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第45話 アンデッド

             ※




 その後、直ぐに探索を再開した。

 俺の少し後ろを歩く野島は、先程の経験から随分と慎重に周囲を窺っている。

 レベルを上げるだけではなく、自らの失敗から学ぶことも大きな成長だ。


「前の階層と比べて、やっぱり広くなってるよね」


 マッピングスキル持ちの三枝がパーティにいるからこそ、俺たちはそれを強く実感していた。

 下の階層でこれでは……上は数ヵ月に及ぶ攻略が強いられるかもしれない。

 もしかしたら、100階層に到達できるとしたら、数年後……?

 この地獄にそんな長い間いなければならないのかと思うと、考えるだけで嫌になる。


「久我くんもだけど……他の班は大丈夫かな?」


 一人飛び出して行ったあの男はまだ見つかっていない。

 他の班も既に探索を開始していると思うが、大きな苦労を強いられているだろう。

 それと2組と5組の動向も気になる。

 彼らも既に3階層の攻略を始めている可能性は高い。

 特に2組――三枝を引き抜かれたあとの柊がどう動いてくるか。

 そして5組の扇原――繋者リンカーである彼女も、決して油断してはならない相手だろう。


「……この先、何かいるぞ。数は2――」


 気配の強さからしてボスではなさそうだ。

 もし遭遇するのがモンスターなら、3階層初のパーティ戦だ。

 俺たちは警戒しながら進んでいく。


(……――あれは)


