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第49話 遭遇


               ※




 軽い自己紹介の後、俺たちはダンジョンの中を進んでいく。

 三パーティ合わせて合計十五人。

 これまでの最大人数での行動になった。

 今のところ問題は起こっていない。

 それどころか、5組のメンバーが優秀なため、探索がかなり楽になっている。

 レベル的な能力の差もあると思うが、それ以上にパーティ間での連携が段違いだ。

 それぞれが自分の役割を理解しており、最適な行動で敵を殲滅する。

 同じ1年で探索を始めた時期も同じはずなのに、なぜこうも差があるのか? 

 そんな不平等を感じたが……その考えが間違いであることに直ぐ気付いた。

 現実の世界でも、人が平等であったことなど一度もない。

 レベルやステータス以外でも、個人の能力差はあって当然だ。


「それにしても、三枝さんのマッピングスキルは素晴らしいな」

「ほんとな! 扇原さんから便利なスキルがあるとは聞いてたけど、これがあるとないじゃ、ダンジョンの攻略難易度が随分と変わってくるぞ」


 探索を続けて行く中で、鷺ノ宮と加原が三枝のマッピングスキルを絶賛した。

 協力関係となったのはいいが、互いの能力がバレることはデメリットだろう。


「あたしの力が、少しでもみんなの役に立ってるなら嬉しいよ」


 マッピングスキルについて広まれば、三枝を欲しがる奴は増えていく。

 最悪、引き抜いてでも手に入れる……という奴が現れてもおかしくはない。

 ポイントが有限である以上、それほど簡単に引き抜きを行うことはできないと思うが……どこかで対策が必要になるかもしれない。


「あの……宮真君」


 いつの間にか隣に立っていた少女――5組の樹結花が話し掛けてきた。

 彼女は5組のパーティの中ではサポーターのような役割だ。

 戦闘中目立った役割はなかったが、治癒や補助系の魔法、スキルで仲間を的確に補助していたのを確認している。


「どうしたんだ?」

「改めてになりますが、さっきはありがとうございました」

「気にしなくていいぞ。というか、樹も治癒魔法を獲得してたんだな」


 尋ねると、彼女は小さく頷く。


「あの時は、痺れと痛みで魔法を使うことができなかったんです。だから、本当に助かりました」

「そうか……。なら良かった」

「……はい」


 その後は沈黙が続いた。

 もう話すことがないのなら、俺の隣にいる必要はないと思うのだが……。


「ちょっとヤマト! 他の子を口説くくらいなら、ボクとラブラブすればいいじゃないか!」

「く、口説――!?」


 此花がちょっかい出してきて、樹は顔を真っ赤に染める。


「今の会話のどこに口説いてる要素があった。樹……気分を害したらすまない。此花は誰に対してもこんな感じなんだ」

「い、いえ……ただ、突然のことで少しびっくりしてしまいました」


 控えめな笑みを返してくれる樹。

 品が良いこともあって、深窓の令嬢といった言葉が似合う。


「ヤマトってば、やっぱりこの子に対して優しくない?」

「協力してるんだ。友好的に接するのは当然だろ?」

「むううううう……。ボクというものがありながら、ヤマトはこういう子が好みだったんだね!」

「いや、だからどうしてそうなるなんだ……」


 此花からすると、俺はとんでもなく気が多い男に見えるのだろうか?


