第9話 二人の戦い
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・防具:学生服《 ブレザー》
装備耐久力:57/100
防御力:2
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装備することで得られる効果と共に、装備、譲渡、放棄――という三つの選択肢が表示される。
考えるだけでメニューの項目の選択や切り替えが可能らしい。
耐久力が減っている……もし0になったらどうなるのだろうか?
気にしつつも、続いてホーンラビットの角を選択してみる。
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・武器:ホーンラビットの角
装備耐久力:100/100
攻撃力:10
※
俺はそのまま、装備を選択してみた。
『このアイテムを装備しますか?』
そしてYESを選ぶと、ふわっとした光と共に右手に一角兎の角が召喚された。
「え!? そ、それも宮真くんの魔法なの?」
「いや、違う。
さっき倒した兎がいただろ?
あいつを倒した時に手に入れ武器を装備したんだ」
「そ、そうなんだ……?」
ホーンラビットの角――その先端は見るからに鋭利だ。
俺はそれを利用して、ダンジョンの壁に適当な印を付けていく。
「何してるの?」
「こうやって印を付けておけば、ここが一度通った道だとわかるだろ?」
それに、もしダンジョンの構造が変化しているのだとしたら、来た道を戻った時にこの印も消えているはずだ。
「そ、そっか!
それ凄くいい! 宮真くんって、頭いいんだね!」
冷静な頭があれば、誰でも思いつく。
そう思いつつ別の言葉を口にした。
「三枝、これを持ってみてくれないか?」
「い、いいけど……?」
俺は三枝にホーンラビットの角を渡した
すると、それはどこかに消えてしまう。
「あれっ!? ど、どこにいったの!?」
「……アイテムの手渡しはできないのかもな」
もう一度メニューを確認すると、アイテム欄にホーンラビットの角と書かれていた。
所有権が消えたわけではないようだ。
もう少し調べてみると、いくつかわかったことがあった。
まずアイテムには所有権というものがある。
それは恐らく最初に手に入れた人物が所有者となる。
さらに所有権の放棄が可能。
所有権を放棄した場合、メニューからアイテム名が消えて地面に投げ出される。
つまり捨てた……ということになるらしい。
「三枝、拾ってみてくれ」
「う、うん……」
この状態で拾うと所有者が変更になる。
同じやり方で三枝にアイテムを返してもらう。
所有権の放棄は何度でも可能らしい。
勿論、こんなことをしなくてもアイテム欄から譲渡を選択すれば、
『ホーンラビットの角を譲渡《 じょうと》しますか?』
システム……と敢えて形容させてもらうが――こんなメッセージと共にYES or NOの選択肢が出てきた。
YESを選択すると譲渡したい相手の名前が表示される。
現時点で表示されているのは三枝だけだった。
もしかしたら相手との距離が関係しているのかもしれない。
俺は三枝の名前を選択した。
「三枝、そっちは何か表示されたか?」
「うん! YESとNOの選択肢が出たよ!」
「なら、YESを選んでくれ」
「う、うん……」
戸惑いつつも、三枝は俺の指示に従ってくれた。
『譲渡が完了しました』
これで所有権が移ったらしい。
システムでアイテムが縛られている以上、自分の所持品を奪われる心配はないようだ。
「え、えと……今のであたしに譲渡されたのかな?」
「ああ、アイテムメニューを開いて装備してみてくれ」
「うん! え、え~と、この画面からホーンラビットの角を選択して……っ!?」
三枝の手にはホーンラビットの角が召喚されていた。
「できたな」
「う、うん……なんだか不思議な感じ……」
俺は頷く。
同時に、システムに縛られるメリットとデメリットが良くわかった。
「それは三枝が持っていてくれ。
武器としても使えるからな」
「で、でも……宮真くんの武器がなくなっちゃうんじゃ……」
「俺は魔法を覚えてるからな。その武器は三枝の護身用だ」
「……わかった。ありがとね、宮真くん」
「ああ。それと一つ頼みがあるんだが、通路を進んだら壁に印を付けてくれ」
「わかった。それくらいなら、あたしにもできるから」
寧ろ、それができないなら足手纏いどころの話じゃない。
俺の気持ちなど知る由もなく、三枝は力強く頷いたのだった。
「じゃあ行く――」
「ガアアアアアアアアアア!!」
前方から怒りを孕んだような咆哮が聞こえた。
「な、なに……!?」
「……――っ」
俺たちを見つけたゴブリンが、ダダダダダダと一目散に駆けてくる。
気配遮断を獲得しているはずだが……効果が発揮されていないのだろうか?
