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帰路

 案の定というか、シャルは町の外を歩き始めて十数分で疲れた表情に変わる。

 俺と同じように夜眠るのが難しかったようで睡眠不足な上、雨は止んでいるが地面はまだぬかるんでいる。


 まぁ体力のないシャルには仕方ないことなので気にすることもなく声をかける。


「おぶろうか?」

「えっ、あっ、も、もう少し歩けます」

「……背負われるのも揺れるから疲れるぞ。体力をギリギリまで使うと背負われて移動するのも辛くなるから、早いうちに」

「……そ、そうは言っても早すぎるような……ここから五時間はかかりますよね?」

「……下心もあるから、申し訳ないとか思わなくてもいい」


 暗にシャルと引っ付きたいだけだと言うと、シャルは足を止めて、泥のついた靴を気にしたように見る。


「……上着、汚れちゃいますよ?」

「距離が短いとは言えど旅をしてるんだから、そりゃ汚れるだろ。気にしなくていい」

「帰ったら、僕、洗いますね」

「疲れているんだろうから俺に任せてくれればいい」

「……背負われてる上に洗濯物もさせるのなんて、気が引けます」


 シャルの前でしゃがむと、シャルの腕が俺の肩の上になって細くて軽い体がふにゃりと俺の背中にくっつけられた。

 俺はシャルの体が安定するように少し前屈み気味になりながら、シャルのふとももを持って立ち上がる。


「……シャル、背負われるの下手だな」

「えっ、あ、す、すみません」

「いや、怒ってるわけじゃなくて。……手はこっちに回して、もっと体をくっつけて」


 俺に導かれるまま、シャルは俺の体に手を這わせる。少し必要以上に引っ付いてもらっているが……まぁ役得だ。


 しっかりとシャルを背負って歩き始める。シャルに歩いてもらっていたときと違い歩幅を合わせる必要がないのでペースはむしろ上がっていく。


 ほんの少しだけぬかるんだ地面に沈む足は深くなり、それがシャルの重さなのだろうことが分かる。


「……ランドロスさんは、やっぱり大きくて強いですね。肩も背中も、こんなに大きくて、僕を簡単に背負って」

「ガタイが大きい奴なんて珍しくもないだろう。俺よりも大きい奴なんてザラにいるしな」

「……ランドロスさんの背中が、一番大きいです」


 シャルは不思議なことを言うな。と思いながら、ふにふにとした感触のふとももに意識を集中する。ズボン越しではあるが柔らかくて気持ちいい。

 そんな下賤なことを考えている俺の背中で、シャルは呟くように言う。


「……ランドロスさんを守るとか、大口を叩いてこの様です」

「……いや、何度も言ったけど十分守られている。……シャルは俺を強いと言ってくれているが……俺が強いのは結局、生まれつき空間魔法の魔力と武術の才能があったというだけだ。やれることをやっているだけで、大したことではない」


 常人の中だと世界一強いかもしれないが、たまたま強く産まれただけである。そんなものに価値を見出せないというか……。


「俺からすると、シャルの方がよほど強くてかっこよく見える」

「そんなこと……」

「俺からすると、だ。シャルの目線では違うかもしれないけどな。……そうやって人によって感じ方が違うから、他者に惚れたりするのかもな」


 俺が何の気なしにそう言うと、シャルはギュッと俺の服を握った。

 それからしばらく会話がなく、背中にいるシャルの体温を感じながら秋の風を押し返すようにして歩く。


 それからふと、確かめなければならないと思ったことが湧いてきたので尋ねる。


「そういえば、シャルはカルアに……そういう、愛し合う男女がする行為について習ったんだよな」

「えっと、はい。その、そこまで詳しくは聞いてないですし、カルアさん自身も当然未経験なので正確かは分からないですけど……ランドロスさんは分かりますよね?」


 いや、俺も経験がないので突っ込むということぐらいしか分からない。まぁ動物も知識なくしているので問題ない気がする。

 でも小さいしな、シャル。初めてはただでさえ痛いと聞くし……。


 少し不安になるが、あまり格好悪いところは見せたくないと思って頷く。


「まぁ、ある程度はな。知識はあると思う」

「そ、そうですよね。……えっと、その……僕、どうしたらいいのか分からないので、お任せして……というか、指示に従う感じでよろしいでしょうか?」

「ああ。……痛かったり苦しかったりしたら、ちゃんと言えよ」

「は、はい。その、覚悟はしてます。結婚すると決めたときから、ちゃんと妻の務めを果たせるように……」

「いや、したくないなら……」


 と、言おうとしたら背後でシャルが首を横に振って髪の毛が揺れたのを感じる。


「い、意地悪言わないでください。したくないなんて言ってないです」


 意地悪のつもりはなく、シャルのことが心配なだけなんだが……。まぁ、シャルのようなお淑やかな女の子からしたら「えっちなことをしたい」なんて口に出来ないだろう。


 幼いのも分かるが、俺もシャルぐらいの年齢の時には異性の体への興味はあったしな。

 ……人も動物なので、ある程度の年齢になったら本能的に性衝動があるのは当然のことで、シャルのような可愛くて大人しい女の子でもそういう欲はあるのだろう。


 ……どうしよう、めちゃくちゃ興奮してしまう。


 知らぬ知らぬうちに脚が早くなっていき、思っていたよりも早く街に着く。

 シャルを降ろしてからギルドの仲間が迎えに来ていないのを隠れて確認したあとゆっくりと街の中に入る。


 それから大通りを歩いていたら見つかるかもしれないと思って裏路地にシャルを連れ込んで土地勘を生かして宿を目指す。

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― 新着の感想 ―
[一言] 300ページおめでとうございます。
[一言] 300話更新おめでとうございます。 いつも楽しませてくださってありがとうございます。 これからも爽やかな煩悩宜しくお願いいたしますwww
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