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語られなかったその後を  作者: えくぼ


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番外編14【アランとの勝負・上】

 邪神を倒した英雄が帰ってきた。

 その知らせは世界中を駆け巡り、結果として俺がいなかった間に行われた諸々の修正や撤回、そして俺が帰還したことにより仕切り直しの討伐祝いなど様々な案件がユナイティアへと舞い込んだ。

 パーティーは面倒くさそうなので、個人的なものは断り、国規模のものはなるべく俺の負担が減るようにと願いでる。

 そんなせわしなく慌ただしいユナイティアに一人、招かれざる客がやってきていた。


「レイルの旦那、いかがなさるんで?」

「お前も旦那呼びか……そうだなあ。納得して帰ってくれるといいんだが」

「評判はめちゃくちゃいいですからね。追い出すように帰らせたとなると……」


 ユナイティアに滞在する客人というのがーー


「仕事は終わったのかい?」


 ーーアラン。彼もまた、英雄の一人である。容姿端麗、誠実にして正義を重んずるこの男はその人格と容姿に見合った剣技の持ち主でもあった。その豪剣は容易く魔物の首を一刀両断し、光の魔法で鮮やかにねじふせる。

 実のところ俺が最も面倒臭いと思っている勇者でもある。


 どれほど利益を示しても、この男は自らに義がなければ動かない。

 弱みを握って言うことを聞かせようと思えど、彼にはありとあらゆる人間が人質の価値を持つが誰が一番効果を発揮するかと考えるとさほど選択肢がない。それに一般人を人質にとって勇者をいいようにあやつろうなどと考えるのは下策だ。非効率的な上に評判が落ちるだけだった。

 つまりまったくといっていいほど思い通りにならない。その上、人格と実績、その実力によって人気の高い英雄なのだ。民衆への影響力も高く、厄介なことこの上ない。


 逆に言えば勇者の人気では俺一強のこのユナイティアにおいては、このアランといえどもその名声は半減である。

 もちろんシンヤの策によって、レイルの人気を高めようとする以上、レイルが邪神を討伐した時の戦法についても「数に任せて袋だたきにした」というのではなく「仲間たちと協力しあって倒した」と宣伝した。するとそれを信じている住民は、アランのことも英雄の一人として相応に尊敬はしている。せいぜい有名人だーぐらいの気楽さである。そもそもこの場所は国としては狭いのに勇者どころか他種族まで平気でウロウロしている国だからして、むしろ人の英雄が一人増えたところで騒ぎにはならないのだ。


「はあ……」

「人の顔を見るなりため息とは。きみのような人物が代表をしていてよくこの国は回るな」

「この仕事に終わりはねーよ。ま、下が優秀なんでね。お前こそなんか勘違いしてんじゃねーの? 王は万能でも完璧でなくてもいいんだぞ」

「そんなことだから、アイラみたいな子が君を選ぶ理由がわからない」

「はっ。逆に顔が良くて強くて優しくてってとにかく美点並べれば万人に好かれると思うなよ。大勢には好かれど、お前が好きになったのはその他大勢じゃないアイラだろ」


 自分にとって特別だと思える相手が、自分のことを特別だと思っているとは限らない。


「で、何の用?」

「この前、ローレンスで大型の魔物とそれが率いる群れが出たのは知っているな?」


 確か名前は……カストロード。漆黒の毛並みに二つの首を持ち、爪に毒がある魔物だったはずだ。水属性の魔法を使ってくる。噛まれると様々な病原菌を持っており、早急な治療が必要とされる。群れの中に一匹、突然変異的に巨大な個体が生まれ、それを群れのリーダーとして動くとかそんな感じの魔物。


「ああ、トーリのところだろ? あいつを従えてるならその国のことぐらいなら耳に入ってくる」

「どうしてお前も出なかった。あの時、お前がギャクラに逗留していたことはわかっているんだぞ」

「おいおい。そこは俺がトーリと相談して、トーリにこっちでの仕事を休ませ、俺が転移で送ってやることで話がついたが何が不満だ」


 俺に送還されたトーリは、そのままローレンスでその名声を武器に討伐隊を率いて見事にその魔物を討ち果たした。とはいえ、犠牲がなかったわけではない。一割から二割の冒険者が重傷や死亡が確認されている。激しい戦いだったと聞く。

