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出所

 今度こそカルアかシャル……多分忙しいだろうからマスターは来てくれないと思うが、期待しながらいくとかなり大柄な筋肉質の大男、炎龍の翼のギルドマスターのダマラスが座っていた。


 ダマラス……おっさんと相部屋になっておっさんと話した後におっさんが面会にきてまたおっさん……。


「えっ、なんで露骨に嫌な顔をした。なんか俺嫌われるようなことしたか?」

「いや、悪い。期待した奴と違ったから……はぁ……悪い。ダマラスは一切悪くないが、非常に残念な気分だ。あと、依頼で来てるだけで別に捕まったわけでもないからな」

「分かってるって、俺のところに依頼が来たけどお前を勧めといたんだよ」

「ああ、そういう。流れだったのか」

「面倒くさいのを押しつけて悪いなって、ほら、差し入れ」


 ダマラスから少し高級そうな菓子を押しつけられる。シユウからも菓子(炭)を受け取ったし、最近この国のおっさんの中で俺に菓子を押し付ける流行でもあるのだろうか。


 素直に礼を言って異空間倉庫の中に菓子を仕舞う。


「……昨日、クル……マスターがギルドの会議があると言っていたけど、ダマラスは参加しないのか?」

「ん? 会議……ああ、うちは人間以外の種族はいないからな。同じ村から出てきた幼馴染みでギルドを組んだ感じでな」

「それで迷宮国有数のギルドに登り詰めたのか。すごいな」


 来た時はシャルやカルアではないと思って残念に思ったが、俺の交友関係では珍しい常識的なやつだ。話していて癒しを感じる。

 おっさんに癒しを感じるのはどうなのだろうかと思いつつ、衛兵の女性と交代で入ってきた、新人らしい男に茶を出される。


「おう、ありがとさん」

「そう言えば、急な話なんだが、ダマラスって恋人とかいるのか? もしくは妻とか」

「ん、ああ、同じギルドに妻がいるな」

「同じギルドって、幼馴染みでギルドの仲間で結婚してるのか。すごいな。羨ましい」

「そんないいもんじゃねえぞ。仕事中も私生活も管理されて尻に敷かれる……。正直息苦しく思う時もある」


 尻に敷かれる……ああ、奥さん、ネネみたいな人なのだろうか。確かに座られるところによっては息苦しいよな。あれって。


 若干の同情心を感じたが、ダマラスは口だけ嫌そうにしているだけで表情は嬉しそうにしていたので、きっと仲の良い夫婦なのだろう。


「……今度、女の子と初めてデートをすることになったんだが、どうにも経験がなくてな。周りに詳しい奴もいないから、やり方を教えてくれないか?」

「俺も別に交際したのは一人だけで詳しくないし、やり方なんて人それぞれだと思うが……」


 ダマラスは少し言葉を止めて俺の顔を見つめる。


「ランドロス、さっき、そっちのギルドマスターを名前で呼びかけてたよな? ……それに、最近よくお前のことを自慢してるのを見るし……もしかして、お前ら出来てるのか?」


 ……失敗した。あれから頭の中ではマスターのことをクルルと呼んでいて、ギルドの仲間ではないダマラスと話していたせいで完全に気が抜けていた。


 俺が思わず冷や汗を垂らすと、ダマラスはそれで察したらしい。


「あー、そうか。おめっとさん。あれ、でも他に恋人いるって言ってなかったか?」

「……許可は得ている」

「ああ、それならいいんだけどな。女の嫉妬は怖いから気を付けろよ? ……結構、歳の差あるよな。あの子、今何歳だ? もしかして小人混ざりだったりするのか?」

「……純粋な人間で、11歳だ」


 ダマラスは「お、おう」とドン引きしながらも、引いていないという雰囲気を作って頷く。


「あー、まぁ、なんかやけに自慢してると思ったらそういうこと……というか、惚気だったんだな、あれ」

「…….いや、デートが決まったのは昨日だからそういうわけではないと思うが」

「じゃあ、惚れた男を自慢してただけか。初々しいな」

「……何て言ってたんだ?」

「聞き流していたが、強くて優しいとか、気が大きいから小さいことでは怒らないとか、子供にも優しいとか、まぁ色々と。単に最近活躍していて褒められているからそれに便乗して自慢してるのかと思っていたらな」


 そうか。……そうか。そんなに俺のことをよく思っていてくれたのか。めちゃくちゃ照れるし嬉しい。

 ……余計にデートで失敗出来ない。


 俺の様子を見てダマラスは安心したように息を吐く。


「あー、なんだ。普通に仲良くやってるんだな。歳は離れてるけど。ちゃんと好き合ってそうで安心した」

「まぁ、マスターのことは好きだ。……ギルドの奴には隠してるから言いふらしたりするなよ?」

「分かってるって、それで、デートだったか。俺はなぁ、幼馴染みだし、デートとかになる前からずっと一緒に出かけてるからあまり参考にならないと思うぞ。ギルドの買い出しとかのついでに最近出来た店とか、馴染みの店にふたりで行く程度だしな」

「……なんかそれ、めちゃくちゃいいな」

「そうか? 普通だと思うが」


 とてつもなく幸せそうだ。

 だが……まぁダマラスが言うように、今回のマスターとのデートでは参考にならないか。


「そういうデートの指南の本、書店とかに置いてあるから買えばいいと思うぞ」

「本って高いんじゃないのか?」

「ああ、他国では高いけど、この国ではそんなに高くないぞ」

「なら後で買ってみるか。悪いな、変な相談をして」

「いや、いいってことよ。なんて言うか、若くて初々しいな。昔を思い出した」


 ダマラスはそう言ってから出て行く。本当に差し入れをしにきただけだったな。

 とりあえず、本を買って勉強すれば問題なさそうなので依頼が終わったら買いに行くか。


 依頼は実質的に俺に出来ることはもうなく、後はガルネロ達が何もしないかを見張りながら待っているだけなので暇そうだな。


 ……まぁ、留置所の中ではあるがゆっくりと休むか。最近なんだかんだと休みがなく働いていなかったわけだし、たまにはこういうのも悪くない。



 俺はそれから二日間、ガルネロとどうでもいい話をしたり、たまに面会にきた奴と話したりしながら留置所で生活をしてガルネロ達が護送されてから檻から出る。


 疲れは取れたが、ほとんど動かない生活だったせいで身体は凝った。


 衛兵達にガルネロから聞いた青髪の女のことなどを話してから留置所の外に出て、書店に寄ってダマラスとの話にあった本を買い、ボリボリと身体を掻きながらギルドに帰る。


 楽な時間ではあったけれど、身体を拭いたりすることは出来なかったので汗がベタついていて気持ち悪い。


 クルルに頼んで風呂を貸してもらおうかなどと思いながらギルドの扉を開けて、いつものギルドの空気を吸った。


「あ、ランド、出所おめでとー」

「ミエナ、その言い方は捕まっていたみたいだからやめろ。……なんか機嫌がいいけど、どうしたんだ?」

「最近マスターがご機嫌でね。しばらくバタバタしてて疲れた様子だったから私も嬉しくなっちゃって、えへへ」


 ミエナの言葉を聞いて若干血の気が引きつつも平常心を装う。

 一刻も早くミエナから離れるべきだと考えて、二人で勉強をしているカルアとシャルの方に向かった。

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