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第53話 4階層攻略開始

              ※




 彼女が落ち着くのを待ってから、俺たちは部屋を出た。

 そして三枝を部屋まで送っていく。


「……大丈夫だと思うが、もし何かあったら直ぐに知らせろ」

「うん。

 ……ありがとう、宮真くん。

 あたし……いつも助けられてばっかりで」


 申し訳なさそうな顔を向けられた。

 今回は偶然だし、もっと早く助けることができたのに……それをしなかった。

 だから、感謝されることじゃない。


「気にするな。でも……そうだな。もし俺がピンチの時は……また、助けに来てくれよ」

「あたしが……宮真くんを?」

「ああ。

 ピンチにやってくるヒーローみたいにな。って、泣き虫な三枝には似合わないか?」

「ちょ、ちょっと! あたし別に泣き虫じゃないし!」


 顔を赤くして反論する。

 でも、強くなりたいと願う彼女ならいつか――本当にそうなれるかもしれない。


「期待……はほどほどにしておくよ。それじゃあな」


 俺が踵を返すと、


「宮真くん!」


 名前を呼ばれる。


「うん?」

「あの……次の階層もがんばろうね! 絶対――絶対、生き抜こうね!」

「当たり前だ。こんなところで死ぬわけにはいかないからな」


 そう約束して、今度こそ俺は部屋に戻った。

 レベルが1上がったことでマジックポイントとスキルポイントを獲得していたが……レベル20で獲得可能になる力もあるため、それように温存しておこう。

 あとはこのまま眠るだけなのだが……。


「……F……いるのか?」


 呼び掛けてみたが……当然のように返事はなく、室内に虚しさだけが残る。

 羅刹の持つ力がオリジナルスキルなのか確認したかったのだが、こちらの都合で姿は見せてくれないようだ。

 俺は学ランを脱ぎ……正確には装備を解除したというべきか、そのままベッドに倒れ込んだ。


(……次に会えるのはいつになるのか……)


 知りたい情報はいくらでもあるが、不確定要素を当てにしていても仕方ない。

 今は次の探索に備えてしっかりと休んでおこう。

 そう決めて、俺は眠りに就いた。




              ※




 一体、何時間くらい眠っていただろうか?

 今日は自然に目を覚ますことができた。

 担任の喧しい放送がなかったお陰で、頭もかなりすっきりしている。

 昨日は忘れていたが、試して起きたことがいくつかあるのを思い出した。

 何からやるか……それ以前に、みんなは起きているだろうか?

 確かめるために、俺は部屋を出て階段を下りて行った。

 まだ起きている生徒は少ないのか、廊下は静けさに――


「――イヤアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 3階に悲鳴が響き、静寂は終わりを告げた。


「舞!? 舞っ!?」


 叫んでいるのは七瀬だ。

 そして舞……というのは、伊野瀬のことだろう。


「三枝! そんなにアタシらのことがムカついたのかよ!」

「こ、これは……あたしじゃない!」


 悲鳴が聞こえた部屋は開け放たれており、直ぐに場所がわかった。

 中を覗き込むと、


「っ……!?」


 伊野瀬が倒れて苦悶の表情を浮かべていた。

 痛みを堪えるように、腹部を押さえている。

 白いシャツには、今もじわじわと血が広がっていた。

 その伊野瀬の傍にいるのは三枝で、彼女の手は真っ赤に染まっている。


「三枝……」

「み、宮真くん、違う、違うよ!」


 その目は、自分はやっていない――と、訴えていた。 

 俺も彼女が、伊野瀬に怪我を負わせたとは思えない。

 昨日の今日――確かに三枝たちの間に起こったトラブルを俺は知っている。

 それが動機となった……と、考えられるかもしれないが……。


「ねぇ、なんだか凄い悲鳴が聞こえたんだけど、どうしたの?」


 騒ぎを聞きつけた生徒たちが集まってきた。


「え……き、キャアアアアアアアアアアアアアアっ!?」

「い、伊野瀬さんがっ!?」


 再び悲鳴が上げる中、俺は伊野瀬に近付き怪我の状態を確認する。

 伊野瀬の腹部には、刺され抉られたような傷口ができている。

 俺は直ぐに治癒魔法を掛ける。

 が……傷がなかなか塞がらないのか、血が止まらない。


「……っ……ぁ……」


 激しい痛みを感じているせいか、伊野瀬の表情が激しく歪む。

 朦朧としているかもしれないが、完全に意識が途絶えているわけではないようだ。

 治癒のレベルは3……だが、俺一人では回復が間に合わないか?


