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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
5章 大学年度末編

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12.もう卒業だね

 続々と生徒たちが集まってくる。


 キーファは、魔力を付加できるアーチェリーを持ってきていた。

 黒いピッタリとしたストレッチ素材のシャツに、茶色の胸当て、手にはグローブ。

 腰にはリディアがあげた短剣を差していた。刀身が割れてしまったが、師団でメタル加工をしてもらい、火と氷の魔法属性をつけられる元の仕様に戻していた。


 これならば遠距離攻撃もできるし、接近戦にも持ち込める。彼の本気度を感じた。


 ウィルは、武器を携帯せず軽装だった。ディアンとの訓練も秘密、としか言ってくれずどんな内容かも、どのくらい魔法を操れるようになったかも言わない。


 でも晴れ晴れとした表情だ。


(というか、ふたりとも……)


 筋肉ついたよね。

 キーファはもともとインナーマッスルがついている。背が高いのに、背筋が伸びており姿勢がよい。なのに自然体で、圧迫感がない。

 今は、上半身が逞しくなったというよりも、前腕と上腕、背筋が引き締まり、さらに腰が上がった。恐らく臀部の筋肉が引き締まったのだろう。


 ウィルも前からスポーツをやっていたから、バスケをやっている時など前腕やふくらはぎの下腿三頭筋が発達しているのは見ていた。シュートの腹チラでも、お腹の筋肉がうっすらと何等分かに割れていたのは見えた。

 今は全体的に、少し体に厚みがました。これは相当ディアンとシリルに鍛えられたと思う。


(羨ましい……)


 そして、その仕上がりを対抗戦にもってきたのが、二人の負けず嫌いを表していた。


 勿論二人の特訓の賜物だろうが、リディアより筋肉の付きやすい身体であることに間違いない。就職先にもよるだろうが、師団に入ったらかなり鍛えられた身体が出来上がりそう、羨ましい。


 リディアは、筋肉が付きにくい身体だ。最近はトレーニングもしていないし、かなり運動能力も落ちた。バルディアに行って弱ってしまったのもある。


「――何?」

「今あなた達と魔法なしで肉弾戦したら、もう勝てないかも」


 キーファは苦笑していたが、若干口元を引きつらせていた。ウィルは明らかにギョッとしている。


「俺はあなたを守るために鍛えてきたので、戦う気はありません」

「なんでそういう発想になるんだよ。つーかキーファ、いまさりげにアピールしたよな」


 キーファは肩をすくめる。リディアは二人の筋肉を相変わらず見つめていた。

 うん。やっぱりいい仕上がりだな。


「悔しい」


 リディアははっきりと二人に告げた。


「いつか将来、対戦してね、私と」


 二人は目だけでちらりと視線を交わしていた。リディアよりもだいぶ高い目線でそういうの止めて欲しい。


「たぶん、俺アンタより強くなるけど」

「俺もです。申し訳ありませんが」


 二人ともはっきり言ってくれる。

 生徒が自分を抜くと言ってくれるのは嬉しいし、リディアも二人の実力から、それはわかっている。


「うん、追い抜いてね。でも手加減しないでその時は戦って」


 二人は何か言いたげな顔で、けれど黙って返事をしなかった。それが返事なのだろう。


 対抗戦は学年末試験であり、成績は点数で決まる。けれど、対抗戦というからには対人。つまり生徒同士の魔法をつかった戦。


 三時間後の終了時の点数で成績が決まるが、点を得るには、戦わなくてはいけない。


 つまり生徒同士は、相手を倒すことが目標。何もないところに魔法を放っても点数はつかない。対戦者にたいしての魔法で点数がつくのだ。そのために、生き残りをかけて他者と戦う。


 そして最後に残り、かつ点数が高いもの優勝者になるが、それにはより敵を倒しておくこと、最後に一対一になった時は、勝ち残った方に点数が加算されると公表されている。


 事前予想では、やはり火系魔法領域の生徒が一番の優勝候補。ケヴィンもそのひとりだ。

 でも、リディアはキーファやウィルも負けていないと思う。それこそ他の教員たちにとっては大穴ではないかと思っている。


「私はずっとは見ていられないけど。頑張ってね」


 二人は穏やかで落ち着いた、でも好戦的な色を宿した瞳で笑って集合場所に向かっていた。リディアはその背を見送った。



***


 ――結局ケイはつかまえられなかった。


 そのあとの雑務で、彼を探す暇がなかったのだ。開始時刻になり、ようやくリディアは自由になったが、始まってしまってからは、非常時以外、仮想空間には入れない。生徒との接触は禁止されている。


 採点している教授やお偉方のモニター室へは下っ端は入室しない。


(――許可されていても、絶対行きたくないけど)


 ディアンやワレリーからは、遅れて覗きに行く、という個人メッセージが届いていたから事務に伝えておいた。

 リディアのような雑務と緊急時対応要員は、なにかあれば個人端末(PP)に連絡が来て、現場対応が求められる。何もなければ待機。


 と、思っていたら早速PPに連絡が来た。


 リディア達のような下っ端と事務員その他が集まる待機室にリディアは向かった。そこは、モニターがあり各所を写している。


「――体調不良の生徒が続出ですか?」

「ええ。開始後すぐに気分不快を訴えた生徒が三名。フィールドを抜けたとたんに回復したけれど、念のため救護室へ。緊張などで、毎年よくあることなんだけど、その後も気分不快などでリタイアの子が続いて。ハーネスト先生、治癒魔法使えましたよね。ちょっと見てくれないかしら」


 土属性魔法の助教の先生に頷いて、リディアはモニターへと目を向ける。教員たちはここでモニターを見ながら、交替で休憩を取る。


「何名ぐらい続いていますか?」

「ここ十名ぐらいかしら」

「確かに多いですね。フィールドでは何か異変は?」


 彼女は首を振る。


「――ウィルとキーファが活躍しているわよ」


 サイーダの言葉にリディアはそちらのモニターへ目を向ける。

 キーファはまだアーチェリーを手にしている。奥の手の短剣(ダガー)へは目を向けさせていない。ウィルは、火球を操っていた。しかも自在にコントロールしている。


「いつの間にあんな力つけてたの?」

「二人とも実力ありましたから」


 しれっと答えたが、サイーダは確かに、とうなずいていた。そう、二人に潜在能力があったのは知られていたこと。


「さすが師団で訓練受けると違うのね」

「そうですね」


 リディアも応じる。


「それだけの力がないと師団も受けてはくれません」

「それもそうか」


 生徒の力を伸ばせるかどうかは指導者次第。


 彼らを師団に引き合わすことができてよかった。そう思い少し寂しくもなる。先ほどの会話もそうだけど、そろそろお役目ごめんかもしれない。


 リディアはモニターを背に、救護室へ向かった。


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