マッサージ
ベッドの上で俺を見つめているシャルを見てゴクリと喉を鳴らす。今からあの身体を揉めるのか……。
シャルの薄べったい体には理性を軽々と破壊するぐらいの魅力はあり、それに触れられることへの期待が高まる。
「では、肩をお揉みするので背中向けてくださいね」
「……えっ、シャルがするのか?」
「ち、違うんですか?」
「いや、俺はそんなに疲れてないから、シャルの脚を……」
「えっ、ええっ!? そ、そんなこと……す、するんですか……?」
羞恥に赤くなった顔を見て適当に頷く。
おずおずとこちらに伸ばされた脚を見て喉を鳴らすと、俺が興奮していることに気がついたシャルが恥ずかしそうに俺を見る。
「ランドロスさん、脚……好きですよね」
「ま、まぁ……好きだが。靴下脱がしていいか?」
「ど、どうぞ……」
シャルは長いスカートを履いた脚をゆっくりと上げて、中が見えないように脚の間のスカートを手で抑える。
俺はシャルと脚から靴下をするすると脱がして、シャルの白い生足を見てゴクリと唾を飲む。
いつも寝るときには目にしているものだが、やはり改めて見ると白くて綺麗で小さくて可愛らしい。
「あ、あの、汗とかかいてますけど、変な匂いとかしてませんか?」
「してない。触るな」
スカートを少しずらしてふくらはぎに触れる。細くて柔らかい感触にゴクリと生唾を飲み込みながら、ふにふにと撫でるように揉んでいく。
汗がしっとりとしていてシャルの肌に張り付いて気持ちいい。男としてのものや頭に血が集まっていくのを感じながらシャルに尋ねる。
「痛くないか?」
「き、気持ちいいですよ」
「……無理はするなよ?」
俺がシャルの脚を揉んでいると、シャルはもどかしそうに身をよじる。
「あ、あの、ランドロスさん、その、ふ、ふとももを触られるのは……」
「……疲れてるだろ」
「疲れてはいますけど……。ひゃんっ! う、内側の方はくすぐったいですよっ」
「……わ、悪い」
「足裏もこそばゆ……んっ、んひっひひひ、やめっ、やめてくだ、やだ、んひひっ」
反応が可愛くてくすぐったらシャルに睨まれてしまった。
「……マッサージは終わりです。ランドロスさん、意地悪なこととかえっちなことばっかりしてきます」
「い、いや、ごめんなさい。可愛くてつい……」
「か、かわ、可愛いとか、そんな言葉で誤魔化されませんからっ。……ま、まぁ……その、くすぐらないのでしたら、触ってもいいですけど」
いつのまにかマッサージという建前がなくなって俺がシャルの脚を触ることが目的になっている。
シャルのスカートがめくれていて膝の裏が見えている。なんか可愛いなと思ってそこに指を這わせるとびくっとシャルの脚が動く。
「……く、くすぐらないでください」
「いや、そのつもりはなくて……。もう夕方だから、夕食食べに行くか」
「んぅ……じゃ、じゃあ、その……最後に」
シャルがねだるまま、彼女の薄い桃色の唇に口づけをすると、シャルは照れたように笑みを浮かべて俺の方に手を伸ばす。
「大好きですよ。……ランドロスさんはご心配されてるみたいですけど、ずっと一緒にいるつもりだから結婚したんですよ?」
「……ああ、いや、でも親元にいた方がと思わなくもなくて……」
「そんな軽薄な気持ちで結婚なんてしません。一生寄り添います」
シャルはモゾモゾと靴下を履いて、俺の手を握る。
「大丈夫です。……ね?」
「……ああ。……すぐにとはいかないが、探しに行くか」
よく考えたら、俺もクルルも両親がおらず、カルアは家出してきていてシャルも孤児だった。……まぁ普通に親がいたらこんな男には引っかからないよな。
もう一度キスをしてからふたりでギルドに行って、カルアと合流する。
「あ、ランドロスさん、シャルさん。デート楽しかったですか?」
「とても楽しかったです。ね、ランドロスさん」
「ああ、楽しかった。……カルアに相談があるんだが……シャルの両親のことなんだが……」
「両親? シャルさんは孤児ですよね?」
「両親が戦争に行くから孤児院に預けられたという経緯がある。……呼び出された時間などを考えると兵じゃなさそうだからな。聖職者などだったら、弔いのために戦争が終わってから多少遅くなるのも納得だろう」
カルアは不思議そうにこてりと首を傾げる。
