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木像

 クルルにニマニマと見られながら部屋の外に出る。


「あ、ランドロスさん、早いですね。眠たくないですか?」

「多少眠いが、寝過ぎたら夜に寝れなくなるからな。昼夜逆転するのは別にいいけど、出来たらみんなで寝たいしな」


 時間もあるので迷宮に件の奴等探しと金稼ぎにでも行こうかと考えて、今が謹慎中であることを思い出す。

 ……ギルドで頼まれていた像でも掘るか。


「シャル、俺はギルドの方に行くが……」

「あっ、それなら僕もいきますね。クルルさんはどうしますか?」

「ん、仕事はないけどこっちにいても暇だし……でも、色々と聞かれそうで行くのもなぁ」

「ああ……悪いな。俺のせいで」

「いや、後々バレることだったし、私もランドロスと早く一緒になりたかったからいいよ。……まぁ、そもそもバレバレではあったしね」


 まぁ……多分感覚器官の鋭い獣人系の血が濃い奴は元々察していそうではあるよな。一緒に寝ていて匂いとかも移っているだろうし、ヤンも普通に気が付いていたしな。


 三人でギルドに戻り、カルアのいる席に着く。


「あれ、カルアだけか? ネネは?」

「ネネさんが私一人の時に話しかけに来たりはしませんよ。……昨夜帰って来なかったことについて話したいですが、どうせシャルさんに怒られていると思うので省略しますね」

「ん? ああ……あれ、今日は研究とか勉強してないんだな」


 俺がそう尋ねると、カルアはパチリパチリと瞬きをして頷く。


「さっきまでしていたんですが、辞めることにしました。……当分は新技術ではなく、古代人の技術の安価な方法での再現とイユリさんの補助に専念しようと。やることが多すぎるので、いくら天才でも優先順位はつけた方がいいかと」

「無理はしないようにな」

「心配しなくても、ランドロスさんを構ってあげる時間ぐらいはとってますよ。それより、ご飯はどうするんです?」

「あー、まぁ腹は減ってるけど、夕飯時に食おうと思ってる」


 そう答えながら、頼まれていた像を作ろうとナイフと木材を取り出し、机の上に布を敷く。

 シャルは俺の隣に座って縫い物を始め、クルルは同年代の友人らしい子供に連れられていく。


 ……先程、クルルにめちゃくちゃ興奮していたことを話されたらどうしよう。今まで培ってきた俺のクールな印象が崩れ去ってしまう。


「あれ、ランドロスさん何してるんです?」

「ああ、カルアに木像を作ってくれと頼まれてな。何でも人形の魔法の参考にするとかで」


 軽く人の形を思い浮かべながら木にナイフを当てて大まかに削り取るように彫っていく。


「そういや、聖剣って男なのか? 女なのか?」

「女の子じゃないんですか?」

「ああ、そうなのか。年齢とか容貌はどうする?」

「んー、普通に可愛らしく作ってくれたらいいですよ」


 そういう曖昧なのは逆に作りにくいが……まぁ適当にでいいか。

 格好は立ち姿で服装は普通の村娘でいいか。奇抜な格好は彫りにくいしな。

 顔立ちは少し大人しそうな感じであどけなさや可愛らしさを……普通よりも細身にしてみるか。


 そう自分の思い描く理想のかわいい女の子を考えながら出来上がったのが、シャルの像である。


「……ランドロスさん」


 カルアが像を見てじとりとした目に変わっていく。


「……違うんだ。これはシャルじゃない」

「いや、どう見てもシャルさんですけど」

「違う。かわいい女の子と言われたからかわいい女の子を作ったらシャルになった」


 隣でシャルがぬいぐるみを作りながら顔を真っ赤にして俯くのを見て、作り上げた像を異空間倉庫にしまう。


「あの、聖剣さんがシャルさんそっくりな女の子になったら困るでしょう。ランドロスさんが無機物に求婚することになったら流石の私も引きますよ」

「いや、性格が違うし……見た目も理想だが、中身も理想だから求婚したわけで」

「とにかく、作り直しです」


 カルアに怒られたので新しい木材を取り出す。

 先程の失敗を生かして、シャルの特徴には当てはまらないような美少女の像を作っていく。


「……はい。私ですね」

「不甲斐ない旦那ですまない……!」

「訳の分からないところで不甲斐なさを出さないでほしかったです。あの、この調子だと私も禁止してもクルルさんとネネさんのも作りそうなので先にダメと言っておきますね」

「えっ、いや、でも二人のも作らないとなんか締まりが悪くないか?」

「謎の凝り性を発揮しないでください。とにかく、実在の人物とは似てない感じで」


 まぁ、二度の練習を経て俺の木像の制作技術や、美術的な視点でのコツは手に入れた。

 ゆっくりと慎重に削って形を変えていく。


 体型は先程などと同じく細身にする。肉付きのいい身体の良さが分からないので、良いバランスにするのは難しいだろうという判断だ。


 脚は少し長めで、けれども全体のバランスを意識する。服装は特に思い浮かばなかったのでメナが着ているようなエルフの伝統的な衣装の意匠を少し鼠っぽい模様に改変させたものにする。


 髪型は少しふわりとしたポニーテールで、顔付きは幼いながらも少し鋭い感じで剣っぽさを出しておく。

 全体的な雰囲気として多少運動をしているぐらいに筋肉を感じさせ、けれども少女らしい柔らかそうな雰囲気を前面に出し、表情は子供ながらも母性を感じさせるものにする。


「……と、こんなものか」


 誰かに似ているわけでもないがかわいい美少女の像が完成してカルアに見せる。


「どうだ?」

「……ランドロスさんの嫁ハイブリッドって感じですね。あ、色合いとかどうします?」

「ん? 魔法でそこまで出来るのか? 普通に木の色かと思っていたが」

「はい。ちゃんと人っぽくないと浮いちゃうじゃないですか」

「じゃあ色も塗るか……いや、色合いを考えるために別のもので練習をしてからにするか」


 紙と筆を取り出し、絵の具がないことに気がついてギルドで購入する。子供が多いからこういうものが売ってるのは便利だな。


 絵の具で色を作りながら人の絵を描き、肌の色彩を確かめていき、続いて違和感の少ない髪色や目の色を探っていく。


 しばらく練習を続けてから木像を真っ白に塗って色を付ける下準備をする。


「……ランドロスさん、無駄に絵が上手いですね」

「そうか? こんなものだと思うが」

「そういえば、院長先生も絵がお上手でしたね。昔書いたのを見してもらっただけですけど」


 絵の具が乾いてから色を塗っていく。エルフっぽい服装にしたので金髪翠眼にしておく。


「……ランドロスさん、エルフ好きなんですか?」

「いや、服装のレパートリーが知り合いぐらいしか、いないからこうなった。種族に拘りはないな」


 あえていうなら人間の女児が可愛い。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ホント業が深いなこのオッサン……
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