54.魔力波ネットワーク
そこは暗闇だった。
ウィルは呆然として立ちすくむ。
自分は弓を引いていたはずだ。
いや、確かに今、自分は弦を最大限にまで引き絞っている、巨大化した魔獣を遠目に見ている。
目を閉じてもいない、寝てもいない、なのに別の視界が広がっているのだ。
ウィルは仰天する。
暗闇の中にいる自分が、別の自分を見つめているのだ。そしてこの空間にはたくさんの光が蠢いている。
チカチカと瞬く光は輝き消え、周囲を流れ星のように光が流れる。行ったこともないが、宇宙の中にいるようだ。そう感じてウィルは気がついた。
――ここは、魔法師団の魔力派ネットワークだ。静謐でいながら、濃厚な霧の中にいるように、動きにくい。
個々の光は、それぞれ団員の持つ魔力だ。あまりにも高いそれらが行き交い、鳥肌が止まらない。高い魔力の持ち主が広場を行き交っているのに、そこを支える場はあまりにも安定し強い土台だ。
その強固な空間には、安心よりも恐れを覚える。
なんだこれ。
ゾクゾクとして、ウィルは深呼吸を繰り返す。
(飲まれるな――自分の魔力を高めて――ガードしろ)
動きにくいのは――自分の魔力が低いからだ。
違う、自分の魔力の制御ができずに、漏れて流れていくからだ。
ウィルは自分の肩を抱く。
体の周囲を硬い鎧で覆うようなイメージを浮かべると、わずかに呼吸が楽になった。
「――リディア」
不意に誰かの声が響く。なぜか姿は見えない、でも強烈な存在感がある。
呼びかけられて、少し離れたところにある温かいものが身動きした。
淡い光がパッと瞬き、ゆっくりと消える。
――ああリディアだ。
柔らかく温かい存在。
引き寄せられるように、ふらりとウィルの意識がそちらに歩もうとすると、まるで襟首を掴まれたかのように、いきなり戻される。
「リディア。こいつの魔力をスキャンしろ」
見上げたらディアンがいた。
こいつと言われたウィルが苦情を発する前に、リディアの存在が揺れ動くのが感じ取れた。
「……だめ」
姿は見せないものの、弱々しく消え入りそうな声が微かに答える。
その存在が震えている。無理だとふるふると首を頼りなくふっている。
「……できない」
「リディア」
「セレクトできない!」
「お前の全感覚を送れ、魔力波だけセレクトしなくていい」
「……できない、嫌!」
「共有してやる。俺が全部」
リディアが黙る。
まるで、呆然としてディアンを凝視しているかのよう。
ウィルはそのやり取りを聞き、息を飲む。
悔しさでもどかしく感じ、声を発しようとして入り込めない雰囲気にただ拳を握りしめる。
気が狂いそうだ、けれどただ傍観者でいるしかない。
「――リディ」
ディアンのその声。言い聞かせるような、穏やかで、宥める落ち着いた声。
「できるな?」
リディアの存在が逡巡のように揺らぎ、そして、――頷いた。