「ふふっ……二人とも、仲がいいんですね」


 建設的ではない会話を繰り広げる俺たちの隣で、樹は柔かな笑みを浮かべた。


「そうか?」

「そりゃもう運命の二人だからね!」


 互いに熱量が全く違う。全くかみ合ってない。


「ふふふっ、やっぱり仲良しなんですね」


 樹は楽しそうに俺たちを見守る。


「結花~、なんだか楽しそうじゃない!」

「あ、美鈴ちゃん。少し二人と話をさせてもらっていたんです」


 美鈴と呼ばれ生徒は、樹と同じパーティに所属している。

 ハキハキとしていて、姉御肌な印象のある少女だ。


「人見知りの結花が、こんなにすぐに仲良くなれるなんてねぇ……」


 言いながら美鈴は、俺と此花に目を向けた。


「宮真、仲良くなったからってうちの結花を襲っちゃダメよ」

「ヤマト、そんなことしたらボクも許さないからね」


 いや待て。なんで俺がそういうポジションになってるんだ。


「もう……二人ともやめてください。宮真君が困ってます……」


 結花が言うと、此花と美鈴が苦笑してみせた。


「なんだかボク、キミとは仲良くなれそうだな」

「アタシも此花さんとは相性いいかも」

「此花さんじゃなくて、彩花でいいよ。ボクもミレイって呼ぶから」

「OK! 彩花、これからよろしくね! こんな状況だけど、友達が増えるのは嬉しいよ」


 冷静に考えれば友達など作っている場合ではない。

 だが……少しでも信頼できる相手が欲しい。

 そう考えるのはおかしいことではない。

 全クラス協力しながら、ダンジョンから脱出というのは理想的。

 だが、ポイントという制度がある以上は、どこかで綻びが生まれるだろう。

 この世界でのポイントは生命線だ。

 奪い、奪われ……という状況がいつ発生してもおかしくはない。

 世界のルールが全て把握できているわけでもない。

 生き残れるのは一クラスだけ……という条件が発生しても、なんらおかしくはない。

 この世界で親しい人間を増やすことは、自分の決断を鈍らせることにも繋がる。


「……そういえば、少し聞いてもいいか?」


 俺は樹に尋ねた。


「何かな?」

「答えられればで構わないんだが、5組の平均レベルはどれくらいになってる?」

「今回の探索で8レベルになりました」

「うちらは扇原さんのオリジナルスキルのお陰でレベルアップも楽なんだよね」


 樹たちは隠すことなく答えてくれた。

 どうやら扇原は口止めしていなかったらしい。

 オリジナルスキルは、この世界で生きて行くための大きな力だというのに、それを言いふらすような真似をするなんて……。


(……知られたところで問題ないと考えているのか?)


 俺の一匹狼と違い、扇原の経験共有は永続的に効果を発揮するスキル。

 だからこそ、隠すメリットは薄いが、流石に警戒心がなさすぎるように思う。

 もしかしたら5組には、扇原の経験共有を超える切札があるのか?

 5組の生徒たちの余裕っぷりを見ていると、そう勘繰りたくなる。


「しかし、平均レベルが8か……かなり高いな」

「ボクたちのパーティは、今レベル5になったところだもんね」

「1組の平均レベルはそれくらいなんですね」


 違う。

 クラス全体としての平均レベルはもっと低いだろう。

 階層攻略に参加していない生徒はレベル1のままなのだ。

 扇原のオリジナルスキルの怖さは、本来は経験値を得られない生徒すらもレベルアップしていくことだ。総合力で考えれば5組は圧倒的だろう。

 クラス間抗争になれば、数の暴力で殲滅される危険性が――。


(……うん?)


 右側の壁の向こうに、今までよりも強い気配を感じた。

 背筋がゾクゾクと感覚――恐らくボスモンスターだろう。

 しかし俺たちの進行方向は直進。

 できれば倒しに行きたいが……。


(……抜け出して、討伐してくるか?)


 ボス討伐の経験値は大きい。

 だがここで抜ければ明らかに怪しまれるだろう。


「みんな、どっちに進む?」


 分かれ道を見つけ、勇希が進行方向を尋ねた。

 真っ直ぐ進むか、右に進むか。

 右に進めばボスとの戦闘になる可能性は高い。


(……隠しているわけにはいかないか)


