第4話 モンスター
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俺は勇希に追いつく為に通路を全速力で走っていた。
ダンジョンの通路は土色の石壁になっていた。
松明のような薄明りが設置されている。
通路には苔が生えていて、じめじめしていてカビ臭かった。
俺はその通路を真っ直ぐに進んでいた。
というか、このダンジョンの通路は一本道だったのだ。
迷うことがないのはありがたい。
これなら直ぐに、勇希にも追いつけ――
「うあああああああああああああああっ!?」
男の悲鳴がダンジョンに響き渡った。
さっきの三白眼の声か?
まさかモンスターに襲われて……――だとすると、勇希も!?
距離は近い。
頼む――せめて勇希だけは……!
視界の先に広いフロアが見えた。
そこには、
「くそっ! クソがっ! こっちに来るんじゃねえ!」
どうやら、無事のようだが――フロアにいたのは勇希たちだけじゃない。
(……あれは――!?)
鬼の顔と小柄な体――ファンタジー世界では、ゴブリンと呼ばれる魔物が五体、三白眼を囲むように迫っていた。
「――勇希!!」
「大翔くん!? どうして!?」
「そんなこといいから、さっさと逃げるぞ!!」
今なら逃げ切れる。
運がいいことに、モンスターは三白眼に集中しているのだ。
「ダメだよ!」
「なっ――」
手を引く俺を、彼女は拒絶した。
「なに言ってんだ! この場にいたら、お前まであのモンスターに!」
「彼を見捨てられないよ! なんとかして、助けないと!」
助ける!?
この状況で馬鹿かこいつは!?
「放っておけ! 今は自分が生き残ることだけを考えろ!」
「ダメ! 絶対に助ける!」
「助けるって、どうやって!?」
「それは……わからないけど、でも助けないといけないの!」
戦う準備もしていなければ、手立てもない。
なのに彼女は、あの他人を助けるという。
無謀すぎる。
ただの学生生活なら人助けも結構。
だが、今は命がかかってる。
この状況で、誰かを助けるなんて……その正義感は俺からみれば異常の一言だ。
「くそっ! 来るな、来るんじゃねえええええっ!?」
どうやら、悩んでいる時間はないらしい。
あいつが殺られれば、次は俺たちだ。
無駄に時間が過ぎれば、他のモンスターが集まってくる可能性だってある。
そうなれば――勇希を助けられる可能性はどんどん低くなる。
「――わかった。
なら――まずはあいつを助ける」
「え……手伝って、くれるの?」
「助けたいんだろ?」
「――うん!」
このどうしようもない正義感に、過去の俺は救われた。
これが九重勇希が九重勇希たる所以。
なら、俺に選べる選択肢は一つだ。
彼女を助ける為にも迷っている暇はない。
「俺が魔物を引き付ける。その間に勇希はあいつを助けてくれ」
三白眼はモンスターに驚愕して腰を抜かしていた。
「わかった。
でも、引き付けるってどうやって」
「上手くいくかはわからないが――」
ステータスを確認した時に見た魔法を使うことができれば、活路が見い出せるかもしれない。
そう意識した瞬間――膨大な知識が一気に頭の中に流れ込み、魔法という力を一瞬で理解していた。
炎の矢の消費魔力は3。
俺の保有する魔力は28。
「炎の矢!」
無詠唱で放たれた赤い閃光は、火花を散らしながらゴブリンに迫り――直撃。
小鬼は胸を貫かれ、地面に倒れ伏した。
(……イケる!!)
炎の矢はゴブリンを一撃で倒せるくらいの威力があるようだ。
武器もない状況でどうなるかと思ったが、なんとか切り抜けられるかもしれない。
「すごい……大翔くん、今のって――」
「説明は後だ!」
ゴブリンたちの視線が、不良から俺に集まった。
「こっちだ雑魚ども!」
言葉が通じるかわからない。
だが、敢えて挑発する。
意味がわからずとも、態度で意思は伝わるかもしれない。
「ゴブ、ゴブゴブ! グガアアア!!」
よし、成功だ。
フロアからは四方向に通路が分かれている。
勇希たちは教室の方向に逃がしたい。
なら――
「ゴブリンども、こっちに来い!」
俺は教室とは反対方向の通路に足を向けた。
一斉にゴブリンたちも動き出す。
「勇希!」
「――うん! キミ、起きられる?」
「あ、ああ……す、すまねえ」
腰を抜かした不良を、勇希が起こす。
「大翔くん! 彼は助けたよ。だから、一緒に――」
「俺はもう少し時間を稼ぐ! 先に行ってくれ」
「でも――」
「心配しなくていい。俺も直ぐに戻るから。信じてくれ」
本当に、生きて戻れるかなんてわからない。
でも、こうでも言わなくちゃ勇希を納得させることなんて出来ないだろう。
「ゴブッ!」
もたもたしている間にも、モンスターの注意が勇希に向いた。
「おい、モンスター! お前らの相手は、そっちじゃないんだよ! ――炎の矢!」
俺は再び魔法を放ち、ゴブリンを威嚇する。
ゴブリンの注意が俺に戻った。
よし、これでいい。
今なら勇希を逃がせる!
「行けっ! お前らがいるほうが足手まといんだ!」
「っ……わかった。信じるからね、大翔くん」
「ああ」
駆け出す勇希を確認して、俺は教室とは逆の通路を突き進んだ。




