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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
3章 課外活動編

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36.プライド(おごり)


 小さな、子供のような死体を抱き上げる。

 ヘイは、逃げたのだろう。いつの間にか、いなくなっていた。


「ごめんね」


”あなたに祝福を“


 蘇生魔法は使えないが、せめて光の道を辿り、死後の世界に迷わず行けるようにと祈る。

 魔法省が定める魔獣の定義は、“人間に害をもたらすもの”だ。


 特に重要なのは“人間を食用とするもの”である。

 けれど彼らも、生きているのだ。彼らが悪いわけじゃない。


 倒す対象としないのは、害をもたらさない妖獣、妖精、そのほかの獣。

 魔力のない獣でも、人に害をもたらす場合は、やはり魔法師の出番となる。何が敵であるかの線引きは、曖昧だ。


 ただリディア自身としての考えは、人間でも魔獣でも彼らと戦う際にはある程度の敬意だったり、真剣さだったり、倒す理由が求められると思う。


 魔法を遊びで乱用し、他者を傷つける行為をすることは、許されない。

 見逃されても、いつか自分も報いを受けると思う。


 ――でも実際は違う。強者は強者、弱者は弱者。


 リディアも弱ければ、殺される。敬意なんて相手にもたれない。


『――捉えた魔獣をなぶり殺しにしてきたのと、どう違うのですか?』


 ヘイの言葉が突き刺さる。


 敬意を持って倒すように、そう伝えるつもりだった。

 真剣勝負をしろとはいえない、魔獣相手ならば汚い手も当たり前、生きるか死ぬかだから。


 でも、それでも――。

 この実習は違うと思ってしまう。


 目標は魔獣を三匹倒すというもので。

 目的は魔法を用いて倒す能力の習得で。

 その間に持つべき倫理観を抜いているから、おかしなことになっている。


 目的に達するためではなく、目標を達成することが目的になっているから――おかしい。

 ダメ。

 混乱している。

 受け入れられない、頭がまとまらない。

 

 こんなに、無力で、弱くて――。


(――憎まれて当然)


  ヴィンチの惨劇、あれはそう呼ばれるほどの大事件だった。


 リディアは、あの件で他の人が受けた後遺症も、その後どういう人生になったかも知らなかった。全員生き残った、それだけで十分だった。


 ……知ろうともしていなかった。


 自分だけに精一杯で、自分だけが被害者だと思っていたのだ。


(知らなきゃ――いけなかったのに)


目を背けて、ディアンや、ワレリーに任せて、そして新たな人生を探そうとしていた。


(こんなことで、人を教える仕事をしているなんて)


 いつまでも、うまく対処できない。


 生徒に満足に教えられていない。見本になれていない。


「――リディア!! 」


 声が響く。顔を上げると、必死で走ってくるのは、リディアの教え子だった。

 


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