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第47話 真実と嘘

               ※




 進んでいくと、開けたフロアに繋がった。

 そこにいたのはモンスターではなく、複数の生徒たちだ。


「――貴様、見つけたぞ!!」


 久我が大声を上げた。

 この中に襲撃者がいるのだろうか?


「……久我くん!? 良かった。宮真くんたちと合流できていたのか」

「え……? 宮真君……!?」


 聞き覚えのある声が聞こえた。

 そこには1組のリーダーである大弥のパーティと、扇原子猫の率いる5組の生徒たちがいた。


「大弥! なぜこの女と一緒にいる!」


 久我の激怒に大弥は戸惑いを見せた。


「なぜって……話し合って一緒に行動することになったんだ」

「今すぐ離れろ! お前もこの女に襲われるぞ!」

「襲われるって……扇原さんにかい?」


 大弥は眉根を顰めながら扇原を見た――その時だった。

 現在進行形で襲撃者扱いされている少女が、俺に駆け寄ってきた。


(……なんだ!?)


 何か仕掛けられるのではないかと警戒していると。


「宮真君!」

「っ!?」


 突然、俺に抱き着いてきたのだ。


「お、お前、いきなり何を――」

「良かった! 本当に無事だったんだね!」

「は……?」


 いきなり何を言っているのだろうか?

 俺は思わず呆気に取られる。


「九重さんも……三枝さんも、本当に良かった……」


 二人の名を口にした扇原の瞳に涙が浮かぶ。

 その姿はまるで俺たちを見て、安堵しているようだった。


「扇原さん……?」

「ど、どういうこと……?」


 勇希と三枝は一度顔を見合わせ数度の瞬きをする。

 激怒していた久我すら、惚けた顔でこの状況を見守っていた。


「宮真君、九重さん、三枝さん……ごめんなさい!」


 そして扇原は頭を下げた。

 彼女だけではない。

 5組のパーティメンバーたちも全員、謝罪の意を示すように頭を下げる。


「ずっと、三人が無事か気になってた。

 1階層のボス戦でのことがあったから……心配で……。

 もしかしたら、わたしのせいで……みんながって……」


 そんな懺悔を繰り返したところで、起こった結果は変わらない。

 俺たちは、扇原たちに置き去りにされた結果……1階層のボスに殺され掛けた。

 だが……彼女の言葉と態度に嘘があるようには見えない。


「2階層では1組の人に会えなかったけど……でも、3階層でさっき大弥くんたちに会って――それで、宮真くんたちが無事だって教えてもらって……わたし、本当に安心しちゃって……」


 扇原は手で涙を拭う。

 この姿が演技なのではないか? 俺たちを騙そうとしているのではないか?

 警戒心もあってか、そんな考えが浮かんでしまう。


「扇原さん、わたしたちは大丈夫だから顔を上げてよ。

 あれはワザとじゃなかった。そういうことだよね?」


 勇希は既に許している。

 いや……最初から彼女を信じていたのだ。


「当たり前だよ! あの時は階層攻略の条件もわかってなかったもん」


 その通りだ。

 彼女が【運営側】でもなければ、攻略条件を知りえたはずもない。


「俺たちは、あの時の戦闘で死にかけた。助かったのは運が良かっただけだ」

「っ……」


 扇原は言葉を詰まらせる。

 そして彼女は理解したのだろう。

 俺があの時のことを許すつもりがないということを。


「……大翔くん、もういいじゃない」

「勇希……」

「扇原さんだって、わざとじゃないって言ってる。それに謝罪もしてくれた。だから……」


 パチン――と、勇希は両手を合わせた。


「この件はもう手打ちにしよう。

 これから先のことを考えたら、禍根を残したくないもん。

 それに私としては、みんなと仲良くしたいから」


 俺を見て勇希は困ったように笑う。

 その顔は俺に【お願い】と訴えているようだった。

 勇希の願いなら聞き入れたい。

 だが……それでも俺は、扇原子猫を許すことはできない。

 一歩間違えば、勇希が、三枝が死んでいたのだ。

 何より……久我の発言もあって俺は扇原に対する疑念が深まっていた。


「俺たちの件だけなら許すこともできたかもしれないが……。

 ――久我、お前を襲ったのは扇原で間違いないか?」


 俺は敢えて今、その話を掘り返した。

 この事実は俺にとって、多くの使い道があるカードになる。


「はっ!? そ、そうだった! 貴様、なぜぼくを襲った!」


 久我は扇原を怒鳴りつけた。


「え……?」

「知らないとは言わせない!」

「そ、そんなこと言われても、キミとは初対面のはずだけど?」


 困惑する扇原におかしな点はない。

 久我の件とは本当に関係ないのか?


「ちょっとあんた!

 子猫は知らないって言ってんじゃん!

 てかあーしら、ずっとこの子と一緒にいたんだけど?」


 この女王様めいた女は確か……九条秋葉だったか?