「それはそうなんですけど……なんでデートしてたらそんな話が出てくるんですか?」
「シャルのことを考えていたらそうなった」
「そ、そうですか。……うーん、院長先生からご両親のお仕事などは聞いてないんですか?」
「……孤児院では、その……親の話は、ちょっとしにくかったので」
まぁ、両親がなくなった子供が来ることがほとんどなのだから話題にはあげにくいか。シャルのような優しい女の子なら尚更だ。
「ふむ……つまり、希望的な観測をするとシャルさんのご両親は健在である可能性が高いと。……院長先生のところに聞きに行くんですか?」
「すぐにという風に考えているわけじゃないが……」
「んー、流石に見つかったらあちらの方から連絡が来ると思いますよ。孤児院の場所が変わったといっても、調べたらすぐに分かることでしょうし。素直に待っていてもいいと思います。……探しにいきたいのは分かりますけど」
「……でも、何の役割で連れていかれたのかぐらいは知っておきたくないか? ……後方支援なら戦況的にほぼ間違いなく生きているだろうしな」
「……そうですね。聞きに行くぐらいなら……結婚の挨拶も必要ですし……はい。すみません」
カルアがペコリと頭を下げて、俺もシャルもカルアが頭を下げた意味が分からずに顔に疑問を浮かべる。
「なんで「すみません」なんです?」
「……なんでって、その……えっと……」
カルアは非常に申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「えっと、その……ランドロスさんと離れるのが嫌だったので、ごねようとしました」
「えっ……一緒に行かないんですか?」
「……えっ、ん、行っていいんです?」
「前みたいに三人で行きましょうよ」
……シャル、素で商人のことを忘れてるな。いや、まぁ……孤児院にはあんまり一緒にいなかったしな。
あれでも活躍度合いでいうと断トツだったんだけどな。
あとクルルは流石に連れていけないから申し訳ないな。……誤魔化すわけじゃないが、行くまでの間にめちゃくちゃ甘やかすか。
だいぶ近くなったので二日で往復出来るので……一日寂しい思いをさせることになるな。
クルルに休みを聞いてそれと被らないような日程にしよう。
「それはそうとしてですね。ランドロスさん、私は今日ですね、魔法初心者のためにイユリさん流の魔法の教科書を作っていたんです。文字が読めない方や子供にも分かりやすいように絵をたくさん使った」
「それはいいな」
「それでなんですけどね。まぁその休みがてらギルドの若い女の子達でおしゃべりしてたんです。メルちゃんって知ってます?」
「……いや、知らないな」
「メルちゃんもキナさんもヤンさんが好きだそうで、幼馴染みで仲良しだったのに今ゴタゴタしてるんですよ」
……三人とも分からない。
「くーちゃんとみんみんもその影響でちょっと落ち込んでるみたいで……」
「……誰一人として分からねえ」
「……もうちょっとギルドの同年代の人と仲良くしましょうよ」
「いや、怖いし」
だいたい俺の同年代となると、二世や三世なので生まれたときから割と安定した生活環境だし、男女比も同数と……正直なところ、同年代の女性と何を話したらいいか分からない。
それに子供をふたり嫁にしてひとり恋人にするというのは普通にドン引き案件だろうからなぁ。あまり深くは関わりたくない。
「怖くないですよ。これを機に若い子の集まりにも顔を出しましょう」
「いや、それはちょっと……」
「明日迷宮鼠の若年層の集まりがあるので、一緒に行きましょうよ。ね?」
「い、いやだ」
俺とカルアがそんなやりとりをしていると、マスターが紙の束を持ってこっちにやってくる。
「あ、ランドロス。ちょうどよかった。少し明日頼みたいことがあってね」
「頼み? ああ、明日な。分かった。明日ならもう何でも引き受けるぞ」
カルアが「もう」と怒った表情をするが、若い人の集まりなんて怖いので行きたくない。
そう思っていると、クルルにピラッと紙を見せられる。
「それならよかった。ギルドの20歳前後からそれ以下のメンバーで、探索者パーティのお見合いみたいな企画があってね」
……ゆっくりとカルアに目を向ける。ニッコリとした笑みを返される。……引き受けてしまったよ。