 ボスがいることに関しては、伝えておくべきだろう。


「右の通路の先、ボスモンスターがいるぞ」

「右の通路の先に、強い気配があります」


 声が重なった。

 答えたのはいつきだ。

 どうやら彼女も気配察知を獲得しているようだ。


「ボスモンスター? 扇原さんから、存在は聞いていたが……」

「普通のモンスターとは比べ物にならないくらい強いって言ってたよね」


 5組でボスとの戦闘経験があるのは、扇原のパーティだけなのだろう。

 まともなボス戦の経験者は、この中では俺、勇希、三枝だけということになる。


「この人数で戦えばいけるんじゃねえか?」


 数は絶対的な力だ。

 5組の生徒たちは平均レベルも高く、そこに俺たちが加われば勝率も増すだろう。

 もし窮地に陥ったとしても、オリジナルスキルを発動すれば恐らく負けることはない。


「危険を回避したいなら、戦うべきではないと思う。

 一つのミスが全滅に繋がるかもしれない」


 だが、俺は反対意見を口にした。

 可能であればボスの討伐は俺一人で行いたい。

 経験値やポイントのためだけでなく、俺がオリジナルスキル保持者であることを知られないためにも。


「宮真は、ボス戦経験者なの?」

「ああ、俺だけじゃなく勇希と三枝もな」


 俺は二人に話を振る。


「1階層では、扇原さんたちと協力してボスと戦ったんだよ」

「扇原さんと……? そんなことがあったのか……?」


 どうやら扇原は、あの時のことについては話していなかったようだ。

 それは俺たちに対する負い目からなのか、ただ単に保身を考えた末なのか……。


「戦ったあたしたちが言うのは変だけど……正直、生きていたのが不思議なくらい……」


 真剣な声音で三枝はボスの危険性を伝える。


「……それほどか。

 ……階層攻略に関わらない以上は、戦うべきではないのかもしれないな」


 俺たちの話を聞き、5組の面々は戦闘を回避することを選択したようだ。

 危険を回避するという意味では間違いなく賢い選択だ。

 が、彼らはこの時点で可能性を一つ見落としている。

 久我と樹を襲ったであろう犯人は、人間とは限らない。

 襲撃者がボスモンスターだった場合……この時点で犯人の特定は不可能になる。 


「じゃあ、ボスは避けて進むってことでいいよね?」

 勇希の言葉に全員が頷いた。

 そのタイミングで、


『4組の生徒が2階層に繋がる扉を発見しました。よって4組は第2階層攻略完了となります』


 ダンジョン内にシステム音が響いた。


『3組の生徒が2階層に繋がる扉を発見しました。よって3組は第2階層攻略完了となります』


 続けて3組。


「……4組と3組が攻略完了か」

「これで全てのクラスが2階層を突破したんだね」


 この二クラスが直ぐに3階層攻略を始めるとは考えにくいが、襲撃者のいるこの状況で探索者が増えれば、さらに面倒なことになりかねない。

 今のうちに、少し状況を整理しておいたほうがいいだろう。

 襲撃者の可能性があるのは1、2、5組の誰か。

 もしくはモンスター。

 これから3階層の攻略を始めるであろう3、4組は無関係と見て間違いない。

 現在、被害を受けたのは、1組の久我、5組の樹。

 襲撃者が姿を変えていたのは、5組の扇原と加原。


(……襲撃者が、どちらも5組なのは偶然か?)


 意図的に5組に疑いを掛け潰そうとしている?

 それとも……そう考えさせることで、5組が犯人ではないと思わせる作戦だろうか?

 だが、最初に疑いを持たれるリスクがある。

 仮に俺が変身能力を持っていたとして、そんなリスクを犯すだろうか?

 そもそも生徒同士が争うことで、最もメリットがあるのは誰だ……?


(……モンスター……? いや……)


 彼らににも少なからず、知性や感情はあるようだが、モンスターの行動にしては、打算的というか狡猾すぎる。

 それに、変身能力を持ったモンスターがいたとして、誰にでも変身できるとは思えない。

 襲撃者は扇原と加原を知っていたからこそ、5組の生徒に変身できたと考えるほうが自然な気がする。


(……やはり犯人は人間?)


 1組で扇原と加原に面識があった生徒はいるだろうか?

 絶対とは言い切れないが……恐らくいないだろう。

 扇原はこの階層で大弥に会って、初めて俺たちの生存を聞いたと言っていた。

 なら、他の1組の生徒と顔を合わせていないことになる。

 社交的な扇原のことだ。

 他のクラスであっても、生徒と顔を合わせたなら会話をするだろう。

 そうなると……やはり1組に犯人の候補者となる生徒はいないはず。

 つまり、襲撃者は2組か5組の生徒である可能性が高い。


「加原、確認したいことがある。

 これまでに、1組と2組に顔を合わせたことがあるか?」


 俺の唐突な質問に、彼らは不思議そうな顔をする。


「なぜそんなことを聞くんだ?」

「……今回の事件に関係があることか?」

「ある……かもしもれない」


 俺の推測では、鷺ノ宮たちは2組の生徒とは遭遇していない。

 だが加原たちは……。


「……少なくとも僕たちは会ってない」


 答えたのは鷺ノ宮だ。続けて、


「おれたちはあるぞ。

 この階層で2組のパーティと話した」


 やはりか。

 これで2組の生徒が変身能力者である可能性が高まった。

 加原と面識があったからこそ、彼に化けることができた。

 そして――その2組の生徒たちが扇原とも面識があるのなら、一気に犯人である可能性に近付く。


「名前は聞いているか?」

「全員じゃないが、リーダー格だったのは柊さんって女子生徒だ」

「あたしも柊さんは覚えてるよ! 性格悪そうな子だったよね。

 当たりがキツいって言うかさー。

 なんていうか、冷血漢な女帝って感じ?」

「み、美鈴ちゃん……そこまで言わなくても……」


 柊の名前が出た途端、美鈴が会話に混じってきた。

 会話を聞いた感じだと、あまりいい印象を抱いていないらしい。


(……まさか柊の名前が出てくるなんてな)


