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語られなかったその後を  作者: えくぼ


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19/21

番外編14【アランとの勝負・下】

上の続きです

 その日、僕はレイル・グレイとの勝負を取り付けた後、ユナイティアの中をあるものを探し回っていた。一つは人助けをするには概ねの構造を知っておく必要があったからだ。

 そしてちらりと紅い髪が目の端に入った。見覚えのある背格好に思わず声をかけた。


「アイラ?」


 僕がそう呼ぶと、その少女はゆるりと振り向いた。僕より背が低いために見上げる形にはなるが、まったくといって表情が変わらないままだ。


「なに?」

「そういう反応、レイルに似てるよね……」

「えっ、レイルくんに似てる?」


 どうしてそこで嬉しそうにするんだ。

 本当、この子の眼中には僕はいないんだな……


「ユナイティアの都市そのものの全体図みたいなものってある?」

「レイルくんがかいた、はず……」

「よかったら見せてもらえない?」

「それは無理」

「駄目かな?」

「無理」


 にべもない拒絶。


「なんか勘違いしてるみたいだけど、ここ、国だから。国の地図なんて軍事機密でしょ。一応他国からの客人ってだけの人に見せられるわけがない」

「ええっと、僕が勇者で、人助けのためとかってのは……」

「以前、私たちがいろんな国を回っていてとある国を助けた時、その褒美として望んだのが国の情報開示請求だった。だけどそれでも、軍事機密に関わる内容に関しての権利は放棄してた」

「ごめん、迂闊だった」

「わかればいい」


 言われてみればそうだった。

 だとしたら、部下として働いているトーリやこき使われたことがあるっていう聖女、カイくんとかは簡易版ぐらいは持っているのだろうか。そうか……こういうところでも有利不利ができるのか……なかなか大変そうだ。

 ちょっと待て。レイルって確か、空間把握とかいってなんか地形や建物の全体像が把握できるのではなかったか。便利だろうな。

 本当、性格さえなければ……


 以前彼には辛酸を舐めさせられた思い出がある。あれからしばらくは少しやさぐれたけど、今回こそ勝ってみせる。

 彼の方法でばかり人を助けていれば、周りの人も素直にお礼を述べにくいのではないだろうか。ならば僕にも勝ち目はあるだろう。機動力や器用さよりもこういうのは心が大事なのだ。

 そんな風に考えていた。この時は。



 ◇


 そして次の日。

 勝負だと考えるとまるで勝ちたいがために人を助けるような気がしてあまりいい気がしない。だから僕はあくまで、いつもの通り困っている人を助けるつもりでユナイティアをめぐっている。今日ばかりはレイルの妨害も入らず気楽にできそうだ。


 外で数名が大きな木を囲んで見上げていた。


「どうしたんだ?」

「あ、アラン様ですね。この木は建物建てるために切る予定なんですが、そのための人員と道具が急に入った別の仕事でまだこれないんですよ。だからくるまでは他の仕事をしていたのですが、それも終わってしまい少し待機しています」


 どうやら僕のことを知っているらしい。


「もしよければ僕が切ろうか?」

「切れますか? ではお願いします。膝ぐらいまでの高さで」


 大きめの木、とはいえど金属でも肉でもない。僕の剣なら切ることはできるだろう。ぐっと両手に力と魔力を込め、剣にそのまま魔法を流す。踏み込み、大きくふるうと剣は幹に吸い込まれていった。倒れようとする木の方向を調整して被害をなくした。


「見事ですね。ありがとうございました」

「いや、これぐらいならね。役に立てたのならばよかった」


 これで作業も早く進むだろう。


 次に見つけたのは子供たちが遊んでいる場所だった。

 どうやら球遊びをしていたらしいが、その遊んでいた球が屋根の上に引っかかってしまったらしい。


「はしごをもってこよう」

「あぶなくない?」

「おとなよんでこよーぜ」


 いろいろと言っているが、決まらないようだった。


「僕がとろうかい?」

「えっ? おにいちゃんとれるの?」

「ああ」


 多分。これぐらいの高さなら魔法で補助せずともいけるはずだ。

 膝を曲げて踏ん張り、途中建物の端に足をかけて屋根の上まで登った。ひょいと球を持ち上げると歓声が起こる。


「すっげえ!!」

「にいちゃんなまえは?」

「アランっていうんだ」

「アラン?」

「お母さーん、アランってにいちゃんがーー!」


 その後ろ姿を微笑ましく見送る。

 なかなかレイルもいい勝負内容を考えるじゃないか。あいつも今頃、問題ごとを解決していたりするのだろうか。

 日頃から真面目にそうしていればあいつもまっとうな勇者として褒められるのだろうにな。

 ……どうしてだろう。能力的にはできるはずなのに、レイルが人助けをしている様子がまるで浮かばない。むしろ空間把握と転移を利用すれば僕より速く助けられるはずなのに……

 嫌な予感がするが、妨害されていないってことは彼が僕以上に人助けをしていない限りは問題がないということだ。もしも僕が負けても、彼がそれだけ人助けに励み、そしてお礼を言われるようになれば彼もその喜びを知るだろう。少しはマシになるのではないか。


