緊急会議
朝食を終えて、ボリボリと頭を掻く。
商人との約束があるから荷物を全て渡すまではアチラには帰れないし、少しゆっくりしていくか。まぁ……幾ら目を隠しているからと言っても、あまり外には出歩けないので暇だが。
……ここから帰るときは、シャルとは離れ離れか。元通りと言えばその通りだが……寂しいな。
子供の相手をしているシャルには話しかけにくいし……まぁ、仕方ない。そう思っていると、院長の姿が見えたので、声をかける。
「院長、ちょっといいか?」
「あ、はい。どうかされましたか?」
「……ここの子供はやはり見捨てたくはないと思っている。してやられたが……まぁ、それも悪くない」
「してやられたなんて……」
「多分、思っていたほど金持ちでもないだろうし、有力者でもなくて申し訳ないからそこまで力にはなれないがな」
「いえ、ありがとうございます。本当に……ありがとうございます。これで……子供達が飢えてしまうところを……助かります」
「あと、院長もちゃんと食事は摂った方がいいと思う。……子供も心配そうにしているし、倒れられても困るだろ」
痩せた頰を見る。……腹黒い、と、言うよりかは色々と細かい策を立てて人を乗せようとしているのは分かるが、だからと言って悪人というようにも見えない。
ただの、子供のために必死な大人だ。
「えっ……あっ……は、はい。ありがとうございます」
「……シャルも、アチラでよく褒めていたよ。だから、もう少し元気でいてくれ」
俺は空間魔法から回復薬を幾つか取り出して、院長の前にも置く。
「腕が取れても引っ付けながら飲めば治るぐらいの回復薬だ。病には効かないし、疲れが取れたり血が増えたりはしない、完全に怪我を治すのに特化した戦士用の回復薬だからあまり使えないかもしれないが、まぁ……病とかでも一日保たせるぐらいの力はある。もし誰かが危険な状況になったら使って、すぐに俺を呼んでくれ」
「は、はい。本当に、ありがとうございます」
「……いや、下心ありきだから、気にするな。お礼をしたいなら、シャルに俺のことを嘘でもいいから良く言っておいてくれ」
院長はきょとんとした後に少し笑う。
「そんな嘘なんて吐かなくても、ランドロスさんは十分に素敵な方ですよ」
「そういうのはいい。真面目な話なんだ」
「いえ、本当にそう思っていますよ。私が結婚したいぐらいです。……私と結婚しません?」
「なんでだよ」
「……チッ」
「……えっ、今舌打ちした? 気のせい? 俺の気のせいか?」
「気のせいですよ。……でも、本当に……わざわざ褒める必要なんてないと思います」
ほぼ存在しない可能性でも……少しでも可能性をあげたいだけなのに、協力してくれないのか。
教義で嘘はダメとか決まっているんだろうか。
それから少し院長と話していると、商人がやってきたので再び馬車に商品を載せる。商品はまだまだあるので……もうしばらくはゆっくり出来そうだな。
◇◆◇◆◇◆◇
【ギルドマスター:クルル・アミラス・エミル】視点
困ったことになった。とても、とても困った。
「まさか本当に立ち入り禁止命令が出るとはね……」
私が項垂れながらそう言うと、ダンジョンに入れずにギルドでぼうっとしていたミエナが口を開く。
「うーん、まぁ、私の数十年間貯めた私財を出しますから、しばらく、一年ほどならなんとかならなくはないですね」
「ミエナには本当に苦労をかけるね。私も私財を投入したいところなんだけど……。お小遣い、日に銅貨五枚だけだからなぁ」
「しばらく耐えるしかないですね。……でも、あの人どうしたものでしょうか」
ミエナの言葉に私は頭を悩ませる。確かにそれが問題だ……。
あの人……数十年前に【迷宮鼠】を作ったあの人……初代ギルドマスター【不眠不休】のグライアス。私がギルドマスターに就任したときにしかギルドに戻ってこなかった人だ。
「……連絡、取れないんですよね。あの人」
「探せなくはないけど、探すには迷宮に入らないとだしね……」
