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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
2章 魔法実戦実習編

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64.ミーティング


 リディアが全員を引き連れて部屋に入ったときには、すでにミーティングは始まっていた。


 各々が椅子や机に、歪な円を描くように座っている。

 空いている箇所に座るように学生に促すと、各自空いている椅子や机に腰掛け、または壁によりかかり、思うように参加する。


「――次、機器の作動不和の原因」


 ディアンが促すと、技術職らしいダークグレーの作業着の男が報告する。


「全通信機、通信網を調べましたが異常なし。外部からの不正アクセスも増えてはいません。またそれらの不正及び不明アクセスも全て遮断済みです」

「通常と同じ、ということか」

「はい」


 ディアンは一度考えるように親指で顎に触れ、前方を見据えた。


「ダミー誘導システムも展開させつつ全通信網の基盤コードを書き換え、ファイアーウォールの強化。本日アクセスを試みてきた発信元を全て洗え」

了解(ラジャ―)


 技術職が去っていく。


 次にシリルが立ち上がり、パネルに触れると、前方スクリーンに映像が映る。

 それは右が写真で、左が立体構造の魔獣の映像だった。コカトリスと、ウンゴリアントの最終形態、更に画面右上にはアメーバのようなものが映る。


「今回、コカトリスキメラのアメーバを分析した。こいつは、寄生能力のあるD-typeで、食作用の応用で魔獣を取り込んでいった。こいつは熱に強いグルジア類だが、更に今回発現させた特異能力として、コアを持ち、他の魔獣の能力を有した一個体を作る結合作用をもつこと。また刺激を受けた個所の粘度を調整し、物理攻撃を防ぐことがあげられる」

「アメーバのキメラは初めてだな」

「ああ、今後も出てくるだろう」


 団員の会話がさざめく中、シリルが続ける。


「先ほどの話の続きだが、物理的な衝撃を受けた場合、その部分に耐性ができ、粘度を調整し、その衝撃を緩和する。以降、その攻撃は効かない」

「取り込むだけじゃなくて、その攻撃に合わせて調節してくるのか」

「ああ、今その遺伝子を分析している」


「コアとそのキメラの遺伝子を徹底的に洗え。それから製作者も探し出せ。シリルは武器の改良、アメーバに有効な魔法術式を開発部門と適合させろ。ウンゴリアントの分泌物、触手のサンプルも分析に回せ」


ディアンの声に、ガロが追って提案する。


「ついでに、その結果をウチラのボディスーツに応用できないか?」


 シリルが指を鳴らす。


「いいな。アメーバ性能入りボディスーツ」

「生体スーツか。触手の性能もつけるか?」

「なんのためだよ」


 リディアが触手の感触を思い出し、嫌そうに身を竦めたら、ディックが背を叩いて慰めてきたから苦笑を返す。


 と、ディアンがリディアに目を向ける。


「四獣結界の結果は?」


 リディアは意識を切り替える。口を開くと、場の注目が集まる。


「四獣ともに契約遂行、結界効力は六十五パーセント。これは四獣の覚醒度が、現在四十から五十パーセントによるものと思われます。また今回キーファ・コリンズの聖剣が結界補強となりシールド効果が八十六パーセントまで上昇。それによりウィル・ダーリングの炎は、魔獣を中心に周囲半径十メートルほど地帯を焼失後自然鎮火。居住エリアには一切の影響なく、聖樹を含む自然環境及び六属性にも被害はなし」

「それだけどさ」

 

 ウィルが軽く手をあげると、皆が振り向いた。

 チャスがげ、っと呟いていたが、ウィルは物怖じせず口を開く。


「あの火矢、アンタのせいですごい威力になったじゃん。本当はコアを狙うはずが、一帯焼いただろ? あれが、アモンの業火?」

「違う。あれはただのD級だ」


 アモンの業火は、A級だ。大陸を焦土に変えるほどの桁違いの炎は、それぞれS(Satan)A(Aini)B(Belial)C(Caim)D(Diable)とランク付けされているが、A-Cまでは全て伝説級で、発現できるのは魔法師団でも幹部の数人だけ。

 

 ちなみに普通の魔法は、レベルイチからセブンまでの七段階だ。レベルファイブだと、学校の校舎一棟を一瞬で燃やす程度、レベルセブンは竜の火炎(ブレス)だ。


「広範囲に強めたのは、あのちっこい蜘蛛を焼くため?」


 リディアにまとわりついていた蜘蛛の幼生は、ウィルの炎で全て焼き尽くされた。

 だがディアンが肯定する前にウィルは口を挟む。


「――アンタ、リディアがなんとかするってわかってたの?」

「ダーリング?」


 リディアが制止を滲ませて声をかける。だがウィルはディアンを睨みつけるように視線を外さない。


「そうだ。――それがなんだ?」


 ウィルは、その口調に拳を握りしめた。ディアンのその返答は、明らかに口出しすんな、という含み。むしろ、挑発にも似たものを感じた。


「リディアは意識も危うかった。けれど強制的に本人に最上級の結界を発動させた。リスクが高かっただろ、それでもやらせたその理由を聞かせろよ」


 団員たちが目を見張り、または面白そうに見ている。


 リディアが立ち上がりかけると、ディアンの低く淡々とした声が遮る。


「こいつは、どんな時でも防御魔法を失敗したことはない」

「あの結界、リディアじゃないとできないのかよ?」


 ディアンは一度押し黙り、それから口をひらいた。


「今回のチームでは最適だった。――質問がそれだけなら、話を進めるが?」


 ウィルは表情を変えなかった。顎を上げて強くディアンを見据える。


「わかった。――今のところは、それだけでいい」


 ウィルの好戦的な態度に、誰かが口笛を軽く鳴らす。

 リディアは頭を抱えたい衝動をこらえた。あとで、ウィルと話そう。


 ディアンはというと、面白がりざわつく周囲を一瞥し黙らせると、改めて眼光鋭くよく通る声で話す。


「――先ほどジャイル王とエイブラハム老との会談が済んだ。今回の聖域への立ち入りは不問となったが、地帯の治安維持と魔獣の封印の補強、ライフラインの復旧のため、一部隊を残留させる。詳細は後の指示を待て」


 そして学生に目を向ける。


「では。――お前たちの報告を聞こう」


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