 その日はあと八度ほど、人を助けた。

 ちょっと外まで行って魔物に襲われた人を兵士に代わって助けたり、迷子を探したり、訓練に付き合ったり、荷物を共に運んだり……

 まあ物が落ちてくるとかそういった不幸や災難系のものはなかったが、何事もない方がいいに決まっている。

 そうして僕は満足げに勝負の日を終えた。




 ◇


 勝負の次の日。

 結局あの日、レイルを見ることは一日もなかった。いったいどこで誰を助けていたのだろうか。

 レイルと共にあちらこちらを回って……何故かその道筋は僕が昨日歩いた場所を踏まえている。空間把握で常にその動向を見張っていたということか。だがそれでもレイルは不敵な笑みを浮かべて俺を連れ歩く。どこからその自信がくるというのだろうか。

 その疑問は道行く人々の中から昨日僕が助けた人たちが挨拶を重ねるごとに疑惑へと変わっていった。


「レイル様、昨日はありがとうございます」

「アラン様、お疲れさまでした」


 そうほとんどの人がこのように挨拶をしてくるのだ。

 嫌な予感がひしひしとせまってくる。何かがおかしい。別に、僕がしたことが裏目に出たわけでもない。なかったことになっているわけでもない。だがレイルの方にばかり感謝が、レイルが助けた方が比重が大きいようなーーそう、お疲れさまでした、とはまるで僕が仕事をしたみたいな……

 勝負判定は「ありがとう」の数で決めた。このままいけば順当に僕が負けるだろう。それよりも、何故こんなことが――


「アラン様、昨日はお世話になりました。レイル様がアラン様を遣わしてくださったおかげです」


 僕の中で何かが繋がった。その答え合わせをするために一つ、レイルに端的に尋ねた。


「レイル、何をした?」

「昨日は一日、休日を満喫していたぜ?」

「違う。人々に何を吹き込んだ?」

「嘘"は"ついてない」

「まさか勝負の内容を――」

「あれ? もう気がついたのか?」


 レイルが語りだす。

 一昨日、勝負が決まった後に部下を呼び寄せ、ユナイティア中に僕が人助けをすることを。レイルはそれを少し変えて伝えた。

『俺が提案したことで一日アランがただでこき使えるからみんな仕事の遅れや困ったことがあればどんどん頼んでおけ。兵士たちにはアランを一日だけ臨時で軍所属として扱うから、魔物を倒したり悪人を捕まえたら何も邪魔せずありがたく引き取っておけ。そうだな……臨時代表補佐とでもしておけ。あいつの行動は俺が責任を持つから、自由にさせてやれ』

 このように。


「だってそうだろう? 本来なら色んな手続きやらが必要な捕縛や警備、討伐任務、どうして兵士たちの邪魔にならないと思った? どうして客人のお前に平気で自分たちの仕事を手伝わせる? お前が楽に人助けができたのは、俺がみんなに"邪魔をするな"と伝えたからだ」

「なら……どうしてお前が……」

「考えても見ろ。魔物に村が困らされている時、派遣された討伐隊にはその場では感謝するだろう。じゃあされなかったとして恨むのは? 人は国が見捨てたと嘆くだろう。ではもし、人々の目の前に、討伐隊を派遣した王がいたのなら?」


 人々は派遣した王の成果だと見るだろう。王が決めなければ、その討伐隊はこなかったのだから。

 つまり、昨日突然入った仕事でといったそういう困り事の幾つかは僕により仕事を任せるために目につくところの仕事の人員を減らして、より違う場所に回していたからで……


「つまり、お前が頑張れば頑張るほどに、俺は役に立つ人材を派遣し、自由に柔軟に使わせて人々の生活を楽にしたと見られる。お前への感謝は俺の下にあったんだ。よかったな、人々の役に立てて。お前の頑張りは上司の俺が認めよう。ご苦労様。そして人々がお前を派遣した俺を認めよう」


 一つ、わかったことがあるとすれば、僕はまた負けたのだ。

 レイルに自分の意思を押し通すことも、勝負で勝つことも、そして人助けをその手でさせることもできずに……挙句に成果を掻っ攫われた。


「わかったか? 成果ってのはこうやって奪うんだ」


 そして以前見せた、加虐的な笑みを浮かべて肩をぽんと叩いた。


「勝負は俺の勝ちだな。口約束でも忘れたりはしないよな? ま、俺としては「誰が知るか、口約束なんて」ってお前が言うようになってくれるとそれはそれで嬉しいけどな」


 そう言って去るレイルの姿を、血がにじむほどに強く拳を握りしめて見送ることしかできなかった。



 そんな時、僕に近づく子どもがいた。


「アランおにいちゃん、昨日はありがとう!」


 多分、親から「アラン様を遣わしてくださったレイル様にお礼を言いなさい」といわれたであろう子ども。しかしきっと、上下関係とかそういうことを、まだわかっていないのだろう。その素直な「ありがとう」が何より嬉しくて、この勝負を受けたことに後悔はなけれどますます物悲しくなった。

レイルうわぁ……

アラン目線にすると悪役度合い増し増し

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