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ヒーローごっこ

 あまりの照れ臭さに口元を抑えて表情を隠していると、カルアが「た、食べましょうか」と言って手を合わせる。


「……カルアの照れどころはよく分からないな。あれだけ熱心に誘ってくるのに」

「ん、それとこれは別なんです。なんというか……そういうことならランドロスさんを手玉に取れそうな気がするんですけど、その……自分の思いを伝えるというのは惚れた弱みがあるので勝てない気がします」

「……いや、お互い経験ないなら分からないだろ」

「それはそうなんですけど……ランドロスさんって、なんとなくそういうのに弱そうというか……」


 どんなイメージだ。むしろキスに夢中になっておねだりをしてくるカルアの方が弱いだろう。

 むしろ俺がカルアに勝てるのはそれぐらいしかない。


「カルアの方が弱いだろ。ふたりきりになるとすぐに甘えた声を出すしな」

「そ、それはですね。その……だ、ダメですか?」

「……可愛いからダメじゃない。けど……手玉に取られることはないぞ」


 カルアは誘惑をしてくるがあまり上手くないというか……そういう俺を我慢出来なくさせる雰囲気や仕草はむしろシャルの方が……というか、シャルは俺の理性を奪うのが上手すぎる。天然の傾国である。

 カルアは直接的な言葉を好むため、むしろ不器用なぐらいだ。そこが可愛いのだが。


 カルアは食事を始めて俺と会話するのを止める。

 俺も食事に集中しようとしたとき、店主が店の入り口に行き【準備中】の札に変えるのが見えた。


「……あれ、もう閉店するのか? 何かあるなら早めに出た方がいいか?」


 俺が店主にそう言うと、彼は首を横に振る。


「料理が出せないからだ。気にしなくていい」

「早くないか? まだ昼時だが……」


 それに客もほとんど来ていないし、到底そんな材料がなくなるようには見えないが……。

 店主は俺の疑問に応えるように、椅子に座って本を読み直しながら話す。


「……魔石が切れた。ウチは料理に臭いが付かないように火の魔法で調理しているからな。魔石がなければ料理も作れない」

「こだわってるのな。まぁ、美味いしな、これ」


 いくらこの辺りだと木や炭が高いとは言えど、魔石の方が数倍の値段はするし、そもそも魔道具はめちゃくちゃ高い。


 クルルが魔道具が好きだから相場を把握しているが、安いものでも普通の人の平均月収近い値段だ。

 細かい火加減の調整の効くものと考えると、それの数倍から十数倍はするだろう。客足もあまりないようだし、この店よく経営が成り立ってるな。


「魔石なんて腐るものでもないのに、適当だな」

「買い忘れじゃねえよ。最近は値上がりが酷くてな……」

「値上がり? ああ、闘技大会と復興で探索者が迷宮に潜ってないからか。いくつか持っているから良かったら譲ろうか?」

「いいのか?」

「その代わり、今日は俺たちが食べ終わるまでは貸し切りで頼む。こんな目をしていたら目立って絡まれやすくてな」


 魔族に対する差別もあれば、妙手の探索者としての尊敬もある。どちらにせよカルアとのデートに口を挟まれるのには変わらず、嬉しいものではない。


 店主にいくつか魔石を渡してから食事を再開する。

 少ししてカルアが食べ終わり、ポツリと口を開く。


「……少し不思議ですね。ランドロスさんが言うように腐るものではないので、色んなところで大量に備蓄してあるので、ひと月ほど供給量が減ったところで急に値上がりするものでもないはずですが」

「あの商人が値を吊り上げるためにやったのか……?」

「ランドロスさんは商人さんをなんだと思ってるんですか。供給量の多いものだから、商人さんでは資金が足りませんよ」


 だいたいの悪いことはアイツのせいだと思っていた。

 だが……カルアでも原因不明な事態というのは気になるな。迷宮の仕組みを考えると枯渇はないだろうし……。


 まぁいいかと思うが、カルアはどうにも気になっている様子だ。


「……調べたいのか?」

「えっ……い、いえ、気になるのは確かですけど……デートの最中に調べるのはランドロスさんに悪いですし」

「いや、別にいいぞ。……クルルなら服の買い物とか、シャルなら劇とかぬいぐるみとか喜ぶけど、カルアはそういうのは好きじゃないだろ? あと買い食いとかも若い奴の中なら多いみたいだけど、カルアはそういうのは無理だろ」


 さっさと食事を腹に詰め込み、魔石と金を取り出しながらカルアに言う。


「せっかくのデートなんだ。やりたいことをやっていこう」

「……いいんですか?」

「勿論だ。カルアの趣味の救世に俺も付き合わさせてもらおう」


 デートで人助けなんて妙な気もするが、相手の趣味に付き合うというのは珍しくもなんともないだろう。楽しいデートなんだし、相手に合わせるのも悪くない。


 会計を済ませて外に出る。


 カルアは少し申し訳なさそうな表情をしながら俺を見て、俺が嫌がっていないことを察してかその表情を和らげさせる。


「ん、では調査を開始します。リーダーは私、カルア・ウムルテルアが担当しますね」

「了解。それでどうする、カルア」

「リーダーとお呼びください」

「……リーダー、どうする?」


 まるでごっこ遊びだと思うが、まぁデートなので遊び混じりでもおかしくないか。……いや、デートなのに子供の遊びっぽいのはおかしいか。

 楽しそうなので止めないが。


「まず、手がかりが足りないですね。どの範囲で不足しているのかを確かめましょう。予定通り商人さんのお店に行って、話を聞いてみるのがいいでしょう。作ったばかりのお店なら、色々な販路とかを探っているでしょうし」

「どの範囲って、普通に全体的に枯渇してるんじゃないのか?」

「んー、いえ、迷宮からの産出以外に輸入とかもあるでしょうし、迷宮からの産出の中でもどの階層からとかもあるはずなので」

「ああ、そうか。別の国からも取り寄せられるならそんなになくなるのは妙だな」

「内訳を知らないのでなんとも言い難いですけど、魔石を使った魔法技術はほとんどこの国の専売ですし他の鉱石を掘っていたらついでに見つかりますから二束三文で買えるはずですし、そもそも小国なので少しの輸入で成り立つはずなので、足りなくなったら買えばいいだけなんですよね」


 具体的な内容は分からないが……妙なことになっていそうなのは確からしい。

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