魔石
まぁ正直金はあっても困らないがなくても問題ないしな。俺は普通に何年でも森で生活出来るし、俺含めて五人ぐらいなら人に頼ることなくとも衣食住は問題ないし、最低限の生活と身の安全なら金がなくとも保証してやれるので特に気にすることでもない。
俺も俺の嫁もそんなに金を欲しがってる奴はいないしな。ただ少し、カルアがネネにヒモと煽られるだけのことだ。
「理由は分かったが……普通に必要な人が多いだけってなると解決が難しそうだな」
取り過ぎたら裁く者が……いや、それ自体の対応は難しいものではないけど、一応は知り合いの管理者を困らせるのもな……。
それにずっと俺がかかりきりで魔石を回収するというのも四人に寂しい思いをさせてしまうしな。
「……諦めるか? いつか落ち着くだろ」
「ん……困っている人がいるのは確かです。それが私のせいなら、どうにかする必要があります」
カルアは固い決意を表情の浮かべてジッと俺を見つめる。
やっぱりカルアは偉いな……と思っていると、彼女はポツリと言う。
「人に迷惑をかけたらシャルさんに怒られます」
「あ、はい。……とは言っても……迷宮から取れる量は決まってるだろ。まさか他の国に掘り起こしにいく訳にもいかないしな」
「ん、ランドロスさん、お忘れですか?」
「……何かあったか?」
「私は、天才なんですよ?」
……はあ、それは知っているが。だからどうしたのだろうか。
俺がそう思っていると、カルアがピンと指を立てる。
「作っちゃえばいいんですよ。魔石」
作れる物なのか? と思ってナーガの方に目を向けると、彼も困惑した表情を浮かべていた。
「あ、疑ってますね。そもそも自然環境で発生する物なんですから、その状況を真似したらいいんですよ」
「……地中に埋まってるよな」
「はい。必要なのは大きな圧力と魔力、それと鉱石です」
「鉱石?」
「そこは深く考えず、ある種類の鉱石が必要という認識でいいです。ランドロスさんにはまだ少し早いので。簡単に言いますと、ある程度地中奥深くで魔力の通る龍脈の近くにその鉱石があると魔力が固まって固形化するという感じです」
そんな仕組みなのか。だから鉱山とかでよく見つかるのか。いや、半分も理解出来ていないが。
「まぁつまりは魔力を集めて鉱石と一緒に容器に入れて圧力をかければ出来上がりです」
「存外簡単そうだな」
「既に人が編み出した技法を真似するだけなんですから当然です。編み出すまで、見つけるまでが大変な訳です」
「そういうものか……いや、まあそうだな。剣でも魔法でも、人の真似をせずに我流をしようとしたらひたすらに時間がかかるが、習えば数日だ」
だが……まだ多少の疑問がある。
「魔力はどうするんだ?」
「龍脈というものがあるんですけど……残念ながら、ノアの塔が使っているので、それを取っちゃうとトウノボリさんが困ってしまうんですよね。なので基本的には人に分けてもらう形にしようかと。具体的には人から魔力を吸い取って魔石に変換して、それをその人に渡すという形にしようかと。一応開発費や維持費や管理費のためにお金もいただくという感じで」
「……それはそれで問題が発生しないか? 安くなれば、採取を主な収入としている新人の探索者が困ると思うが」
「値段設定とかでどうにかならないかなぁ、と。そこのところのノウハウはないので、ゆっくりとしていくしかないですね」
そうカルアが言ったところ、ナーガが水晶玉を机の上に置きながら俺達に言う。
「そういうことであれば、私どもにご協力させていただけませんか? 私どもは探索者の方々のために作られたギルドですので、新たな装備とそれを活かすための魔石の安定した供給にはお手伝いさせていただきたいのです」
「ふむ……つまり、利権が欲しいと」
「はい。ご慧眼の通りでございます」
認めるのかよ。
少し引くが、カルアの方は気に入ったのか仕切りに頷く。
「まぁ……そうですね。今回のことは適当にやり過ぎて失敗しました。平等に誰にでも技術を渡そうと思っていたせいで、お金持ちだけ得られるということになってしまいましたから」
「もちろん、どなたにでもご利用いただけるようにさせていただきますよ」
「ふむ……んー、でもあまり不平等なのは……」
カルアが迷ったようにそう言い、俺はなんとなく思ったことを口にする。
「別にカルアは神様ってわけでもないんだし、誰にでも平等にって考える必要はないだろ。そもそも……俺のことは圧倒的に贔屓してるしな」
「……それはそうなんですけど。まぁ正しいんですけど……。私が好き勝手に振る舞うと、人類なんて容易に滅びてしまいますから」
カルアはそう言ったあと「ですが」と続ける。
「あまり手を出しすぎてもランドロスさんと過ごす時間が減ってしまいますしね。これ以上シャルさんにメロメロになったり、クルルさんに見惚れられたり、ネネさんに構ったりして、私の方を見てくれないのは寂しいですから」
「……まあ、俺も一緒にいれる時間が多い方がいいしな。けど、今すぐにどうこうってわけでもないだろ。実物を作ったりしてからのことだろ」
「ん……そうですね。ランドロスさんもいるので、先に作ってみましょうか。材料も迷宮に行けば見つかるでしょうし」
「……今から行くのか?」
「ランドロスさんなら大丈夫ですよね?」
まぁ……俺の魔法の性質上、荷物を整えたりする必要はないが……せっかくのデート……いや、うん迷宮デートだ。そう思おう。
カルアはナーガに「前向きに検討しますね」と伝えてから立ち上がる。
俺も続いて立ち上がりながら、ドレスの写真の載った冊子を手に取りつつナーガに言う。
「これ、ありがたかった。手間取らせて悪いな」
「いえ、前任の商人がご用意したものなので。また……来週末ぐらいにギルドの方に伺わせていただきますね。ドレスに合わせた装飾品などの見本をお持ちいたします。他にも必要なものがあれば」
「……あー、教会の祈り用具……ロザリオみたいなものがあれば。あと、写真を撮れるカメラが欲しいが……本当に頼んで大丈夫か?」
「ロザリオとカメラでございますね。ご用意させていただきます」
こんな敬われても困るというか……使い走りのようなことをさせるのはなんとなく申し訳ない気分だ。
俺がそう思っていると、カルアが俺の手を引いて話す。
「お城にもこういう商人の方がよく来ていたので、そういうものだと思って受け入れたらいいと思いますよ。ナーガさん達にとってもそちらの方がありがたいでしょうし」
そんなものだろうか。……少し前まで森で生活していたのに、貴族や何やらと同じような扱いとは落差がすごいな。
……まぁ、カルアは慣れているみたいだしカルアに合わせるか。




