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デート回

 カルアとふたりで部屋から出る。

 少し落ち着かない様子のカルアに目を向けると彼女は珍しく小声で俺に話しかける。


「あ、あの……自分から無理に言っておいてなんですけど、シャルさんも一緒に来るように誘いますか?」

「いや、別にシャルもふたりで約束しているところに来たがりはしないだろ」

「……その、シャルさんではなく……」

「……シャルではなく?」


 まさかカルアが俺とふたりきりなのを嫌がるはずはないし、クルルは仕事中だし、ネネも普段から日中は会いに来ようとしないので気にはしないだろう。だとしたら……。


 カルアが俺の顔色を伺うかのようにチラチラと見ていることに気がつく。


「……ランドロスさん、シャルさんと一緒にいたいかと」

「えっ、ああ、まぁそりゃそうだが……」

「ですよね。だから、その方が……」


「カルア」と名前を呼ぶと不安げな瞳がこちらを向く。


「バカだな。カルアは」

「……いえ、世界一賢いですけど」

「カルアとデートをするのは、俺も楽しみにしていた。みんなでというのもいいが、今日はカルアとふたりでいたい」

「……本当です?」

「いつも自信満々なのにどうしたんだ? 嫁とデートをしたいのぐらい、俺だって思うに決まってるだろ」

「…………シャルさんのことが一番好きなのかなって」


 その言葉に一瞬冷や水を浴びせられた感覚がして、すぐに首を横に振る。


「……誰が一番とかはない。みんななによりも大切だ」

「そう、ですよね。……私らしくないことを言いました。その、何人増えても愛してもらえると思っていましたし、今もそう思っていますが……。結婚してからもどんどんランドロスさんのことを好きになっていて、感情的になってしまってます」


 すっとカルアの手を握り、その小さな手の感触を確かめる。小さくて細くて頼りない印象を覚える。

 これで世界を救ったり滅ぼしたりと簡単にするのだから不思議だ。


「俺も、あの時よりもずっとカルアのことが好きで大切になってる。……どこか行きたいところはあるか?」

「え、えっと……ランドロスさんと一緒なら、どこでも……」

「じゃあ、とりあえず昼食を食べられるところか」

「は、はい。えへへ」


 ギルド以外だとほとんど食事をしないが、店の場所だけは復興のときに把握出来ている。カルアを連れて顔見知りのところに行くのは冷やかされそうで嫌だが、知らないところに入って追い返されるのもな。


 まぁ冷やかされるのは仕方ないと諦めるか。無駄に顔も知れてしまっているしな。


「何か食べたいものとかあるか?」

「そ、それは……ランドロスさんという答えはありですか?」

「なしだ。……とりあえず、外に出るか」


 カルアと共に外に出て、高い日を見上げる。


「……今日はあったかくていいな」

「えへへ、そうですね。……えっと、一緒に歩いて、良さそうなところがあったら……だとダメですか?」

「もちろんいいが……どっちの方に歩く? ……あー、特に何もないなら、商人がオーナーをやってるギルドに行ってみるか」

「あっ、色々頼んでたものを買いにですか?」

「用意出来ているかは分からないけどな。カルアの分はまだしも、シャルの花嫁衣装とかは……体格的に当然特注になるだろうしな、どういうのがいいとかは聞かれてないから、たぶん今は融通の効く仕立て屋を探しているところだと思うが…….話を聞きに行くぐらいはいいかと思ってな」

「……デートと言うより、披露宴の打ち合わせじゃないですか?」

「あっ、ダメだったか? どういうのがいいとか、聞いてみた方がいいかと思ったが……嫌だったら後日でも」


 俺がそう言うと、カルアはギュッと俺の手を握る。


「問題ないです。良きに計らえ、ですよ」

「はいはい。……色々と忙しくて遅くなって悪いな」

「急がなくても大丈夫ですよ。まだまだ時間はありますから。……これからは、ゆっくり過ごしましょうね

「ああ、そうだな。とは言っても、まだやらないとダメなことはあるからしばらくはなぁ」


 そう言いながら歩いていると、カルアが「あっ」と声を出す。


「聖剣さんを持ってくるの忘れてました。時々、街に連れて行くって約束してたのに」

「ふたりでいたいし、いいんじゃないのか? 見られていると思うと色々やりづらいだろ」

「まぁそうですね。……その、宿に入ったりとか」

「今日はしないぞ」

「……えっ」


 いや、なんで驚いているんだ。


「……カルア、いざとなったら逃げるだろ。それに緊張してたらデートも楽しめないだろ、カルア」

「そ、それはそうかもですが」

「まだまだ時間はあるだろ」

「うぅ……。あっ、そういえば、イユリちゃんが面白いものを作ってたんです」

「師匠が?」

「はい。私が管理者さんとのことで色々していた間に密かに作っていたみたいで、まだまだ未完成ではあるんですけど」

「おおよそ裁く者みたいな感じなんですけど、聖剣さんに取り付けて、魔力を変換して木の人形を作ってですね。裁く者の技術を流用して、聖剣さんの意思によって木の人形を動かすってものです」

「……聖剣に手足が生えるということか?」

「まぁそういうことになりますね。自分で動けないのは可哀想だからって作ってあげてるみたいなんです」


 木の人形に剣が突き刺さった物を想像して微妙な気持ちになる。気持ちは分かるが……ぱっと見だと魔物っぽいな、それは。


 カルアは俺の手を引いて上目遣いで俺を見つめる。


「それで、なんですけど。ランドロスさんのお知り合いに物作りがお上手な方っていますか? その……お察しの通り、試しに作っていた木の人形が不気味なので綺麗な人形を作りたいんですけど、私もイユリちゃんも美術的な才には若干欠けているようでして……」

「ものづくりか……。特に思い浮かばないが……」


 歩きながら少し考えて、ひとりだけ心当たりがあることに気がつく。


「本業ほどじゃなくてもいいのか?」

「とりあえず作るのに、不気味だと聖剣さんが可哀想ってだけなので大丈夫ですよ」

「なら俺が作ろうか?」


 カルアは俺の言葉を聞いて「何言っているんだコイツは」と言わんばかりの視線を俺へと向ける。


「……いや、気持ちは分からなくないが、これでも割と器用だぞ。森で暮らしていたときは何から何まで自分で作っていたし、細かい道具も自作したりしてたしな」

「ん……でも、像とかそういうのは苦手じゃないです?」

「作ったことはあるぞ。勇者との旅の最中にどうしても寂しくて、シャルの顔とかを思い出しながら、自分を慰めるために」

「……ランドロスさんのエピソードっていちいち物悲しさと気持ち悪さを孕んでますよね」


 そうだろうか。自覚はないが。

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