 進んだ先に発見したのは――。


「な、なんなのあれ?」

「……かなりグロテスクだね……。

 ボク、ああいうの苦手だよ……」


 俺たちの視線はモンスターに釘付けになっていた。


「今度は骨のバケモンかよ……」


 野島が見たままを口にした。

 視界の先にいるのは、物語やゲームの中では【アンデッド】と喩えられるようなモンスターだ。

 当然、眼球も耳もない。

 が、二体の骨の化物は俺たちを認識しているように顔を向けた。


「戸惑ってる暇はないぞ!」

「うん! 来るよみんな!」


 俺以外の全員が武器を構えた。

 同時にアンデッドが動き出す。

 二体とも、手には錆びついた剣と壊れかけの盾を持っていた。

 まだ距離はあるものの、その動きは熟練の剣士のように俊敏だ。

 二体は前後に分かれ突き進んできた。

 見た感じ接近戦主体のモンスターのようだ。

 これなら、距離がある今のうちに攻めるべきだろう。


「みんな行くよ! ――雷撃ライトニングボルト!」

 勇希の放った稲妻がアンデッドを襲う。

「氷雨《 アイスレイン》」


 続けて此花が魔法を使った。

 氷の礫がアンデッドに降り注ぐ。


「――!」


 二つの魔法がモンスターに直撃した。

 だが、効果が薄いのか敵の動きは止まらない。


「モンスターのクセに、生意気に武器なんて使ってんじゃねえよ!」


 迫り来るアンデッドに向かって、野島が動いた。

 その後に勇希と此花が続く。


「おらっ!」


 敵に接近した野島が、片手剣を振り上げ切り掛かる。

 だがモンスターは盾で、その攻撃を軽く受け止めた。


「なっ!?」


 そのまま剣を弾かれ、野島は後方に後退する。

 今の攻防だけでも、剣士としてのレベルは明らかに敵のほうが高いのが見て取れた。


「クソ、こいつ結構つえぇぞ!!」

「野島くんはそっちの敵に集中して! もう一体は私たちで抑えるから!」

「一人でどうにもならないなら、数で勝負ってね!」


 圧倒的な実力差でもない限りは、数の優位性は絶対だ。

 勇希と此花の二人なら押し負けることはないだろう。


「みんな、お待たせ! このモンスターはスケルトン。

 アンデッドのモンスターでレベル3。

 属性は闇、弱点は光属性。闇属性は光属性以外の魔法に耐性を持ってるみたい。

 あと、剣技能1を持ってるみたい」


 三枝が鑑定の結果を伝えてくれた。


「こいつ、スキルまで持ってんのかよ!?」


 パーティの再編成を決めた際、野島も剣技能を獲得していると聞いていたが同じスキルを持っているはずなのに、剣士としての練度は明らかにモンスターが上だった。

 属性耐性もあり魔法が通じにくいというのも厄介だ。 


「光属性の魔法って……そんなの覚えられるの!?」


 必死な表情で戦っている此花が叫ぶ。

 一応、俺は獲得しているが――その魔法は攻撃手段ではない。


「魔法に耐性があんなら、このまま剣で倒しちまえばいいだろうがっ!」


 悪戦苦闘しながらも、野島は勇猛果敢に立ち向かっている。

 だが気合でどうにかなるほどモンスターとの戦いは甘くはない。


「数の優位は変わらない。私たちが冷静に戦えば、きっと勝てるよ!」


 勇希は悲観的にはならず、冷静に状況を観察してながら奮闘を続けていた。


「三枝、属性付与をみんなの武器に掛けてくれ」


 俺が指示を出すと、三枝ははっとした顔で頷き返した。

 そう。光属性の攻撃魔法を使えないなら――1階層でホブゴブリンを倒した時のように、光属性を付与してしまえばいい。


「属性付与――シャイン!」


 三枝が魔法を使用すると、野島たちが装備しているショートソードが淡い光に包まれる。

 途端にスケルトンたちが脅えたように後退あとずさった。


「おらああああっ!」


 その隙を見逃すことなく、野島は剣を振り下ろした。

 弱点属性の効果かその一撃はスケルトンの腕を切断する。


「っしゃあ! このまま一気に畳み掛けてやるよ!」


 仲間が劣勢であることを目にしたためか、もう一体のスケルトンの動きが鈍っていた。

 まるで感情を持っているかのように。

 続けて三枝も前衛に立ち、勇希たちが戦うスケルトンに攻撃を加える。

 このままなら、俺が戦闘に参加しなくても負ける可能性は低いと思うが……少し試してみたいことがある。

 俺は、勇希たちが相手をしているスケルトンに接近した。

 そして、その左腕に触れ。


「――治癒エイド


 回復魔法を使用した。


「ヤマト!? 回復する相手を間違ってるよ!」


 正気を疑うような目で、野島と此花が俺を見る。

 勿論、俺は気が狂ったわけじゃない。

 狙ってスケルトンに治癒魔法を使ったのだ。

 しかし効果があるかはわからない。

 俺は治癒を掛けたスケルトンの動きを観察する。 


「……ねえ、なんだかスケルトンの様子がおかしくない?」


 変化の兆候に気付いたのは三枝だった。


「っ――!!?」


 治癒を掛けた箇所――スケルトンの左腕が消失した。

 ガタン! 重い音が響く。

 それは左手に持っていた盾が地面に落下した音だ。


「みんな、今がチャンスだよ!」

「うん! あたしだって――」

「OK~! 一気にいくよ!」


 勇希と三枝、此花が同時攻撃。

 盾を落とした魔物には、迫り来る3つの斬撃を防ぐ術などない。


「!?」


 スケルトンは致命傷を受け、地面に崩れ落ちた。


「やった!」

「まだもう一体いるよ!」

「このまま一斉攻撃で倒そう!」


 三人は油断することなく、野島が相手をしているスケルトンに迫っていく。

 野島と対峙していたスケルトンが、勇希たちに目を向けた。

 が、それは一瞬の隙となり。


「余所見してんじゃねえよ!」

「っ!?」


 野島の叩き伏せるような一撃に反応できず、ゴガッ――という鈍い音と共にスケルトンは頭蓋骨を粉砕され地面に崩れ落ちた。


「はっ、呆気ねえな」

「なにカッコ付けてるんだよ。大苦戦だったじゃないか」


 戦いを終えたばかりだというのに、此花と野島は元気があふれているようだ。


「大翔くん、なんでスケルトンに治癒魔法を?」

「それ、あたしも気になってたんだけど……もしかして、アンデッドだったから?」

「気付いたのか」

「なんとくだけど……。

 聖なる力みたいのって、アンデッドは嫌がりそうかなって」


 三枝も俺と同じことを考えていたようだ。

 正確に言えば治癒に属性はない。

 だがアンデッド――既に死んでいる敵を回復するとどうなるのか?

 気になって試してみたが、結果は御覧の通りだ。


「これでアンデッドを倒す時には治癒魔法が役立つことがわかったな」

「まさか回復した部分が消滅しちゃうなんてね……。

 流石すぎるよ、ヤマト!」


 ふと――此花の言葉を聞いた時、俺は違和感を覚えた。

 治癒を使ったスケルトンの身体は【消滅】した。

 なのに、今も骨が地面に残っている。


「倒したはずなのに、消滅してないな……」

「あ……そう、だよね?

 今まで倒したモンスターは、みんな消えちゃってたのに」


 三枝も違和感を持ったようだ。


「……じゃあ、このモンスターはまだ生きてるの?」


 勇希が言った途端、ガシャガシャガタガタ――と、骨が動き出した。

 切断され砕かれた箇所が、まるで磁石のように引き合っていく。


「これは、治癒魔法で消滅させるしかないみたいだな」


 俺たちは治癒を使うことで、スケルトンが再生する前に消滅させた。

 倒しかたさえ知っていればなんてことないが、物理攻撃のみで倒そうとすれば、相当な苦戦を強いられそうだ。


(……教室に戻り次第、情報共有する必要があるな)


 この先の探索でも、できる限り多くの情報を集めていこう。

 ちなみにスケルトンを倒した際に。


『ドロップ:錆びた剣』

『ドロップ:壊れた盾』


 二つのアイテムを手に入れたが……効果は期待できそうにない。

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