誘惑
……いや、今のシャルの体格で子供は無理だろう。
年齢もそうだが、同年齢のクルルと比べても一回り小さく細い。
俺は己の欲望に弱く、まったくもって理性的ではないが……流石にダメなことは分かる。……寝て起きたら説得しよう。
シャルに導かれるまま寝室に行こうとしたとき、背後からクルルがやってくる。
「えっと、私も一緒に寝ていい? たまのお休みだからデートしたかったけど、寝不足みたいだし……」
「あ、俺はもちろんいいが……」
「僕もいいですよ。独り占めしたいとは思ってますけど、僕も昨日と一昨日、心配であまり眠れていなかったので眠たいですから、独り占めしてもあまり起きていられないですし」
「えへへ、じゃあ朝から三人で寝よっか。悪いことしてるみたいでドキドキするね」
クルルに手を引かれてベッドに寝転がり、シャルが扉とカーテンを閉めてから俺の傍に寝転ぶ。
両手に小さく幼いも、絶世の美女と言って差し支えないふたり……先程までフラれるのではと、怖くて仕方なかったが、非常に幸せな状況だ。
ヤンの訓練はすっぽかすことになるが、まぁアイツなら自主訓練も普通にちゃんとこなすので大丈夫だろう。
とりあえず今はこの三日振りの幸福に……と思いはするもすぐに眠気がやってくる。
「ねえランドロス。さっき、シャルは許したけど……私は許すって言ってないよね?」
「えっ、あっ……そう……だな」
「……えへへ、何をしてもらおうかなぁ。反省してもらわないとダメだもんね」
クルルが悪戯な笑みを浮かべて俺の手をちょんと握る。
これ以上、行動が縛られるのはまずい……と思っていると、クルルはぽすぽすと俺の胸に頭を乗せる。
「えへへ、冗談だよ。あえて言うなら、しっかり休んでね。ランドロスは無理ばかりするから心配だよ」
「冗談か……。あまりからかわないでくれ……」
ホッと息を吐くと、クルルは俺の頭を撫でてそっと身を寄せる。なんとなくその仕草が、ここなら来たばかりの頃、クルルに添い寝をしてもらった時のことを思い出させた。
強い恋慕の情と共に感じる安堵。
「でも……お願いを聞いてくれるなら、一緒にお風呂入りたいな。お風呂もランドロスも好きだから
俺が思わず反応に詰まると、反対側で寝ているシャルが俺の手を引っ張る。
「……ダメですよ?」
「でも、シャルとカルアはえっちなことしようとしたよね?」
「そ、それはそうですけど……。その、クルルさんの積極性だと……」
クルルが首を傾げて、シャルは言いづらそうに口の中でもごもごと話す。
「その……ランドロスさんもえっちなことが好きみたいなので……クルルさんにメロメロになってしまうかもです……」
「そ、そんなことはないぞ。俺は、そういう行為をするために結婚したわけではないからな」
「……それは分かってますけど」
シャルの不安そうな顔にクルルが仕方なさそうに言う。
「じゃあ…….あ、服着た状態ならいい?」
「えっ……ん、んんっ? 服を着て……お風呂、ですか?」
「うん。話を聞いたことがあるんだけど。温泉地とかの方だと湯浴み着って言うのがあるみたいだし、服着て入っても大丈夫かなって」
「そういうものですか? んぅ……まぁ……裸にならないならいいの……でしょうか?」
シャルと俺は混乱するが、まぁ……肌を見ない限りは大丈夫だろう。
それよりも二人の熱で体が温まって眠気が限界に近づいて、瞼がひとりでに落ちていく。
「あれ、ランドロス、もう寝ちゃったかな。疲れてたのかな」
クルルがそう言い、まだ起きていると反応しようとすると、クルルはギュッと俺の手を握る。
どうかしたのかと思っていると、クルルはシャルに言う。
「……寝てるみたい。そうだ、シャル。さっき怒っている演技してたけど、あんまり追い詰めるのも可哀想だよ」
「……演技ではないですよ。怒ってはいますもん。連れて行かれたとは言え、そんなお店に行ったことにも、隠し事をしてることにも。……わざと大きな反応をしたのは事実ですけど」
ああ……クルルはシャルが本当はそれほど怒っていないことを教えようとしてくれているのか。俺が落ち込んでいるのを見て。
優しいクルルの心遣いに感謝を覚える。
「でも、ランドロスを休ませるためだよね?」
「……それは、そうですけど。ランドロスさんは、放っておいたら休みもせずにずっと動き続けるんですもん。あ、ランドロスさんには秘密にしてくださいよ。喋ったらめっですよ」
「うん。話したりはしないよ」
……これは……起きてはいけないな。
ちゃんと寝たフリをしないと怒られるだろう。
愛しさのあまりシャルを抱きしめたい気持ちをグッと抑えているとクルルの手が俺の服の中に入ってきて、腹をすりすりと撫でる。
……クルルさん?
「あ、あの、クルルさん、そんな風に触っちゃダメだと思いますよ。怒られちゃいますよ?」
「ん、寝てるから大丈夫だよ。起きてたら反応するでしょ?」
「そ、それはそうかもですけど……寝てるところを触るなんて……」
「シャルも、ランドロスの腹筋触ってみたいと思ったことない?」
「そ、それはありますけど……恥ずかしいですし、頼んだらエッチな子だと思われるかもしれないので……」
起きていますとは到底言えないような空気がどんどん強くなっていく。というか、クルルがわざとそんな空気を作ってるような……。
そうしている間に俺の上を通ってクルルがシャルの手を握り、俺の身体の方に寄せる。
「今なら触ってもバレないよ?」
「そ、そうかもですけど……」
シャルは葛藤したような声をあげる。
……腹筋なんか触って何が面白いのだろうか……。シャルやクルルの体の方がどこもかしこも柔らかくて気持ちいいと思うが。
クルルの手が俺の服を捲り上げてシャルの手を引っ張る。
「じゃあ、私が無理矢理引っ張って、シャルが力負けして触っちゃったってことならいい?」
「そ、それは……」
何か否定の言葉を出そうとしたシャルだが、手は抵抗する素振りを見せることなく、俺の腹にぺたりと触れた。
小さな手の柔らかい感触、こそばゆさに思わずピクリと動くと、シャルはビクッと反応する。
「わわ、触ったらぴくっとしました。その、やっぱり、硬くて……おっきいです」
腹がすりすりとシャルの手に撫でられるが、寝たフリを続けた。
「あれー? 私もう手を離してるけど」
「あっ、わ、そ、その、それは……」
シャルが慌てていると、クルルは首を横に振る。
「言い訳はしなくていいよ。好きな人の体に触りたいのは普通のことだから大丈夫だよ」
「そ、そういうものでしょうか」
「うん。特別えっちってわけじゃなくて、人ならみんなそうなんだよ。ランドロスは寝てるし、それにこのことを知っても怒ったりしないから大丈夫だよ。ね?」
「そ、その……ひ、秘密にしてくれますか?」
「もちろん、寝てるランドロスにいたずらしても、誰にも言わないよ」
クルルによるシャルへの誘惑。
シャルの手は俺の腹から離れることはなく、未だにすりすりと撫でていることが、その誘惑が成功したことの紛れもない証左だろう。
結果として……ふたりからめちゃくちゃ触り回されてるけど、起きるに起きれない。どうしよう。