 三枝のトラウマである少女の名は記憶に新しい。

 柊が3階層にいるのなら顔を合わせる可能性もある。

 この大人数を相手に三枝を襲うような真似はしないと思うが、警戒はしておくべきだろう。


「扇原は柊を知っているのか?」

「それはわからない。

 でも、1、2階層では顔を合わせていないと思うぞ」


 さっき顔を合わせた時に情報交換しておくべきだった。


(……もし扇原が柊と遭遇していたなら、一気に犯人である可能性に近付いたんだがな)


 三枝から聞いたイジメの証言は壮絶なものだった。

 そして、この事件の犯人は他人に攻撃することに慣れている。

 一切の躊躇いなく、理由もなく、他人を傷付けられる人間は早々いるものではない。

 何より襲撃者は、俺たちが互いを疑い争うのを楽しもうとしている。

 その行動からは、隠し切れない性格の悪さが見えていた。


(……が、疑いを持ってはいても、明確な証拠はない)


 やはり現行犯で捕まるしか――。


「おい! あれって――」


 突然、鷺ノ宮が声を張った。

 通路を進んだ先のフロアの中で、扉を見つけたのだ。


「はぁ……やっと3階層、攻略終了かぁ……」


 安心して気が抜けたのか、深く息を吐く此花。

 口にしていないが、皆が同じ心境だろう。

 今回もなんとか生き抜くことができたのだから。


「襲撃者をまだ見つけてはいないが……どうする?」


 俺は全員に確認を取った。

 このまま3階層を攻略してしまうのも手なのだが。


「僕たちは襲撃者の発見を優先するつもりだ」

「扇原さんが疑われてる以上は、な」


 鷺ノ宮と加原が言った。

 彼らだけではなく、これは5組全員の総意らしい。

 全く……このチームワークの良さは尊敬する。

 1組じゃあり得ない。

 扇原の求心力あってのことなのだろう。


「勇希、俺たちは……?」

「みんなさえ良ければ……5組のみんなと協力して、襲撃者を探そう」


 勇希はパーティメンバーを見回す。

 俺たちの意思を確認したいようだ。


「できればボクは攻略しちゃいたいんだけど……」


 此花は反対意見を口にした。

 攻略すれば1位通過、且つ無事が約束されるのだから当然だろう。


「僕たちに気を遣っているなら、無理する必要はないぞ? 強制するつもりはない」


 意外にも、鷺ノ宮を始め5組の生徒たちは、攻略を止めようとはしなかった。


「とりあえず、ここからは別行動でもいいんじゃないか?」


 続けて加原の提案があった。


「そうだな。

 僕たちは襲撃者の捜索に向かう。

 1組は意見をまとめてから行動してほしい」


 鷺ノ宮たちは待っている時間すら惜しいと考えたのだろう。

 俺としても別行動はありがたい。

 ボスを討伐するためにも、個別で動きたいと考えていたからだ。

 5組の面々は俺たちの返事を待つことなく、行動を開始していた。

 だが、ここで1組だけ階層攻略を終えることを、勇希は納得してくれないだろう。


「待っ――」

「勇希、提案がある」


 彼女が何かを口にする前に、俺は敢えて5組の生徒に聞こえるよう声を上げた。


「? 大翔くん、どうしたの?」

「此花は扉の前で待機を……もし他のクラスがここを発見したようなら、その時は扉に触れて階層を攻略してほしい。

 それまでは、俺たちも探索を続けるというのでどうだ?」


 表向きは捜索に協力する意思を示しておけば、5組へ最低限の義理を果たしたことにもなる。


「ボクはそれでも構わないよ。

 でも一人で残るんだから、少しでも危険があったら直ぐに扉に触れちゃうからね」

「ああ、それで問題ない」


 それまでにボスを討伐できなければ諦めるだけだ。

 俺たちの会話が聞こえていたためか、鷺ノ宮たちは足を止めていた。


「とりあえず、俺たちも襲撃者の捜索に行こう」

「わかった。5組のみんなには悪いけど……」

「気にする必要はない。

 だが、協力してくれる仲間がいるのは僕たちも素直にありがたいよ」


 鷺ノ宮が感謝を伝えた。


「5組のみんなには悪いが、探索は別でも構わないか? どれくらい手伝えるかわからない以上、少しでも効率良く動きたい。

 もし犯人を特定できたなら、4階層で情報の交換をしたい」


 俺は予め、明確な意思を示しておく。


「いつ階層攻略をするかもわからないんだから、そのほうがいいよな。

 戦闘中に突然、離脱されても困るし」


 冗談めいた口調で加原が返事をする。

 1階層のボス戦で起こったことを知らないため、そんなことを言えるのだろう。


「僕たちも問題ない。

 早速、手分けして捜索を始めよう」


 話を終えて、俺たちはフロアから出ようとした。


「――こんなところで立ち話とは、随分と余裕があるじゃねえか」


 が、それは叶わなかった。

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