いや、考えるのは後だ。
まずはゴブリンの対処だな。
敵の数は二体か。
「三枝は自分を守ることだけを考えてくれ」
「う、うん……!」
距離のあるうちなら、勝算は十分ある。
それに、今後の為に確かめておきたいこともある。
この戦闘はいい機会だ。
こっちを殺すつもりで来るっていうのなら――容赦しない。
俺は手を突き出し、ゴブリンに魔法を放とうした――その瞬間、真っすぐに疾駆していたゴブリンたちがジグザグに動く。
(……なんだ?)
まるで俺が、魔法を使えることを知っているみたいな――!?
(……!? こいつら、あの時のゴブリンか!?)
二体のゴブリンは火傷を負っていた。
さっきの戦いでは気絶していただけで、倒すまでは至らなかったようだ。
「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
ゴブリンが咆哮する。
それは俺に怒りを向けているようだった。
あの時、死んでるか確認しておけば……こんなことにはならなかった。
こういうことが、このダンジョンでは命取りに繋がるかもしれない。
後悔しても仕方ないが、学ばせてもらった。
だから、二度と同じ失敗はしない。
「――炎の矢!」
今度こそ確実に殺してやる。
俺は二連続で赤い閃光を放った。
そのうちの【一矢】が、ゴブリンを貫く為に突き進む。
が、予測不能な動きをするモンスターを捉えることはできず、暗闇に消えてしまう。
だが、あいつらは気付いていない。
俺が放ったもう一本の矢の行方を――
「落ちろ!」
天井目掛けて放っていた炎の矢は消失することなく宙に留まっていたのだ。
そして、俺の言葉に従うように急速落下する。
「――ガッ!?」
閃光はゴブリンの胸部を貫いた。
(……よし! 上手くいった!)
どうやら魔法は、ある程度コントロールが可能らしい。
倒れたゴブリンが光の粒子を放ち消滅していく。
今度こそ確実に仕留めたようだ。
あとはもう一体――。
「ッ――ガアアアアアアアアアアアア!!」
仲間がやられたことに激昂したのか、怒りを発露させ俺に迫ってくる。
俺はゴブリンに手を向け、炎の矢を連続で放った。
二本の矢がゴブリンの腕と肩を貫く。
だが、致命傷には至らない。
確実に致命傷となる一撃を与えなくては――こいつは止まらなさそうだ。
だったらまた――。
(……リスクはあるが……)
絶対に避けられない至近距離で、炎の矢をぶっぱなす!
「グガアアアアアアアアアッ!!」
鼓膜を劈くようなゴブリンの咆哮は、俺を殺すと叫んでいるようだった。
だが殺されてやるつもりはない。
この距離なら確実に当たる。
「ファイア――」
そう確信して、魔法を放とうとしたのだがだ――
「っ!?」
予想外の事態が発生した。
ゴブリンの手に光が溢れたと思うと――盾が召喚されていたのだ。
(……モンスターも装備の召喚ができるのか!?)
なぜ、その可能性を考えなかっ――。
後悔の思考は一瞬だった。
「――アロオオオオオオオオッ!!!!!」
だが、その一瞬の迷いが勝機を逃すことになった。
ゴブリンは盾で急所を庇う。
放たれた炎の閃光は盾ごとゴブリンを貫いた。
しかし、
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッツ!!」
盾が炎の矢の効果を弱めたのだろう。
ゴブリンを倒すまでには至らなかった。
その瞬間、小さな鬼の形相がニヤリと歪む。
全身が総毛立った。
これが死の恐怖……今までに感じたことのない感覚に身体が硬直する。
明らかな隙を逃すことなく、ゴブリンの強靭な爪が俺に向かって振り下ろされた。
瞬間、
「――宮真くんっ!」
三枝が俺の名を呼んだ。
「!?」
死を覚悟していた。
なのに、俺の身体に痛みはない。
不思議なことに、ゴブリンは腕を振り上げたままその場に立ち尽くしている。
「……?」
ゴブリン自身、何が起こったのかわからない。
そんな顔をしながら首を下る。
視界に入る光景を見て理解しただろう。
自らの胸元が、三枝の持っていた一角獣の角に貫かれていることを。
そして、
「……ぁ……」
バターン――。
ゴブリンは地面に倒れると、光の粒子を放ち消滅した。
「……た、倒した……の?」
全身の力が抜けたみたいに、三枝はその場にへたり込む。
俺の心臓は爆発しそうなほど鼓動を打っていた。
まるで勝った気がしない。
いや――俺一人なら今頃死んでいた。
目前の少女に助けられたのだ。
「三枝……」
「な、なに?」
「……助かった」
それだけ言って、俺もその場にへたり込んだのだった。