 アランが怒っている理由はわかる。わかるが、それに俺が頷くことはない。


「だからさ、俺が出れば被害がもっと少なかっただろうって?」

「ああ、そうだ。君のことは嫌いだ。許せない部分もあるがその空間術に関しては認めているつもりだ。せめて後方支援でも被害はほとんどなくなったんじゃないかと見ている」


 アランは正しい。俺に攻撃力が足りなかったとしても、空間術、空間把握が使える戦力が一つ増えるだけで死者は激減する。奇襲は受けず、負傷者、病気になった者たちの搬送、そして攻撃の回避から移動の短縮とどれをとっても有用であることは自覚している。

 たとえ嫌いな相手だろうと、被害を減らすためなら頼ってみせるというプライドをかける場面もよくわかっているし、使えるものなら使うというその感覚も別にいい。


「俺は俺自身も含めて、勇者は利用されるものだと思っている。だがな、できるからしろというのはおかしいだろ」

「力ある物が弱き民を救うというその考えは間違っているか?」

「お前がする分にはおおいに結構。頑張れ、応援だけしてるよ。だがな、俺は勇者であり、この国の代表だ」


 そういっている間にも目の前にある書類に目を通し、判子が必要なものは押していく。不必要なものをまとめて、保留にするものについて聞くべきことを箇条書きにする。


「いつでも俺がいるわけじゃないのに、他国がいつまでも俺頼りの警備体制組んでんじゃねーよ。たかが大型ってだけの魔物で。数があれば、腕が立つ冒険者集めればなんとかなんだろ。それにいいのか? 自国の勇者であるトーリを差し置いて、俺が一番に活躍して」

「君の名声ぐらいで今更他の勇者が僻むと?」

「ローレンスの立場だよ。ギャクラとユナイティア、そして俺という勇者そのものに借りができちまう。だからわざわざトーリの顔を立てて、あいつに任せてやったんじゃねえか」


 今思えば、随分とトーリに甘かったかと思う。俺からしたらたいした労力でもない上に、もちろん俺の利益も十分にあるのだが。

 トーリを送らなかった場合、トーリの精神面でのコンディションが悪化することがわかりきっている。そして他国の勇者を束縛して意味もなく人々を見捨てたという失態がそこに加わる。それを避ける意味で一つ。

 そしてトーリを空間転移で送ってやった場合、トーリが迅速に駆けつけたことにより送った俺と間に合ったトーリの株があがる。そしてトーリの株が上がれば、これから先よりトーリが動きやすくなり、俺に入ってくる情報も多くなる。


「事情はわかった。だが人々を見捨てたことには変わりない」

「俺はあいつらに助けてくれ、などと一言も言われていない。そもそも俺の評判的には大型の魔物を倒すのにお呼ばれするような勇者じゃないんだろ多分。そういうお前はどうなんだよ」

「僕はあの時、ウィザリアで起こった魔道具の暴走による魔物の凶暴化を食い止めにいっていた」

「なんだお前も行ってなかったんじゃないか」

「行けなかったんだ」


 それで俺を責めるのはお門違いな気がするんだけど。


「……理屈はわかった。君のそれは先を見据えてはいるが……英雄らしくない」

「結果を出したから勝手に周りが呼んでんだろ。便利だから放置してるだけだ。この調子だと午後には仕事が一段落しそうだ。明日明後日は休もうっと」


 もともと週休二日ぐらい自主的にとっている。なんともサボリ魔な王様だなという自覚はある。でも以前は転移がなくて俺が冒険に出ていても回ってたんだから、むしろよくよく戻ってくるだけ働いてる方だ。

