第58話 本当の始まり(第2巻エピローグ)
転移が終わり教室に戻ると、私たちが負っていた怪我は全て治っていた。
「――三枝!?」
だからこそ大翔くんは、淡い期待を抱いたのだろう。
もしかしたら三枝さんも生きていてくれたんじゃないかって。
でも、教室には彼女の姿も……七瀬さんや伊野瀬さん、丹村さん、曾我部さんの姿がなかった。
「にゃははっ! 攻略お疲れ様で~す! いや~九重班はちょ~大変だったみたいだね~!」
担任は、私たちと羅刹の戦いを全て監視していたのだろう。
あんな殺し合いを見ておきながら、こいつは楽しそうに笑っている。
狂っている。
こんなことが許されていいはずがない。
「しかも~4階層でついに初の死者が出ちゃったね~」
死者という言葉にクラス内がざわめく。
「もうちょっと頑張ってくれるんじゃないかな~って思ったのに、先生はとっても残念、だぞ!」
こいつは、そんなこと思っていない。
私たちの命なんて、こいつらからしてみれば……一切の価値がないものなのだろう。
「……三枝は……助からなかったのか」
生気のない顔で大翔くんが尋ねた。
それを聞いても……私たちが傷付くことになるだけ。
わかっていても聞かずにはいられなかったのだろう。
「あれれ、どうして~? 三枝さん、いないね~。
七瀬さんも、曾我部さんも丹村さんも伊野瀬さんもだ~~~!」
まるで死者を弄ぶように、彼女たちの名前を口にする。
許せない。
許せない。許せない
許せない。許せない。許せない。
私の心が黒く染まっていく。
消えない怒りが感情を燃え尽くす。
『テメェには力がねえ。どんなに立派な能書きを垂れようとな』
羅刹の言葉が蘇る。
彼の存在を私は認めることはできない。
だけど――この言葉だけは事実だ。
私に力がなかったから。
もっと私に力があれば――みんなを守ることができたのに。
いや違う。
守るだけじゃ何も解決しない。
そうだ。
そうだよ。
こんな世界があるからいけないんだ。
私に力があるのなら、こんな世界――
『壊したいの?』
声が聞こえた。
『この世界を壊すためなら、なんでもできる?』
誰の声かもわからない。
だけど私にはない力を得ることができるなら――。
(――私は力が欲しい。そのためならなんだってしてみせる)
願った。
『そう。なら約束だよ』
多分それは、無邪気な子供の声。
そして、
『九重勇希は【***】に選ばれました。
あなたはエクストラスキル――【終幕者】を獲得しました。
レベル1獲得後、権限者の最低権限を破壊することが可能になります』
私の耳に機械音が響く。
(……エクストラスキル? 終幕者……?)
あの声の主は私の願いを叶えてくれたのだろうか?
強い昂揚感と期待を胸に、私はスキルの詳細を確認した。
「……え?」
戸惑いに思わず声が漏れる。
私は目を疑った。
画面にはこう書かれていたのだ。
【終幕者1:獲得条件――クラスメイトを一人、自らの手で殺――】
慌ててスキル画面を閉じる。
こんなのあっていいはずがない。
なのに――。
『なんだってしてみせるって約束したよね? 力を獲得していけば、キミはこの世界を――創造者を終わらせることができる。だから、やってみせてよ、九重勇希さん』
その悪意に満ちた無邪気な声は、確かに私に聞こえていた。
※
そしてもう一つ。
九重勇希とは別に、この世界を終わりに導ける可能性が、この世界に芽生えていた。
※
真っ暗な世界。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。
怖くて、悲しくて、切ない。
ああ、そうか。
そして気付く。
自分がもう――死んでしまっていることに。
だけど、不思議なことに後悔はない。
自分が正しいと思える、誇らしいと思える選択を選べた。
たった一人の――心から死んでほしくないと思えた人を、助けられたから。
だからこのまま消えても、それで満足だ。
でもまだ許されるのなら。
(……どうか、彼の未来に希望がありますように)
最後の瞬間まであたしは、それを願うだろう。
『優しいんだね――あなたは』
声が届いた。
聞こえたのではない。
直接――あたしの意思に語り掛けてくるような。
『友達を助けたかったんだね』
一体、誰?
だけど、あたしの声は届かない。
でも優しい声が、またあたしに語り掛けてくる。
『あなたは私と同じだから。だから――あなたのことを信じたい』
その声から強い意志を感じた。
何かを決意したかのような。
『辛い目に合わせてしまうかもれないけれど……だけど、どうか――あなたが私の代わりに、みんなを導いてあげてほしい』
導く?
何もできない。
死んでしまったあたしが……誰を導くの?
『私にはもう……時間がないから――残された力をあなたに託します』
そして――あたしの中に何かが入ってきて――。
『****は【創造者】に選ばれたことで、エクストラスキル――希望を獲得しました。
また、****は【権限者】としての活動が可能になります』
希望? 権限者? 一体、何が起きようとしているのだろう。
「え……あれ?」
不意に暗い世界が終わり意識が戻る。
白い部屋。
ベッドの上。
でも、ここがどこかわからない。
ゆっくりと身体を起こそうとして、違和感を覚えた。
「!? ど、どうして!?」
この時のあたしはまだ何も知らなかったけれど――これはもう一人のあたしの始まりで。
「なんであたし――ぬいぐるみになってるの!?」
本当の戦いの序幕だったんだ。