「どういうこと!? 七瀬、何があったの?」

「嘘……でしょ? ――舞、大丈夫!?」


 やって来て早々、顔面蒼白になっているのは、丹村と曾我部だ。

 友人の悲惨な姿を見て、明らかに動揺している。


「さ、三枝が――この女がやったんだ!」


 言って七瀬は、憎しみを込めた厳しい眼差しを向けた。


「ち、違う! あ、あたしがここに来た時に、伊野瀬さんが倒れてて……」


 疑惑を向けられた三枝が、必死に否定する。

 しかし、皆が殺人犯を見るような目で、三枝を見つめていた。


「どうしたの? 一体――っ!?」


 やって来た勇希が、慌てて伊野瀬に駆け寄る。


「手伝ってくれ! 俺一人じゃ厳しい」


 呼びかけると、状況を瞬時に把握して、迅速に治癒魔法を掛け始めた。


「他に誰か、治癒魔法を使える生徒はいない!?」


 一人、また一人と協力者が増えていく。

 この怪我の原因を突き止めるためにも、ここで伊野瀬に死なれるわけにはいかない。


(……頼む!)


 出し惜しみはせずありったけの魔力を注ぐ。

 すると――ナイフで抉られたような傷跡が徐々に塞がっていった。


「傷が!?」

「助けられる! みんな、がんばろう!」


 そして出血は完全に止まると、苦悶の表情を浮かべていた伊野瀬の表情が和らいだ。

 俺たちはそのまま、暫く治癒を使い続け……。


「ぁ……あれ? みんな……?」

「舞!?」


 伊野瀬が目を覚ました。

 治癒のレベルを上げておいたことや、皆で協力して魔法を掛けたことが幸いしたようだ。


「ぇ……なんで!? なんで舞のお腹、こんなに赤く、これって……血っ!?」


 自分の姿を見て、伊野瀬は激しく動揺する。

 七瀬はそんな彼女を安心させるため、優しく抱き締めた。


「あんた……すごい怪我してたんだよ。アタシ……本当にもうダメかと……」

「マジで良かったよ。本当、マジで……」

「舞……一体、何があったの?」


 丹村や曾我部――七瀬グループの女子たちも、伊野瀬の無事を喜ぶ。


「何が……って……――!? そうだよ! 舞は……」


 錯乱したように伊野瀬は震えだす。


「答えて、誰にやられたの!?」


 脅える伊野瀬の肩を掴み、七瀬は声を荒げた。


「舞は……こいつに……」


 すると伊野瀬は手を震わせながら、人差し指である人物を指さす。


「こいつ――三枝が突然、部屋に入って来て……舞を刺したの」


 被害者の口から加害者の名が告げられた瞬間、室内に静寂が満ちる。


「やっぱり、三枝さんが……伊野瀬さんを……?」

「だ、だけど、どうして?」

「喧嘩……とか?」

「ばか! 喧嘩でここまでするわけないだろ!」


 混乱する生徒たち。

 タウンでクラスメイトが殺されかけた事実は、彼らに大きなショックを与えていた。


「人を殺そうとするなんて……あんた異常だよ! ここまでする必要があるのかよっ!」

「あ、あたし、知らない! 本当に……あたしじゃ……!」


 七瀬は怒りで我を忘れたように三枝を罵る。

 ここにいる者たちも皆、口にしないが三枝がやったのだと思っているだろう。

 彼らの目が……それを語っていた。


「この殺人犯! あんたなんて死ねばいい!」

「あ、あたしは……本当に……お願い、みんな、信じて……」


 三枝は縋るように周囲を見回す。

 だが……目は口ほどに物を言うように、三枝を信じる物など誰一人いなかった――ただ一人、俺を除いて。


(……三枝が犯人?)


 ありえない。

 彼女に情があるから、都合よく考えているわけじゃない。

 これまでの状況を考えれば、彼女が犯人である可能性は限りなく低い。


「みんな、落ち着いて! 伊野瀬さんもまだ混乱しているだろうし、互いに冷静になってから話を聞くべきだよ」


 勇希が冷静になるよう声を掛ける。


「そんな必要ない! 舞は殺され掛けたんだから! 昨日のことであいつ、アタシらにムカついてたんだ……! だからそれで――」


 昨日の状況を知っているのは、俺も含めて六人。

 俺、三枝、七瀬、伊野瀬、丹村、曾我部の中で、伊野瀬を襲う動機があるのは三枝だけだ。

 が、だからこそありえない。

 あまりにもタイミングが良すぎる。

 これでは自分を疑ってくださいと言っているようなものだ。

 それに伊野瀬の腹部にできた傷は、三枝の持つ武器で与えられるものではない。

 彼女の持つ槍で刺したのであれば、腹部を貫通していたはずだ。

 誰かに嵌められたと考えるほうが自然だ……が、伊野瀬は三枝に刺されたと口にした。

 恐らくそれは事実だ。

 自分の命を犠牲にしてまで、嘘を吐くとは思えない。

 俺の中で真犯人の推測は済んでいる……が、三枝の冤罪を晴らすために必要な手札が一枚だけ足らない。伊野瀬を襲った真犯人はどうやって――。


(――いや、待てよ)


