表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
2章 魔法実戦実習編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

151/330

73.After the festival

 目が覚めたら、第一師団ソードの本部だった。

 

 仮眠室に泊まったリディアは、洗面所で顔を洗う。生徒も泊まらせたが、すでに解散しているから、勝手に帰っているだろう。彼らは今日は休みだ。


「うえ」


 嫌な夢を見た。――吐き気がする。


(これが、二日酔い?)


 あのせいだ。昨日の男性からの言動に呼び起こされた夢。

 なんで、あんなことを言われなきゃ、いけないんだろう。


(傷ついてなんかいない、傷つく必要もない)


 ――大丈夫だから。


 リディアは、スーツに着替えていた。

 内線で医務室に確認したら、ケイも元気に帰宅したと言うし、バーナビーも退院したようだ。


 後は、団長に暇を告げるだけ。


「それは、二日酔いじゃねえ」

 

 横を歩くディックに断言される。


「二日酔いは、断続的に吐き気がこみ上げて来る。終わったと思うとまた来るんだ」


 そんな地獄、嫌だ。


「それにお前、そんなに飲んでねーだろ、一口か二口で。ほとんど瓶に残ってたぞ」

 リディアのビールの残りはディックが飲んでいた。


「むしろ具合が悪いのは他に原因があるんじゃね?」

「アレルギーかも。会いたくない……」

「うちの団長?」

「違う。…………きょうじゅ」


 ボソッと呟いたのに。


「誰が誰にアレルギーだって?」


 地獄の門番が、地獄ではなくそこに居た――って、あれ?


「ディアン先輩? 制服?」


 なぜかディアン先輩は、いつもの彼のトレードマークの黒装束ではなく、正装である制服を着用していた。片側の肩を覆う真っ白のハーフマント、金ボタンは襟元までしっかりしめ、階級章やソードの徽章。式典や、王宮を訪ねるとき以外に見た事がない。

 髪も今日は前髪を軽くあげ、左右に固めている。


「連絡を入れておいた。第三師団の団長が待ってる」

「……はい。……行ってきます」


 うえええ、と呻きたいのを堪える。そうですよね。第一師団のほうには寄って、本来の所属だった第三師団をスルーなんて許されるわけがないですよね。


「先輩はどこに行くんですか?」


 彼は呆れたようにため息をついて、手にしていた白い手袋を仕上げとばかりにはめた。


「何言ってんだ、俺がついて行かないわけないだろう」

「ちょっ! ええ!? それは……大丈夫です! ちゃんと一人で行って謝罪してまいります!」 


 彼の眉がわずかに上がる。それが怖い。


「あの件での謝罪で。俺が、お前を、一人で、行かせるとでも?」


 そんな一言一言、区切らなくても。はい、お願いしますと頭を下げるしかない。怖い人が二人になってしまった。

 正直、大学で待っている教授より怖い。いや、あの人は待っていないか。お昼にならないと出てこないし。


「リディ」


 呼びかける声に振り向くと、放物線を描いて飛んできたのは、イオン系飲料のボトルだ。


「二日酔いにはそれがいいぞ!」


 相変わらずお兄ちゃんだ。リディアがありがとうと返すと、ディックは励ますように親指を立てた。


 歩き出すリディアの横で、ディアンが呟く。

 そういえば、昔は背中しか見ていなかったから、横を歩くのなんて新鮮すぎる。


「お前、酒飲んだの……昨日が初めてか?」

「え? あ、え、あ、は、い」


 夢を思い出した。

 

 封印していたのに思い出した、あれはなかったことにしていたけれど。

 あれを入れると、飲酒は――初めてでは、ない。


 だが、返事が不審すぎた。そして、第一師団ソードは未成年の飲酒は、めっちゃ厳しいのだった。


「あ、の」


 リディアが見上げると、ディアンが珍しく穏やかな瞳で見下ろして手を伸ばす。


「別に、責めちゃいない」


 そして、頭をぽんと叩かれる。


 ――ああ、ばれている。

 あの時から、ばれていたのだ。


 あの最悪の誕生日のあと、任務から戻ったら、自称ソウルメイトの彼はいなくなっていた。どこへ行ったのかは知らない。


 それからリディアの任務は、ずっと団長のチームに入らされた。


 いつもディアン先輩がいて、そのせいか悩まされてきた男性団員からの変な目つきや、卑猥な言葉もなくなった。

 そして、暇さえあれば彼はリディアの組み手に付き合った。徹底的に、体術含む護身術以上の防御を再度叩き込まれた。


 ふった相手には普通、距離をとるはずなのに。


 恋愛感情の挟まない方法で徹底的に構い倒されて、リディアはもうなんだか、吹っ切れたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ありがとうございます。楽しんでいただけますように。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