番外編11【狂気よどうか湖に沈め―アフター】
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ウタは鳥のさえずりで目を覚ました。
妖精は肉体の疲れというものがないので、睡眠は不必要にも思える。だが精神も疲れることはある。適度に眠る方が良いとされる。精霊には本格的に眠るということはなくぼんやりと仮眠のようなものを取るのだが、ごく稀に過去の光景やありえるかもしれない未来を幻視する。人でいうところの夢、であった。
「……嫌な夢見たわ」
ウタは珍しく苦悶の滲む疲れた顔をしていた。常時笑顔のウタがレイルたちには決して見せない表情だ。あの日からウタは笑顔でいるようになった。笑顔で本心を隠すように。あの日も人をよく見ているレイルにさえその本心を知られることはなかった。
ふと枕元にある鏡に気づいて撫でる。
「この季節になるといつもだ。見ないようにお守り置いといたのに」
住処から担当の湖を眺めた。透き通った綺麗な水だ。だが以前よりは目には見えない程度ではあるが汚くなっている。
水清ければ魚棲まず。レイルの教えは概ねそんな感じであった。
この話を聞いた時、ウタは長年の疑問に答えの一欠片を見つけたような気がした。以前の自分は強くなることばかりを追い求めていた。いじめられたくない、認められたいとそれだけのために。それではダメだったのだ。綺麗すぎる水が生物を駆逐するように、強すぎる力は周囲を怯えさせてしまうのだ。
「湖を汚せ! なんて言われたときは驚いたけどね」
弱くていい。そう語るレイルとその仲間三人は初めての友達だった。聖剣を携えた、弱い勇者。持たずして全てを持つ少女、才能と努力の塊である黒髪の少女、白く何かの抜け落ちた少年。
レイルたちと出会った時はまだ任期が残っていたために一緒についていくことは叶わなかった。
もしも、もしもこの任期が終わったら、その時もまだ四人が四人のままで、自分が自分のままだったら会いに行きたい。レイルたちと暮らして、一緒に魔物を倒したり、遊びに行きたい。
したいことをひとつ、またひとつと数え上げていく。無邪気に、狂気を誰も気づかせないほどに隠して。
これからしばらくして邪神が降臨し、レイルの悪魔を名乗るアークディアが任期を終えたウタの前に現れることになる。
そして巨人を殺し、邪神が滅びたそのあとで一度ウタは里帰りを果たす。アークディアとミラとロウに魂術を習い会得したその後で。