 俺はFの言葉を思い出した。

 この世界に存在するバグ――システムの穴があるというあの発言を。


(……だとしたら)


 最後の手札は集まった。

 もし俺の考えが正しければ――。


「殺人犯! お前なんて死刑だ!」


 三枝に対するあまりに悲惨な宣告に、俺は思考を中断する。


「そうよ、舞ちゃんを殺そうとしたんだもん! 当然だよね!」

「今直ぐ死ねよ!」


 手拍子と共に、三枝に向けて死刑コールが始まった。


「「「し・け・い! し・け・い!」」」」


 やっているのは、七瀬の派閥にいる一部の生徒だけではあるが……。

 それでもこれは、三枝の心を追いつめるには十分過ぎる行為だった。


「ほらっ! み~んな、あんたなんて死ねばいいと思ってる! 報いを受ければいいって思ってる、これがその証拠!」

「っ――どうして、どうして信じてくれないの!」


 耐え切れなくなったように、三枝は部屋を飛び出してしまう。

 誰も彼女を捕えようとしないのは、まだこの状況を完全に呑み込めていなかったからだろう。


「三枝!?」


 一瞬、三枝は振り返った。


「俺は、お前がこんなことをする奴だなんて――」


 思ってない。――それを伝える前に、彼女の目から涙が零れるのが見えた。


「っ――」


 そして恐怖するように、この場から逃げていく。


「クソ女っ! 逃げられると思うなよっ!」


 三枝を追って、七瀬は部屋を出ていく。


「待ってよ、七瀬! 一人じゃ危ないって!」

「そうだよ、わたしたちも一緒に!」

「お、置いてかないでよ! 舞も行くから!」


 丹村と曾我部、回復したばかりの伊野瀬までもが部屋を飛び出して行った。

 そして、


『ピンポンパンポン! みんな~! 盛り上がってるとこ悪いけど、4階層の攻略を開始だよ~! 今回は特に説明はないから、キミたちのタイミングでスタートしていいからね~!』


 タウン全体に放送が響いた。


「こ、九重さん、どうしよう?」


 女子生徒が尋ねる。


「……」


 だが、勇希からの返事はない。

 表情は青ざめている。

 安全だと思っていたタウンの中――それも同じクラスの生徒で、殺人未遂事件が起こったのだ。

 責任感の強い彼女は、この状況が自分の責任だと感じているのだろう。

 ヒーローは無敵ではない。その心はいつも傷付いている。

 そんなことは過去に、とっくに知っていたことだ。

 が……頼れるリーダーの弱々しい姿は、クラス全体の不安を誘ってしまう。


「勇希、大丈夫か?」

「え……? あ――ご、ごめん。今から教室に急ごう。

 さっきの放送でみんな起きたとは思うけど、まだ部屋にいる生徒もいると思うから、みんなで協力して声を掛けてほしい」


 冷静さを取り戻した勇希が指示を出すと、全員がそれに従った。

 だが俺たちは――教室に着くなり、自体が最悪な方向に向かっていることを理解した。

 教室とダンジョンを繋ぐ扉が、開け放たれたままになっていたのだ。

 それはつまり――三枝と、彼女を追い掛けていた七瀬たちが、ダンジョンに向かったという証拠だった。




              ※




 俺たち第一班は直ぐに探索を開始した。

 目的は勿論、三枝の救出だ。

 殺人未遂の冤罪を掛けられている三枝を見捨ててしまえ――そんな声もあったが、


『七瀬さんたちの救助は必要のはずだよ。

 話を聞いた限りでは、精神的にも不安定になっていたんだよね? 放っておくわけにはいかない』


 こんな大弥の発言があり、名目上は七瀬たちの救出も兼ねている。

 4階層の探索パーティは、三枝がないことを除けば前回と変わない。

 が、マッピングスキルがなくなったことで、より慎重な探索が求められていた。

 教室までのルート確保は必要なことだが、これでは捜索に時間が掛かりすぎる。

 三枝の心情を思えばタウンに居られない気持ちもわからなくはないが……ダンジョンに逃げ込んだのは悪手――真犯人の思う壺だ。

 今回の事件が俺の推測通りなら――【真犯人】の狙いは三枝なのだから。

 だが……どうしたら三枝を見つけ出せる?

 マッピングはないこの状況で、頼りになるのは気配察知のスキルくらいだろう。

 だが……このスキルは特定の誰かを見つけ出す力ではない。


(……周囲に複数の気配があるのはわかるが……どれが三枝なのかは――いや、待てよ)


 一か八かだが……試してみる価値はある。


「みんな――付いて来てくれ! 当てずっぽうで進むよりも、可能性が高い方法を思い付いた」


 ダンジョンを進みながら、俺の考えを伝えた。

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