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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
3章 課外活動編

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24.その結果

 第一師団団長の執務室には、備えつけの仮眠室とシャワーがある。濡れた髪を無造作にタオルで拭きながらシャワールームからでてきたディアンは、執務机の横のカウチに寄りかかり、タブレットをいじるディックを見て、目を細めた。


「緊急か」

「いや。けど西が騒がしいって一応知らせとこうかなと」

「――バルディアか」

 

 どうする、と目線だけで問う部下にディアンはしばしの黙考の後、口を開く。


「俺が出る」

「――それだけどな。あっち方面の潜伏隊のメンバー編成をちょい変えたいんだけど」


 部屋に入ってきたのは、シリルと副団長のガロ。

 歴戦の戦士風情のガロと並ぶと身長が百八十センチあるとはいえ、やはり女性のシリルは一見見劣りする。だが、ひょろりとした体格のディックとでは、シリルのほうが筋肉質で立派な体格に見える。


「お。相変わらずいい身体してんな」


 髪から垂れた雫を跳ね返すディアンの胸筋を見て口笛を吹くシリル。

 ディアンはその感想を無言で流す。女に褒められたと言うより、仲間として認められた、という気分だった。


 とはいえ、ディアンとシリルでは、筋肉の質が違う。ディアンのほうが硬く締まった体型で、シリルは筋肉が太く肉厚に見えるのだ。

 そして互いに戦いの得意分野が違うのだからどちらがいいというわけでもない。そもそも性別も違うのだが、それに関してディアンは何も感想を持っていなかったし、おそらくシリルも女として見て欲しいとは思っていないだろう。


「で、編成は?」

「後で作って送る」


 ディアンが首肯する。

 それぞれが自分の役目と相手の動きを即座に飲み込んだところで、そうだ、とシリルが切り出した。


「リディアが同僚の男と水着着用でBBQ行くってさ」

「は!?」


 即、反応したのが、兄を自称するディック。


「なんで、あいつがBBQ? キャンプなら俺がしてやんのに」

「お前のは訓練だろ。リディアはしごかれたくねーって」


 ムッと黙るディック。ディアンが椅子の背もたれにタオルを投げて、かけてあったシャツを羽織りながら背を向けて口を開く。


「――いつだ?」

「リディは絶対にお前らに言うなって」


 ディアンが振り返る。

 その漆黒の瞳にシリルは平然と答える。リディアの親友を自称するシリルが告げ口とは珍しい、とは誰も思わない。団長に情報を伝えるのは彼らの役目。

 だが、シリルの曲者っぷり、いやからかい好きは誰もが知っていた。特にリディアに関してはディアンへの絡みが半端ない。引き際も見事だし、リディアを思ってのことだから大きな騒ぎにならないが、結構際どいところまで時々引っ張る。今もディアンの不機嫌を増した気配に、執務室に緊張が走る。


「BBQは昨日。だから、今日伝えた」


 リディアとの約束も、ディアンへの報告の義務も両方果たしただろ、と人の悪い笑みを浮かべるシリルに、ディックが舌打ちする。ここにも、機嫌を損ねた男がもう一人。


「怒るなよ。水着買うのに付き合ってやったんだ。写真、見るか?」


 個人端末(PP)をいじるシリルの後ろから覗き込んだディックは、直後に眉間に盛大にシワを寄せて、自分の端末をいじり始める。


「――育ったなあ」


 まじまじと写真を覗き込んで感心した様子でガロが呟く。

 ディアンがシリルの手から端末を取り上げる。


「お、画像いる?」

「いるか」


 そう言ってディアンの手があっさりとデリート操作をするのを、シリルは文句も言わずに興味深げに見ている。


 その横では、ディックが耳に端末を当てて、口を開く。


「リディ――すぐ電話しろ。怖い兄ちゃんを舐めんなよ」


「――返事来てたぞ。『意外に楽しかった! 次はみんなで温泉にいこうって話になりました』ってさ」

「――あいつ!」

「干渉するなよ、リディだっていい加減男できねーとまずいだろ」


 ディアンが無言でシリルに彼女の端末を投げる。それを危なげなくキャッチするシリル。 

 

 ディックがシリルに反論する前に折返しの通話がかかってきて、彼の手の中の端末が震える。

 即座に不機嫌丸出しの声音でディックが答える。


「――おまえ、キャンプがしたいなら俺が連れてってやるのに。温泉がなんだって? は? 何!? おまっ」


 切れたのか、ディックが怒る。


「ちっとも言うこときかねーー!!」

「リディが言うこときいたことなんかねーだろ。ていうか、納得させねーとリディは従わねーぞ」


 誰かさんが何かを言ったみてーだけどな、とシリルは戸口に向かうディアンに告げる。


「リディ。そろそろ処女捨てなきゃって焦ってたぞ」


 振り向いたディアンに、シリルが端末をふって笑う。ディアンの顔は無表情。だが全員には何となく騒動の予感がした。不機嫌をおさめるより煽った、それにつきる。

 だが、煽られた本人は。



「――ディック。それ、バックアップの方も消しとけよ」


 シリルの端末を示して写真のバックアップも消しとけと命じたディアンに、ディックはへいよ、と椅子を前後に揺らして返事をした。

 出ていくディアンを見送り、ガロが「煽るなよ」とシリルを嗜める。


「なあ。リディのそれ。処女捨てるだのってマジか?」


 ディックが相変わらず不満そうに尋ねる。


「それをボスが訊くんじゃねーの?」


 顔をしかめたディック。


「一生、処女でいいとか”妹”に幻想抱くなよ?」

「下手な男なら許さねーっていうか……て。相手、生徒じゃねーだろーな!?」

「いーんじゃねーの? あいつら、将来有望そうだろ」

「みとめねー!」


 やっぱまた通話してくるわ、とディックが部屋を出て行く。


「賭ける? ボスが動くか」


 シリルがガロに手を差し出す。それを肩をすくめて流すガロ。


「関係は現状維持だな。それに俺は自分のボスを信じてるから、何もしないのが一番だと思うがね」

「ほっとくとリディがたまに変な方向に暴走するだろ。それに、リディの周りがほっとかねーし」

「なんかあったのか?」

「いや。リディはなにも言ってねーけど。絶対なんかあったね」


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