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十倍にして返します

 非常に微妙な気分だ。

 別に死んでも構わないと思っているし、シャルに渡すための金を奪われたのは今でも思い出すと非常に不快だが……微妙な感じだ。


「……ダメですよ? 旧友とは言えど、助けに行くのは」

「いや、まぁ助けに行ったりはしない。……この前気がついたけど、アイツ、助けられるのが死ぬのよりも嫌いみたいだからな。それよりも金稼がないとな……」

「そうですね……。私とイユリちゃんで作る野菜大量生産プラントにもかなりお金が必要ですからね。稼いでもらわないと」

「…………えっ、それの出資俺がするの?」


 俺が驚いてカルアを見ると、ニコリと笑みを浮かべて俺の肩をポンポンと叩く。


「大丈夫ですって、要は勝てばいいんですよ。勝てば、種銭さえあれば負けないですから。ね? すぐに十倍にして返してやるってんです」


 それギャンブル狂いのヒモのセリフなのではなかろうか。カルアにポンポンと肩を叩かれて、金をせびられる。


「まぁ、とりあえず金貨三千枚ほどいただけたら、イユリさんと研究するための施設を建てられるので、ね?」

「……え、いや、そんなに持ってない」

「ひとまず土地代だけでもいいんで。孤児院に寄付するのと、生活費と、シャルさんとの結婚式代ぐらいは残していていいですから」

「い、いや……カルアとも結婚式を挙げたいんだが……」

「大丈夫ですって、すぐに元は返せますから、ね? ね? ね?」


 ヒモ……いや、これはヒモというレベルを超えているのではないだろうか。


「お小遣いちょうだいです」


 こてりと首を傾げて、俺を上目遣いに見つめる。

 こ、こいつ、自分の可愛さを理解している……!


 カルアに負けて金貨の入った袋を取り出すと「ありがとうございますっ」と礼を言われる。……かわいい。

 …………頑張って稼ごう。


 そんなカルアとのやり取りを終えたところでシャルとクルルが目を覚ます。いつものように着替えるからと外に出される。

 ……やっぱり、広い部屋に移りたい。クルルが寝巻きのまま出てきて、小さく手を振って自室に帰っていく。


「……あ、枕持って帰った方がいいんじゃないか?」

「ん、いや、いいよ」


 枕がなくても問題なく寝れるのだろうか。まぁ、探索者ではないとは言えど、一応探索者ギルドのギルドマスターだしな。

 それぐらいは気にしないか。


 しばらく待っているとシャルとカルアが出てきて、三人でギルドに入る。


 マスターはまだ来ておらず、三人で朝食を摂る。


「朝からよく食べますね、ランドロスさん」

「……ん、まぁ、また迷宮に潜るからな。……なぁカルア、カルアにとって俺ってなんなんだ?」

「大好きな恋人ですよ? どうしたんですか?」


 食べている手が止まって、カルアが心配そうに俺を覗き込む。


「……俺が、金を稼げなくても好きになってくれていたか?」

「えっ、どうしたんですか、突然。そんなの当然ですよ」

「……いや、何でもないんだ」


 俺がそう言ったとき、カルアがわしゃわしゃと俺の頭を撫でる。


「もしかして、いつもお小遣いをねだるから気にしてたんですか?」

「……少しだけ、いや、違うんだ。別に疑ってるわけじゃなくてな」

「もう、本当に何を言ってるんですか。私がこうやってお金をもらって研究しているのは、将来ランドロスさんと幸せに過ごすためなんですよ?」

「……カルア」


 カルアの名前を呼ぶと、カルアはニコリと笑みを浮かべる。


「私を信じていてください。きっとビッグになって楽させてあげるので、ね?」

「カルア……俺が間違っていた。そうだよな。そもそも、楽をするためだけなら家出なんてしないよな」

「まったくですよ。でも、不安に思わせてしまったんですよね。今日の支払いは私がしますよ」

「カルア……!」


 後ろからネネが歩いてきて、俺とカルアのやり取りを見て口を開く。


「……それ、元はランドロスの金じゃないのか……?」

「あ、ネネか。おはよう」

「……朝から酷いものを見た。ヒモ、働け」

「働いてますよ。ヒモじゃないです。ランドロスさんは私の研究に出資してるだけです。あ、ランドロスさん、迷宮に潜るなら取ってきてほしいものがあるんですけど」


 カルアにメモと地図を渡される。どうやら必要な物とそれの在り方らしい。

 迷宮の四階層までには全部あるようだが、階段から階段までの最短の道のりからは離れているところが多く取ってくるのは面倒くさそうだ。


 まぁ、いくつかは既に持っているから今日一日あったら集められそうだ。


「分かった。でも、こんなに置ける場所あるのか?」

「今から買ってくるので大丈夫ですよ」


 カルアは手に持った金貨の入った袋をチャリチャリと鳴らす。


「あ、ネネさん、買いに行くの着いてきてもらえますか? 欲しい売り物件はもう見つかってるんですけど、私とシャルさんだけだと相手されないかもしれないので」

「誰がヒモの手伝いをするか」

「僕からもお願いします、ネネさん」

「……先生がそう言うなら……仕方ない」


 だから前から思っていたが、シャルとネネはどういう関係なんだ。


 適当に食事を終えてから迷宮に向かう。

 とりあえずカルアのために金を稼ぐか……。かわいくお礼言ってくれるし……。


 貢がされている気がするが、うん、まぁいいか、可愛いし、やりたいならやらせてあげたい。

 突然土地代をねだられたのはびっくりしたが……孤児院に寄付した総量よりかは安いし、うん、全然セーフ。


 俺は迷宮と相性が良く、一日あたり普通のパーティなら数人で魔物一体を持って帰るのがせいぜいだが、俺は一人で百体ほど持ち帰れるから稼ぎはいいし、数日頑張れば先程渡した分ぐらいは稼げる。


 しかし……売りすぎたら値崩れしそうだな。……明日は別の魔物の素材を手に入れるためにもっと奥の方まで行こうか。

 あと、魔石を取れる場所にも行くか。

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