「社交能力低いし、あの横暴な勇者と会ったら……」
「喧嘩で済みますかね……」
「……いやぁ、半殺しにはされるだろうね。勇者」
「運良く、会わずにいられますかね……」
「いやぁ……んー、あー、そうだったらいいけど……」
悪い予感しかしない。私は立ち上がって、パンパンと手を叩く。
「今から緊急会議を始める! 寮にいる人は全員叩き起こしてきて!」
うちのギルドの一員が勇者を半殺しにしたとなれば、流石に問題だ。最悪ギルドが解散させられる。
早急に対策チームを立てて、初代ギルドマスターのグライアスを呼び戻さないと大変なことになる。
普段はギルドハウスにおらず、迷宮や自室に篭っているようなメンバーも集まっているため、かなり席が混み合っている。
いないのは新人の二人と初代ギルドマスターと、あと数名だけだ。
「えー、おほん、こうして集まってもらったのは他でもない。みんな迷宮に入れなくて困っていると思うが、勇者についてのことだ。第一に、お金が困ったら寮費やここでの食事代はツケにしておくから申し出るように、次にそれでもお金が足りない場合は貸与するので同じく申し出ること。それに暇だからとあまり街に出ないこと」
まずは掲示板などで既に周知していることを言ってから……一番の問題である本題に入る。
「えーそれで、本日の議題だが……初代ギルドマスターを呼び戻す必要がある。何故なら、迷宮の中で勇者とあったら間違いなく半殺しにするからだ」
ギルドの中から「ああ……」との声が聞こえる。
「そうなると私達のギルドに解散命令が出される可能性がある。だから呼び戻す必要があるが……。人間以外の種族は立ち入り禁止となっているため非常に難しい。そのため案を募りたいんだが、いい考えがあるものはいないか?」
私の言葉を聞いてみんなが各々で話し合うことで少しギルドが騒めく。その誰もがギルドのことを心配し、助け合おうとしているのだ。
密かに感動を覚えるものの、そう都合良くいい案が出たりはしない。
最悪、人間の私なら出入りが出来るので……と、考えていたところで、一人の有翼人種と魔族のハーフの男が羽毛の生えた手をパサパサと挙げる。
「僕が高いところまで飛んで、塔の外から大声で呼ぶのはどうですか?」
「うーん、魔法的な力が働いているから、外部からだとどうやっても声が届かないんだよね」
「そっかぁ」
彼は落ち込んで手を下ろすと、他の人が手を上げた。幽霊型の魔物の少女だ。
「夜中に隠れて忍び込む、とか?」
「うーん、まぁ正攻法ではあるかな……あまり人数が入れないから、初代がいそうな階層までは辿り着けないかも。あと、そういうことが出来るのは……彼女ぐらいなんだよね」
私は猫の獣人の元暗殺者の少女を見る。彼女は優秀ではあるけれど、一人で初代のいるところまで行けというのは流石に酷である。
みんなを守るために一人を犠牲にするわけにはいかない。
そう考えていると、再び有翼人種と魔族のハーフの男が手を上げる。
「はいはい、じゃあ別のところに穴を開けて入る!」
「うーん、それは……穴を開けられたら一番なんだけど……」
そう思っていると、ハーフエルフの少女が控えめに手を挙げた。
「あ、あの……す、すみませんっ、すみませんっ」
「な、何がだい?」
「わ、私のようなものが意見を言おうとしてっ」
「いやいや、ギルドの仲間なのにそんなことを言うべきじゃないよ。みんな対等だよ。それでイユリ、どうしたんだい?」
「あの……穴なら、開けられるかもなんです……その、このギルドだったら……」
私は驚いて目を見開く。
「ほ、本当かい!?」
「それは一体どうやって……」
ハーフエルフのイユリはおどおどとしながら口を開く。
「あ、あの……空間魔法を使える、ランドロスさんがいたら……なんですけど」
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