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リディアの魔法学講座  作者: 高瀬さくら
2章 魔法実戦実習編

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62.穴に入って埋もれてしまいたい



“普通は二度と口を利かない”――そうだろうか?

 

 リディアは首を傾げながら歩く。


 彼がリディアにしめす好意は、婚約者にはよくないだろう。とても、よくない。

 けれど、王族や貴族社会は複雑だ。表向きと裏向きの関係が絡み合っている。婚姻は義務、浮気は容認、という裏の顔もある。

 

 リディアの出身のシルビスの貴族社会でも、婚姻に愛情はない。婚姻は家の繋がりを深めるもので、女性にとっては保護を得る代わりに夫と従属関係を結ぶこと。

 恋愛結婚はないわけではないが、両親を見ると夢を抱けない。

 

 そう言えば、以前に貞淑手術という浮気防止術が女性たちに施されていた時代もあった。今もまだ根強く行われているが、男性たちには内緒で、手術を受けずに手術痕だけを形成する外科手術を受ける女性も現代は少なくない。

 

 そうして手術を施されたと装う女性は苦痛を盾に夫との性行為を拒み、浮気相手と逢瀬を重ねる、したたかさも見せる。

 

 シルビスの女性が貞淑なんて、リディアは信じていない。


 マーレンには、彼を受け止めてくれる女性と結ばれて欲しい、と考えてしまう。そして、自分はそれに相応しくない。


「怒るわけ、ないのにね」


 リディアのロッドを失くしたことを気にしていたマーレン。あげたものは、もう相手のもの。

 

 だから彼が気にする必要はない。

 

 ――人に何かをするのは、いわば押し付けだ。

 勿論、相手が求めているか、それを望んでいるかを予測して行うべきだが、そうそう他人が察知することは難しい。


 リディアは、歩きながらとりとめのない思考に囚われる。


 

 ——魔法師団の時、よくお菓子をくれる先輩がいた。


 彼は他の人にもあげていたから、リディアが特別ではなかったと思うが、貰うばかりで心苦しく、リディアはお礼にと彼に手作りのお菓子を渡した。


 その後、それが包み紙のままゴミ箱に捨てられているのを見た。


 「――あ、そうか」と思った。迷惑をかけた、そう思った。


 その後もリディアに普通に話しかけてくるから、リディアを嫌っての行動ではない。ただ彼は手作りが嫌いなのかもしれないし、人にあげるのは好きでも、貰うのは好きではない、そう思った。


 後日、彼は他の人達からお礼として貰うお菓子を、別の人にあげているのを見た。

 彼がなぜ人に物をあげるのか、その流れがわかった気がした。


 自分が相手に何かをした時、その反応を、見返りを求めるべきではないと思う。何かをしたら、喜んでくれる、あげたら大事にしてくれる、それを望むのは――筋違いだ。


 何かをして、もし気に入られなかったら、反応が得られなかったら、その相手との関わり方が間違えただけと思えばいい。

 次の機会に、関わり方を修正すればいいのだ。


(だから、落ち込む必要はない)


 いちいち、こんなことを気にして落ちこんでいたら、何もできない。相手に何かすることができなくなる。

 

 それにマーレンはロッドを大事にしてくれていたと思う。


 彼はあんな外見でも、本来は真面目な性格だ。


 ロッドのことを責めるつもりはないが、歯切れが悪かったし、もっと踏み込んで何を気にしているのか聞けばよかったのかと、今になって後悔が過る。


 兄弟が急逝したこともあるし、もしかしたら精神状態が不安定なのかも知れない。

 早めに安全に帰国できるように魔法師団に協力を頼んで、本国から戻ってきた後に、魔力増強薬の対応と精神面のフォローを含めて、面談をしよう。


(それからもう一つ)


 優先順位は低いが、なんとなく胸の奥に重く残る問題――“求婚”。

 

 彼も神経が高ぶっていたときの暴走だ。

 婚約者もいるし、ただの気の迷いの可能性が高い。


 教師に対するからかい。

 ヤンだってそう言っていた、その程度におさめてほしい、取り合うな。


 それでも、一度話さなきゃいけないのではないかと、罪悪感も過る。

 

 ウィルのちょっかいもなかったことにして流したが、今後どうしよう。


(本気じゃない。本命じゃない、そんなのわかってる。でも――)


 それでも、一度はっきりと、止めるように言わないといけない。


 リディアは、触手に揉まれていた時に、ウィルに意識を繋いでいた事を覚えている。

 思い出すと、頭を振って叫びたくなるほど、とっても恥ずかしい。


 だが、意を決して何度かウィルに声をかけようとしたが、装甲車の中でも彼は爆睡していたし、中々ちゃんと話ができずにいた。


 今もウィルはリディアを見もせず、食堂に行ってしまった。彼自身に避けられているような気がする。こういうのって、結構当たっているのだ。

 

 でもなぜか、そう考えると――。


 精神の同調――ウィルの魔力派を勝手に覗いたし、でも――リディアの醜態を晒したし。


(だったら避けたいのは自分だよね!?)


 リディアは頭を振った、ああもう本当に――あの醜態、もうやだ。


 リディアは壁時計を見上げた。


 まだお昼を過ぎたころだ、学生がいなくなったら食堂へ行って昼食を取ろう。

 休憩時間には距離を取って顔を合わせないほうがいいだろう、そう思う。


(なんか、少し疲れているみたい)


 リディアは魔獣に捕まっていた時のことを思い出す。


 触手に愛撫されていたのは、まだマシだった。

 虫に襲われた時はパニックになっていて、取り乱していて記憶が飛び飛びで――あまり記憶も感覚もないが、あんまり頭が働かない。


 とりとめもない思考に襲われるのはそのせい。


(休憩が必要なのは、私かも)


 やらなきゃいけない書類仕事がたくさんあるのに、精神疲労が半端なかった。


 ケイは救護室で爆睡しながら点滴を受けているし、バーナビーは無事に病院で投薬を受けたという連絡を貰っている。とりあえず、あとは後始末のみ。


 教授は――学会で国外だし、今は、なしなしなし、頭を振って教授のことは、考えないことにした。


「お前、さっきから挙動不審?」

「――ディック」



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