう思い、風を感じながら馬車の隣を歩いていると馬車の中から「……アホですね。ランドロスさんはアホです」と聞こえるがそんなのは気にならない。
「ははは、カルアめ、言いおるわ」
「……何ですか、その口調。……アホ、アホ。早くフラれればいいんです」
もう何を言われても幸せである。
「まぁ、友達からということなんだけどな。友達、友達……いい響きだ」
「……そのお友達のところに行かなくていいんです?」
「…………顔を真っ赤にして逃げられた。まぁ、それだけ好かれていると思えば悲しくはない!」
「……でも、アレじゃないです? シャルさん、しばらくは商人さんのところで、他の孤児のお世話をするつもりなんですよね。離れ離れになりますが」
カルアの冷静な指摘に少し気分が盛り下がる。
「……まぁ、そうなんだけどな。カルアとの約束があるから、結局一月は迷宮に篭ることにはなるしな。……一生べったりくっついているという訳にもいかないんだ」
「……まぁ、所詮はただの友達ですけどね。何か勘違いして恋人ぶってますけど」
「勘違いしてない。両想いなのは確定だ」
「……そうですか。まぁ、おめでとうございます」
ああ、なんて幸せなのだろうと思っているうちに日が傾いてきた。
急いで出てきたせいで元々そこそこ遅い時間だったので仕方ないだろう。
一応、シャル以外の子供や院長に見られないように目を布で隠す。
そうしていると、ちょうど商人も休憩をしようと思ったのか馬車を止めていた。
「ランドロスの旦那。用意をお願いします。……多分、子供達も内心では不安に思っていると思うので、食べ物は良いものを多く……そうですね、パーティのようなキラキラと楽しい感じにしてくれませんか?」
「……お前、子供には気を使えるんだな」
「そりゃあ、こういう初動は大切ですからね。最初に好かれていたら恩人っぽさが高まるでしょう。あ、食費はランドロスさん持ちで」
「……別にいいけどな。気分も最高だし。でもな、心の奥底では商人の評価を下げてるからな」
「100%好意から99%の好意にですか?」
「3%から2%だな」
「ははは、これはいい評価をいただきありがとうございます。まさか、多少なりとも好かれていますとは」
……まぁ、子供の恩人ではあるし、シャルとキスを出来たのは商人の計らいもあってのことなので、完全に嫌いというわけでもない。
友達ではないが。決して、そういう関係ではないが。
止まった馬車から降りる。シャル以外の子供からもあまり怯えられてはおらず、ほんの少しの安心を覚えながら、地面にずらりと木の板を敷き詰め、その上に布をかける。
適当な場所に長槍を突き刺していき、その槍を支柱にして布を乗せて、簡易的なテントにする。
「手慣れてますね」
「まぁ、これぐらいならな。料理は出来ないから任せていいか?」
「……この人数の料理は一人では厳しいので、他の人も呼んできます。必要なものを出しておいてください」
適当に台と調理道具を出しておく。食材は……まぁ適当に出せばいいか。
薪を組んで火を付けて焚き火を作る。そのあと適当に布やら何やらを出しておく。
一通りの作業が終わり、子供達への指示は院長とカルアに任せることにして、周りの景色を見る。魔物や人の姿はない。
流石に見張りを子供に任せるわけには行かないから、今日は寝ずに見張りをすることになるな。
「いやぁ、空間魔法は便利ですね」
「……まぁな。純粋な戦闘能力だと普通に火属性やら土属性の方が数段上だが、旅をするには色々と勝手がいい」
「ところで、混ざらなくていいので?」
「見張りは必要だろう。ここら辺は魔物は多くないが、いないわけでもないしな」
頭は浮かれているが、それでもやるべきことをやらなければならないだろう。
この中で戦えるのは俺だけなのだから、責任を持って町まで送り届ける必要がある。
商人はいつものように少し話したら去っていくのかと思ったが、何も話すことなく俺の隣に立っていた。
「……どうかしたか?」
「いえ、まぁ……そうですね。町に着いたあとは、カルアさんとお二人で迷宮国に向かうでしょう」
「まぁそうなるな」
「……これからは頻繁にお金を届ける必要はなくなるので、少し会うことは減るだろうな……と」
「……まぁ、そうなるな。……商人には世話になった」
「いえ、こちらこそ、お世話になりましたよ。まぁ今生の別れというわけでもありませんがね」
ほんの少しだけしんみりとしていると、商人は真剣そうな顔をして俺を見る。
「お子さん出来たらくれません?」
「……やっぱりお前嫌いだ」
「いや、ほら、空間魔法引き継いでいる可能性って結構高いじゃないですか? 空間魔法って商人の中では伝説の魔法なんですよ? 国一の商会の創始者も空間魔法使いだったそうですし、ね?」
「ね? じゃねえよ、ね? じゃあ……。待て、お前、散々恋愛について相談に乗ってくれたりしてたのは……まさか」
「魔族が四分の一だけだったら形質は薄いだろうなぁと思いまして」
ダメだこの男。頭の中に利益しか存在しない。
少しでも信頼した俺が馬鹿だった。
初めから、俺が異種族と結婚して人間の町で活動出来ない子供を作る前に、人間の少女とくっつけるために動いていたんだ。
「ははは、まぁ、いいじゃないですか。私と旦那の仲でしょう、子供を預けるぐらい」
「……別に結婚出来ると決まったわけでもないし、もし何もかもが上手くいっても子供が出来るのなんて遠い未来だし、その子供が働けるようになるのはもっと遠い。商人はもう死んでるかもしれない歳だろ」
「……あれ? 旦那って計算出来たんですね」
「子供から習った。……あまり下品で露悪的なことを言うなよ」
俺の言葉を聞き、商人はポリポリと頬をかく。
「旦那には敵いませんね」
日が落ちてきて、もう薄暗い。
「……お前の冗談は笑えないな」
「ははは、まぁ商才がないものでして」
「何でそれで商人なんて始めたんだよ」
「旦那が戦ってるのと同じじゃないですかね。旦那も戦の才能はありませんよね」
「……それ、さっきシャルにも指摘されたよ。泣きそうな顔で剣を持ってたってな」
はあ……と、溜息を吐く。
カルアにも剣を振り下ろそうとしたのを止められたし、シャルにも商人にも指摘された。
一年も共に旅をしていた勇者達にはそんな風に言われたことはない、俺に興味がなかったから気が付かなかったのだろう。……この短い時間で、あいつらよりもよほど仲間だと思ってしまっている。
「……またな、商人」
「ええ、また。……と、言いましても、シャルさんもそんなにウチには長居しないと思うので、すぐに送り届けにいきますけどね」
「……多少の余韻にぐらい浸らせてくれ」
ああ、これだから俺の友人は、好きになれない。
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