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一週間で

「まぁ格好いいか悪いかは別としてね」

「格好いいですよ」

「それは置いといてね」

「格好いいです」

「……まあ、うん、そうだね。それでね」


 カルアは管理者に無理矢理同意させて満足そうに頷く。

 ……何故か俺の方がめちゃくちゃ恥ずかしい上に変な恥までかいているからやめてほしい。


「それで、何です?」

「……純粋な話として、君達は何も知らないわけだよね。交渉をするにしても私が何を欲しているかも分からないわけだしね」

「ああ、それなら教えてください。とりあえず勉強しますから」

「教えてって……君達の時代よりも数千年先の話ばかりだよ」


 普通に話し始めた二人を見つつ、警戒してキョロキョロとしているネネの手を上から握って落ち着かせてやろうとしてネネに殴られる。


「覚えるのに数千年かかるという話ではないでしょう。10階層に勉強をする部屋がありましたよね。効率的に学ぶ手段があるんじゃないですか?」

「……そりゃ、教科書とかはあるけど……専門分野だけで6年、基礎で12年はかかるからね。流石にそんなに時間かけてたら間に合わなくなるし……」

「合計18年分ですか。昔の人は随分と長いこと勉強していたんですね。んぅ……いらないところを省いたり、元々知っていて被ってるところを省いたりしたらどれぐらいになります?」

「……基礎分野は半分には出来るけど、流石に交渉する前に10年もかけてはいられないよ」

「じゃあ、一週間で」



 カルアの言葉に管理者は「はぁ?」と呆れたような表情を浮かべる。まぁ10年以上の時間がかかると言った後に一週間と言われたらそりゃあそんな反応にもなるだろう。

 だが、俺もネネも、カルアの大口を疑っていない。いや、むしろ……。


「案外謙虚に出たな。カルア」

「まぁ、一応未知の知識だからということだから多めにとってるんだろう」


 むしろ、カルアにしては謙虚な方だ。


「……いや、えっと、カルア、それは無理だよ? かなりの量があるからね。一週間だったら全部一瞬目を通すだけしか出来ないよ?」

「目を通せたら十分です。一週間ぐらいなら待ってもらえるってことですよね?」

「ま、まぁ……そりゃそうだけど……」

「では、とりあえずはそれでいいですね。とりあえずその教科書を寄越せです」

「え、ええ……あー、紙媒体のは風化して残ってないから、端末に入ってるのでいい? 紙がいいなら紙で渡すけど」

「端末? というのはよく分からないですけど、何でもいいですよ」


 カルアは管理者から何か変な板を受け取り、使い方を簡単に教わってから指を動かし続ける。

 どうやらその板には何か文字が表示されていて、本のようになっているらしい。

 よく分からないが、少し重たそうだが大丈夫だろうかと思っていると、カルアは何か操作をして、机に立てかけると、板に表示されている文字が流れるように変わっていく。


「腕が疲れなくていいですね。これ」

「……えーっと、それ、読めてるの?」

「読めてますよ。んー、かなり子供向けの内容ですね。一応飛ばさずには見てみますが」

「まぁ……そこらへんは子供用だから。……話してるけど大丈夫なの?」

「ん、別に問題はないですよ。では交渉を続けますか」


 カルアは板から目を逸らすことなく管理者に言う。管理者はカルアのことをあまり信用していないようだが、俺からすると似たようなことをしている姿を見たことがあるのでそう不思議でもない。


 イユリが数十年かけて研究した内容を数分で覚えて改良しだしたカルアだ。これぐらい出来ることは分かっていた。


「まず、基本的にですけど……ランドロスさんをはじめとして【迷宮鼠】の人達の身の安全は絶対です。ここだけは絶対に譲れません」

「……身の安全、なんてこの世界に存在しないよ。何もせずに放っておいたら崩れてなくなるんだから」

「だから、なくなってもいいんです。崩れた上で生きていきます。そういう面倒な話ではなくてですね、今より危険な目には遭わせません」

「それなら代案を出してもらわないと……」

「代案を出すために持ってる情報を無限に寄越せですよ。こちとら新婚ラブラブなところを邪魔されてきてるんです。本当ならお部屋でイチャイチャしてるのにこうしてるんですよ」


 カルアは不満そうに言いながらも目は文字を追っている。


「……まぁ、敵対するつもりがないなら情報は渡してもいいけど……というか、その端末の中に結構入ってるから」

「ふむふむ、後で目を通しておきます。というわけで、何かそちらから提案する場合はこちらに被害がない範疇です。いいですね」


 カルアはそう言い切ってから端末に目を向けて見つめ続ける。

 管理者はカルアと俺達を交互に見て「この子、いつもこうなの?」と尋ねる。


「まぁ、カルアは割といつも強引だな。そういうところも可愛いと思うが」

「そ、そうかな。……ランドロスの考えはどうなの?」

「その部分に関しては俺も同意だな。管理者の言っている「魔王を使って人を間引くことで食われないようにして撤退させる」というのは分からない話ではないが……ハッキリ言っていつかは破綻するだろう。たまたま俺が勇者パーティに加わっただけで失敗したんだぞ」

「……アブソルトは歴代でも相当強い魔王だったんだけどね。……まぁ、これまで上手くいっていたから、君みたいなイレギュラーがなければ……いつかは、滅びる」

「6万年滅びなかった化け物がいつか滅びるって期待するのは馬鹿らしくないか?」

「無限に続くものはないよ」


 ガリガリと頭を掻く。


「俺達もな。……魔王……アブソルトから聞いたんだが、この雷の魔法はその化け物から得た力なんだろ。効かないのか?」

「まぁ純粋な力不足でね。その化け物から作ったけど、大部分の力は死んだ時になくしたみたいで」

「……殺すことに成功したことがあるんだな」

「私達、旧文明人の力を合わせて……なんとかして化け物を同士討ちさせてね。私達の攻撃は一切通じなかった」

「……なるほど、化け物同士なら攻撃が通じる……というか、雷なら多少は効くということか」

「……同じことはもう無理だよ。そもそも、基本的には一体ずつしか来ないしね」

「……基本的な体の作りは旧文明人? というのと俺達に違いはないんだろ? 同じことをしたら同じようになるんじゃないのか?」

「成功したのは一度だけで、何百と失敗してる」


 管理者の声は暗い。

 負け続けて、心が折れた者の声だ。

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