 当然のように扇原のことを庇い始める。


「てか扇原ちゃんがキミを襲う理由がわかんないっすけど?」


 このチャラ男は確か鳳瞬。


「俺たちに戦う意思はないぞ」


 スポーツマン風のこいつは波崎功。


「その通りだな。

 モンスターの溢れるこの世界で、生徒同士が争う理由はない」


 理知的な眼鏡の美男子は遠峯修吾――パーティの副リーダーのような男だったな。

 どうやら扇原のパーティメンバーは、前回と変わっていないようだ。


「嘘を吐くなっ! 実際に襲われたぼくが貴様の姿を目にしているんだぞっ!」


 久我は自身の目で襲撃者を目撃しているからこそ、一歩も引く気はないようだ。


「あんたさ、ふざけたことばっか言ってるとマジで怒るよ? それともさ、子猫が襲ったっていう証拠があんの? そっちが嘘を言っている可能性もあるわけだけど?」


 決定的な証拠がないことを九条に指摘され、久我は顔を歪め歯を噛み締める。

 映像でも録画していたならまだしも……この状況では扇原を犯人と決定付けるのは困難だろう。


「……久我くんが襲われているのを見た人はいるかい?」


 大弥が俺たちに尋ねた。


「……私たちも見たわけじゃないの。

 話を久我くんから聞いただけだから……」

「ダンジョンで気絶していたところをボクたちが見つけたんだ」

「気絶!? 久我くんがダンジョン内で襲撃にあったのは事実なんだね」


 話を聞いて、大弥は厳しい表情を浮かべる。


「一歩間違えれば、こいつは死んでたろうな」


 言って俺は、再び扇原の表情を確認する。

 すると、黙り込んでいた彼女が、逡巡を終えたのか口を開いた。


「……久我君は何者かに襲われて気絶した。

 その襲撃者がわたしに見えた……ってことだよね」

「見えたではない! 間違いなく貴様の仕業だろ!」

「……たとえばだけど、そういう能力があるって可能性はないかな?」


 つまり――姿を偽ることのできる力を持ったモンスター、もしくは生徒による犯行ではないか? と、扇原は考えたようだ。


「その力で貴様の姿に化けてぼくを襲った人物がいると?」


 少なくとも、1組のメンバーと能力確認をした際にそんな力はなかった。

 だが……ないと言い切れる根拠はない。

 F――自らを亡霊と名乗る少女から、俺はオリジナルスキルが七つあることを聞いている。

 その中に、姿を偽る力がないとは言い切れない。

 さらに疑うなら、モンスターが変身能力を持っている可能性もある。


「この世界では何が起こってもおかしくはない……そうでしょ?」

「そんなもの言い逃れだ! それこそ証拠を出してみろ!」

「今はない。

 けど、久我君が嘘を言っていないなら、必ず見つけてみせる」


 扇原は言い切る。

 自分が犯人ではないからこそ、襲撃者は別にいると確信しているのだろう。

 しかし、互いの意見をぶつけているだけでは、解決の糸口にはならない。


「このままじゃ平行線だ。

 扇原……提案がある」

「何かな?」

「無実を証明するためにも犯人の捜索をすべきだ。お前が襲撃者でないなら、だが」

「見つけられる保証はない。でも……そのための努力をすることはできる」


 扇原は俺の提案を承諾した。

 できることなら、汚名は自らの手で晴らしたいのだろう。


「今回のトラブルは、まるで誰かを疑うように仕向けてるみたい……そんな悪意を感じる。もし故意にクラスを争わせようとする生徒がいるなら……私も放ってはおけないよ」


 勇希の発言は、【犯人】の狙いを言い当ているかもしれない。

 犯人は久我を気絶させるだけで殺しはしなかった。

 つまり、生還できる可能性をわざと残していた……ということになる。

 もし襲われた生徒が生還できたのなら――今のようなトラブルが起こるのは想像に容易い。

 狙ってそれをやっているとすれば、悪意塗れの危険人物に他ならない。


(……できる限り早い段階で対処しておきたいが……)


 姿を偽れる力を持つなら、この犯人を見つけることは困難だ。

 今は3階層の攻略を目指しながら、有力な手掛かりを探すしかないだろう。

 その間に扇原たちが犯人を特定してくれるなら、これほど楽なことはない。


「ならぼくは貴様と行動する! 必ず貴様の嘘を暴いてやるからな!」


 扇原の疑いが晴れたわけではない。

 疑いの目を向けておくためには、久我を同行させるのも悪くないか。


「わかった。

 必ず襲撃者を見つけて、わたしが犯人じゃないって証明してみせるから」


 扇原は承諾したが、九条は物凄く嫌そうな顔をしている。

 それでも、文句を口にすることがないのは扇原を信頼しているからだろう。


「僕たちも扇原さんたちと行動を共にするつもりだ。

 宮真くんたちはどうする?」

「第一班は別行動させてもらう。

 もし何かあれば、後で報告させてもらう」

「わかった。それじゃあ気を付けて……!」

「ああ、大弥たちもな」


 俺と大弥が話を終えると。


「……あの、宮真君、九重さん、三枝さん」


 タイミングを見計らって、扇原が俺たちの名を呼んだ。


「改めてになるけど……本当にあの時はごめんなさい。

 もしわたしが力になれることがあるのなら、必ず協力するから」

「その話はもう手打ちにしたよ。

 だから、これからも協力してがんばっていこうね!」

「あたしも扇原さんの気持ちはわかったから。あまり自分を責めないで」


 俺は返す言葉を持ち合わせてはない。

 今も扇原たちを許すことはできないから。


「でも……これはわたしの自己満足だから」


 扇原は寂しそうに笑う。

 やはり嘘を言っているように見えない……が、息を吐くように人を騙す奴が世の中には存在する。

 だから信じるべきではない。

 同じ失敗を繰り返さないためにも……勇希と三枝を守るためにも。


「それじゃあ、わたしたちも行くね」


 言って扇原は歩き出した。

 皆がその背を追っていく中で。


「……あの時のことは、あーしたちも悪いと思ってる。

 でも、あんま子猫のこと、悪く思わないでやってよ……。あの子はさ、ただみんなを助けるために、一生懸命なだけだから……」


 去り際、九条秋葉が言った。

 何が真実で何が嘘か。

 襲撃者の存在あろうがなかろうが、この世界は既に猜疑心に満たされていた。

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