 昼食をとるために立ち上がると、アランが肩を掴んだ。


「なら、一つ勝負をしてくれないか……?」

「勝負?」

「そうだ、勝負だ。僕が勝てば君に三回まで、可能な範囲で人助けに関わることを頼む権利をくれ。いつ使うかは自由で。君が勝てば……そうだな、正義に反しない程度で僕を自由に三回頼みごとをできるってのでどうだろうか。これで公平だろう? 勝負方法は何にしようか」


 アランと勝負、か。以前した時は三対三で対戦相手を隠蔽し、悪魔で目眩しをして不意打ちで動きを止めたが……。

 あの時より俺が強くなっても厄介な相手であることには変わりない。魔力抵抗が高いために、体内に剣を転移させることはできない。空間把握で補正をかけてもなお剣技で五分、それに加えて膂力は向こうが勝る。こちらの手の内がばれている以上、幻惑や空間転移による不意打ちは警戒されている。

 何より、その方法で勝っても報酬以上のものは得られなさそうだ。どちらもあいつの正義に反しない要望である以上、あいつにたいした損もなさそうだが……ああ、俺にいいように使われるって点では精神的に罰ゲームだから損失か。それは楽しそうだ。

 どうせ休みだし、少し面白いことも思いついたからこの勝負引き受けてみようか。


「……そうだな、こういうのはどうだ?」


 俺がアランに提案したのは人助け勝負。

 日程は明日で、方法は簡単。どれだけ人を助けられたかでより多く感謝された方を勝ちとする。判定方法は明後日、つまり勝負の次の日二人でユナイティアを巡り、勝負の日のことでお礼を言われた回数が多い方が勝ちとする。つまり、最低限、お礼を言われる程度には感謝されなければならないということである。


「……そうだな……普段からここにいる君の方が有利には見えるが、君にはここでの立場もあるから一日のことで感謝されにくい、もしくは助けにくいかもしれない。しかし移動手段のあるレイルの方が、となるか。まあ僕が仕掛けて方法を任せた以上、多少君に有利な方が納得しやすいだろう」


 そうだろう。人助けはアランにとってむしろ日課。勝負と言われてもあまり気を張らずに済むし、自分の中の正義には反しない。誰も傷つけず、かつ俺に勝てる可能性があるならお前は受けるよな。

 

「いくつかこちらからも付け加えさせてくれ。一つ、お互いに相手を攻撃しない」

「いいだろう。武器、魔法による互いの行動の阻害はなし、と。そりゃそうだな。一般的には当たり前だ。だが付け加えなければ俺にはされると踏んだか。でもな、今回は俺はお前に指一本触れるつもりはないぞ。なんなら空間転移による移動を禁止してくれてもいい」

「そこまでは求めない。僕が鍛えた剣技を使って人を助けることがある以上、君の空間転移も鍛錬の成果だ。決して反則ではない」

「次にもう一つ。あくまで僕らの勝負とすること」

「それはつまり、俺が他の人に頼んでお前を妨害しないようにってことか?」

「そうだな」

妨害・・しなければいいんだな」

「ああそうだ。あとは互いに勝負内容、方法に関する虚偽の一切を認めない」

「俺はお前に嘘をつかず、お前が俺に嘘をつかない、と? これで全部か?」

「これぐらいか……ああ、これでいい」



 アランが出ていった部屋で一人、休憩をとる。

 以前の勝負からここまで学ぶとは。こいつは馬鹿じゃない。頭の回転も悪くないし、理解も早い。たった一度、一度戦っただけで事前にルールを付け加えて不正を防ぐようにしてくる。前世であれば実に普通のことではあるが、こいつみたいな正義や誇りを重んずる風潮の中ではあまり見られなかった。

 今回は残念ながら、お前の行動の一切を阻害するつもりがない。お前に嘘をつくつもりもな。だから一つ言っておくとすれば、まだ足りない(・・・・・・)な。こいつはやっぱりまっすぐすぎる。卑怯なら卑怯で物理的に妨害することしか思いつかないのだから。


「来たか」

「レイルの旦那、どうした」

「実は明日な……」


 シンヤに明日のことを告げる。そして二人して「そりゃあいい」「だろう?」と笑いあう。

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