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襲う

 同じ毛布に包まりながらシャルの背に手を回すと、子供らしい柔らかい肌着の感触がして、そのすぐ下にシャルの肌があることを意識させられる。


 子供っぽい暖かめの体温、柔らかい肌触りと小さく軽い身体……。もしかして、これってシャルに誘われているのではなかろうか。


 普通、着替えている途中で眠るだろうか。

 もしもシャルが俺を誘っているのだとしたら……誘いに乗らないと恥をかかせるのではないだろうか。


 恥とは言わずとも悲しませるかもしれないし……と思いながらシャルの肌着に手をかけて、その手を止める。


 ……いや、これは俺が我慢せずに手を出したいという欲求から、事実とは違う歪んだ推測をしているのではないか?

 よく考えてみれば、シャルの今までの誘惑なんて、体を擦り付けたり甘えながらキスをねだったり、お腹をチラリと見せたりという可愛らしいものだ。


 口では色々と誘いはするものの、行動は伴っていない……それがシャルだ。


 なのに急に下着姿で眠るなんて、シャルらしくないし単に途中で寝てしまったという説が一番有力だろう。

 だとしたら、この場で手を出してしまったら、俺が酔って酒の勢いで手を出したと思われかねない。


 多分、強引にしても怒られたり嫌がられたりはしないと思うが、酒の勢いでしたと思われたら、シャルのことを大切にしていないと勘違いされかねない。


 ……ないな。手を出すのは、ない。

 というか、そもそも俺はまだシャルとはそういうことをすべきではないと考えていたはずだ。


 いくらシャルがエロいからといって、考えをそう簡単に覆すものではないだろう。……いくらシャルかまエロいからといって……。シャル、本当にエロいな。

 ……シャル、エロい。


 酔った頭では複雑なことが考えられず、単純に自分の嫁の魅力にメロメロになってしまう。

 ……いや、ダメだ。落ち着け、落ち着いて……落ち着けるか、こんなもん!


 やっぱり、一度外に出てシャルが自分で起きるのを待つしかないか……と考えていると、ぽたりと雫が落ちる音が聞こえる。


 それは目の前の少女の目尻からこぼれ落ちたのだとすぐに気がつく。

 っ……俺は何を馬鹿なことを考えているんだ。自分の欲望など考えている場合ではないだろう。


 シャルの小さな体をぎゅっと抱き寄せて、雫の溜まった目尻を指先で拭う。


「……大丈夫だ。シャル。俺が、ずっと一緒にいてやるから」


 寝ているのだから俺の声が届くはずはないだろう。けれどもシャルの顔は少し穏やかなものに変わった気がする。

 ……仕方ない。別の場所で寝るのは諦めよう。


 我慢である。我慢だ。

 シャルが寂しくないようにぎゅっと抱き寄せて頭を撫でる。

 俺は欲望を抑えられないクソ野郎だが……それでもシャルを守りたいし、悲しませたくないと、本気で思っている。


 ……こういう時は。父母の代わりにならないとな。

 親元に帰れるはずだったのに、俺が邪魔をしたんだから。


 抱きしめているうちに眠気が増してくる。酔いのおかげか、疲労のおかげか、あるいはシャルの暖かい体温が安心感を誘うからだろうか。


 うとうととゆっくりとまぶたが落ちていった。



 眠ってから何時間が経ったのか、シャルが腕の中でもぞりと動く感触に反応して体が動き、それに反応してシャルが寝返りして、俺がまたそれに反応をする。


 だから、どちらが動いたからどちらが目を覚ましたとは言えないような、お互いがお互いを起こし合うようにゆっくりと目を開けた。


 まだ眠たげな瞳が俺を捉える。泣いたせいで赤く腫れた目元の腫れは治っておらず、彼女なそんな中でも優しげな目を俺に向ける。


「ぁ……えへへ、おはようございます。ランドロスさん」

「ああ、おはよう」

「えへへー」


 寝ぼけているときのシャルはいつもより甘えん坊で可愛らしい。

 俺の胸に抱きついて、猫のように頭をすりすりと動かして甘えてくる。それを受け入れるようによしよしと頭を撫でていると、寝ている間の身動ぎや起きた際の動きによって掛けていた毛布がズレていく。


 秋の朝の肌寒さを直に浴びたシャルは「へくちっ」とクシャミをして、慌てて俺に謝る。


「す、すみません。か、顔にかかって……」

「い、いや、ぜ、全然気にしてない」


 それより、そんなことより……。俺の目がひとりでに下へと向いてしまう。白くてすべすべとした肩と、着崩れたキャミソールの肌着、その隙間から見える膨らみをほとんど感じさせない胸元。


「ん、んぅ……ランドロスさん、どうし……」


 俺の様子を見たシャルが、俺の目線を追って自分の体を見る。

 一瞬の停止、それからすぐに顔が赤く染まって、鎖骨の辺りまでその朱色が広がっていく。


「にゃ!? な、なんでっ!? こ、こんな格好……っ!?」


 シャルは落ちていた毛布を広いあげてバッと自分の体を覆い隠す。

 それでもなお混乱している様子のシャルにぼうっと見惚れていると、ぽたりと自分の腰に何か水滴が垂れて、鉄の匂いが鼻に染み出してくる。


 シャルがより慌てた様子で俺を見て口を開く。


「は、鼻血出てますっ! ら、ランドロスさん!?」

「……え、お、おう」


 興奮しすぎて鼻血が出るのって本当にあるんだな。と、何故か冷静に考えながらボロ布を取り出して鼻を押さえる。


 シャルは慌てながら俺の顔を上目遣いで見つめ、心配そうに「だ、大丈夫ですか?」と尋ねる。


「ああ……わ、悪い。大丈夫だ」

「え、えっと……」


 俺が鼻血を抑えていると、シャルは体を隠しながらおずおずと俺に尋ねる。


「そ、その……もしかしてなんですけど、む、無理矢理しようとしました?」

「してない。全く。そんなことは誓ってしてない。信じてくれ……!」


 俺がそう言うと、シャルはホッと胸を撫で下ろし、安堵の笑みを浮かべる。


「よかったです。……てっきり、ランドロスさんを無理矢理押し倒して襲ってしまったのかと……」

「……シャルが襲う側なのか……?」

「えっと、でもなんで下着……」

「あー、着替えようとしてたんだが、途中で寝てしまって……」

「み、見ました?」


 シャルが恥ずかしそうに俺に尋ねて、俺は目を逸らす。


「……と、とりあえず、服を置いて出て行くから、着替えてくれ」

「は、はい。う、うぅ……恥ずかしいです……」

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