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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
4章 大学放逐編

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2.ウィルの疑惑

 ウィルはリディアの顔を見て思う、ああ、何かあったなって。

 

 リディアは正攻法でいっても無駄なときがある。ウィルはわずかに黙考して、今はいったん引くことにした。


 あどけない顔、結構可愛いけど、華やかな美人ってわけじゃない。

 ただ肌は綺麗だ。あんまり化粧を重ねていない、地肌が綺麗なんだろうなと思う。柔らかそうな頬は触れたくなるし、キスしたくなる。


 ただ目に力がない。この間の事件から三日後。まだ疲れが取れてないのか。


(いーや、それだけじゃないね)


 それは、わかるけど。


「バーナビーに吸われたじゃん。傷跡みせてよ」

「嫌」

「なんで?」


 リディアの目がすわる。


「もう痕ないから。それに吸われてません」

「じゃ、噛みつかれた。言葉変えても同じ」


 リディアはしっかり首筋まで覆う襟のシャツを着ている。

 そこに小さなスカーフまで巻いている、まるで隠すかのようだ。


(ないって言ってもさ。もろ意識してんだろ)



 自分も、リディアも。


「ウィル。心配してくれているのは感謝するけど、もう治療は済んでいるので平気なの。それよりも用事は何?」


 訊かれたくない時、リディアは頑なになる。

 まあ確かに自分に見せる義理はないし。傷跡を見たら嫉妬で、リディア相手にどうにかしていたかもしれない。


 ウィルは腰に手を当てて、ふーっと息を吐いた。


(俺は、どうしたいんだろうな)


 前は好みと思ったら、落としてた。

 付き合ってみて合わなかったら互いにやめる、そんなラフな関係が楽だった。それでも、その相手の好みに合わせてデートコースを選んでいたし、良さそうな場所があれば連れてってあげたいと思うこともあったし、エッチなこともしたいって思っていたし。


(でも、リディアは違うんだよな)


 全然なびかないし、ちょろそうに見えて全然意識してくれないし。


 そんなでも一生懸命こっちのことを考えてくれる。

 大事にしたいし、笑わせたいし、抱きしめたい。



 でもそれ以上に――怖い。

 どこかに、いきそうで怖い。悩んだ末に、ふと姿を消してしまう、そんな怖さがあった。


「ウィル? 調子悪いの? まだ契約結んだばかりでしょ? 魔力の調子はどう?」


 今度は心配そうな顔をして見上げてくるリディアに、ウィルは意識を戻す。


 リディアからウィルと呼ばれるようになった。

 それはリディアにとってすごく距離を近づけたことなんだろうけど、全然縮まった気がしない。


「全然。てか、前もこういう会話したよな」

「……そうね」


 前にウィルが魔力を開放したときのことだ。リディアは自分も怪我を負ったくせに、いつも人の心配ばかりしている。


「ディアン先輩に頼んであるから、少しずつ付き合い方を習得していってね。最初は魔力を取られ過ぎて辛い時もあるから」


 また、ディアンだ。

 俺はアンタに教わりたいって言ってるのに。


 でもわかっていた。たぶんそれは、リディアには負担なのだろう。

 そして、本来は自分で習得していかなきゃいけないこと。リディアでも、ディアンでもない、誰かに頼るべきじゃない。自分の力だから。


「――あのさ、ディアンってさ」

「うん?」

「あのひとって、人間?」


 あの“ひと”っていいながら、おかしいだろ、って思いながらもそう訊くしかない。

 リディアは、一瞬黙ったあと、吹き出した。


「やだ、ディアン先輩は人間よ」


 その無邪気な笑顔。人間離れしているけどね、と付け加えて笑う。


 リディアはわかりやすいって思っていた、全部顔に出るから。


 けど――リディアが、どこまで本気でそれを言っているのか、全然わからなかった。


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