好みの異性
「ランドロスさん、ランドロスさん」
「ん?」
「私の言葉に続いて同じことを言ってくださいね? 「俺はカルアが世界一好き」はいどうぞ」
「……? 俺はカルアが世界一好き」
酔って机に項垂れていると、カルアにそんなことを言わされる。
まぁカルアのことが好きなのは事実なので特に抵抗もなくオウム返しに言うと、口元にクッキーが運ばれてきてそれをもぐもぐと食べる。
「よしよし」
頭を撫でられて、心地よさにうとうとしていると、カルアが再び同じことを言う。
「俺はカルアが世界一好き。どうぞ」
「俺はカルアが世界一好き」
「いい子いい子。もう一度」
「俺はカルアが世界一好き」
クッキー美味しい。
俺がカルアに甘やかされていると、隣でメレクと商人が話しをしていた。
「……なぁ商人、お前って迷宮国に来る前からランドロスと知り合い何だよな」
「はい。そうですよ?」
「……俺はてっきりな、そういう趣味があるランドロスが強引に口説いてみたいな関係だったのかと思ったが……。ランドロスが手懐けられていないか?」
「旦那は精神的に脆弱ですからね。基本的に人間関係だと敗北しますよ」
好き勝手言うな。……カルアはどっちが先に好きになったのかは微妙なところだが、シャルは俺が惚れて口説いた形なのでメレクの言葉が正しいだろう。
「では、ランドロスさん。ランドロスさんが世界一好きなのは誰ですか?」
「カルア?」
「よし、よく出来ました」
わしゃわしゃと頭を撫でられていると、シャルが不機嫌そうに俺を突く。
「カルアさん。それはズルいですよ。無理矢理言わせているじゃないですか。……ランドロスさんは僕のことが好きですよね」
「ああ」
「世界一ですか?」
「ああ」
「じゃあ、なんて言うべきか分かりますか?」
「俺はシャルが世界一好き」
俺とシャルのやりとりを見てカルアが俺の肩を掴む。
「そ、そういうのはダメですよっ! ズルいです!」
「先にやったのはカルアさんじゃないですかっ!」
二人が睨み合い、商人がまぁまぁと仲裁する。
「ランドロスの旦那もどちらの方が好きとか、深くは考えてないと思いますよ。そりゃ一番に愛されたいと思うのも分かりますがね」
「……むぅ、それはそうかもしれませんが」
商人はいいことを思いついたとばかりに手を叩く。
「じゃあこうしましょう! お二人がお菓子を持って、先にランドロスさんが食べた方が愛されているということで」
「ランドロスは犬か?」
メレクのツッコミも虚しく、シャルとカルアはクッキーを手に持って俺の顔の前に持ってくる。
「ランドロスさん、美味しいクッキーですよ?」
「僕のクッキーの方が美味しいですよー」
いや、同じ味だろう。
クッキーを見つつ、どうするべきか迷う。どちらを先に口にしても禍根が残る気がする。
……いや、これ、人を相手にやるような行為なのだろうか。
「僕のを食べたら後でちゅーしてあげますよ?」
浮かんでいた疑問はシャルの声で消し飛ぶ。酔った頭でふらふらとシャルの手のクッキーの方に手を伸ばそうとしたとき、カルアがクッキーの端を唇で咥える。
「ははひはふっひーほふひふふひへはへはへへはへはふほ」
何言っているのかは全然分からないが、多分クッキーを口移しで食べさせてくれるということだろう。
後でというものよりもその場での欲求に従いかけた俺を見てシャルは怒る。
「は、はしたないですよっ! みんなが見てるところでっ!」
「はへははんふんはんへふほ!」
「ず、ずっこいです! 騙されちゃダメですからね、ランドロスさん! カルアさんは悪い人です!」
酔いがまわってきてそろそろしんどい……。と思っていると、シャルに無理矢理クッキーを咥えさせられる。
「ふふん、力技です。如何に策を練ろうが、最後には強い方が勝つんです」
カルアが俺の口に咥えられているクッキーを手に取ろうとして、口に咥えていたクッキーを落とし、俺の口に咥えてあったクッキーも床に落ちて重なる。
トン、と、ネネが机の上に手を置く。
「食べ物で遊ぶな。ランドロス」
「…………えっ、俺?」
「食え、早く」
まぁ別にこれぐらいなら食うけど……かびたパンとかも普通に食うし……。クッキーを手に取って軽く払ってから口に含む。
……これ、一応はカルアとの間接キスということになるのだろうか。
俺が悪いのだろうかと疑問に思っていると、カルアがポツリと呟く。
「お、思わぬ伏兵が……」
「こんな馬鹿いらない。揉めてまで欲しいものでもないだろ。こんなの」
「ランドロスさんが馬鹿なのは否定出来ませんけど、何をどうしても欲しいですよ! ネネさん、男の人の趣味がおかしいんじゃないですか?」
「おかしいのはお前たちだ」
シャルはムッとした表情でネネに尋ねる。
「じゃあ、ネネさんはどんな男の人が理想なんですか?」
ネネは少し戸惑った表情を浮かべてから口元を手で隠し、照れを隠すためにか不機嫌そうな表情で口を開く。
「……白い、馬に乗って助けに来てくれる王子様みたいな」
「ええ……王子はやめておいた方がいいですよ。無駄にプライド高いですし、肥満体の人が多いですよ」
「……太った男は嫌だ。痩せてて優しい王子がいい」
「そんな人はきょうだ……おほん、知り合いにはいませんね」
そういえば本当にお姫様だったな、カルア。王子様も兄弟か……。
というか、ネネの趣味が予想の五倍乙女だ。てっきり「私に従順な犬」とでも言うかと思っていたが。
「ふむ……王子様はだいたい運動不足と飽食で小太りですし。それっぽい人ならいい感じですか? 白い馬に乗ってたら」
「……まぁ、騎士様は許容範囲」
「なるほど、変わった趣味ですね。……でも、ランドロスさんの方が馬よりも速く走れますよ? 持久力もありますし、積載量も段違いです」
「私は男を積載量で見てない」
ネネが不機嫌そうに言うと、商人が頷く。
「ああ、アタシのツテを辿りましょうか? 知り合いにいいのがいますよ」
商人の方にぐりんとネネの目が向く。
「何、本当か?」
「ええ、もちろんです。馬を育てている牧場がありましてね。いい毛並みの馬が揃ってますよ。もちろん白毛種も」
「なんで馬の方がメインだと思った?」
「もちろん積載量もそこそこ高いですよ」
「なんで私が積載量にこだわっていると思った? そんな女いると思うか? 人生の伴侶に顔、人格、金、地位などよりも先に積載量を求める女がいると思うか?」
「アタシは積載量の多い女性を伴侶にしたいですけどね」
「……ランドロスの友人はおかしい」
……いや、俺の友人だからではなく、ただ純粋に商人の頭がおかしいだけだ。俺は関係ない。
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