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第37話 ダンジョンの亡霊

「ではでは~、3階層の攻略がスタートする時に連絡するからね~! ば~~~~い!」


 三枝の引き抜きを終えて、2階層攻略後のホームルームは終わりを告げた。

 不気味なクマがいなくなり、教室は重圧感から解放される。


「みんな、2階層の攻略で疲れているよね。まずは部屋に戻って少し休んでほしい」


 皆を気遣うよう言ったのは、早くも1組のまとめ役になっている大弥だ。


「情報交換は、三枝さんの歓迎会を含めて食事中にやりたいと思うけどどうかな?」


 続けてそんな提案をした。


「それは賛成だけど、三枝さんの部屋ってどうするの?」


 気の強そうな女子生徒が質問する。


「空いているところを使ってもらうことになるね」

「なら、あたしの隣が空き部屋になってるから、良かったらどう?」

「……いいの?」


 突然の申し出に、三枝は少し戸惑いがあったようだ。


「もちろん! あ、アタシは七瀬 奈々果(ななせななか)

 よろしくね」

「よろしく、七瀬さん。

 ありがとう、マジで助かるよ」

「ううん。

 でさ……突然で悪いんだけど、三枝さんに聞きたいことがあるんだよね」

「聞きたいこと?」

「実はアタシ、2組に幼馴染がいるんだ。その子が無事かなって」


 一瞬、三枝の表情が強張った。

 それは彼女が、2組の生徒たちにいい印象を持っていないからだろう。

 2組で受けた扱いを考えれば当然だ。

 教室を追い出され、たった一人で、ダンジョンの探索を強制されていたのだから。


「そ、そうなんだ。

 あたしにわかる子だといいんだけど」

「柊友愛って名前なんだけど……?」

「っ……」


 柊という名を聞いた途端、三枝の顔に明らかな動揺が浮かぶ。

 恐らくそいつが……。


(……三枝のトラウマか)


 彼女の態度を見れば、柊がイジメの主犯格だとみて間違いない。

 予期せぬ偶然。

 三枝も、このクラスに柊の友人がいるとは思いもしなかっただろう。


「小中学校は違ったんだけど、定期的に遊ぶくらい仲良くしててさ、大丈夫かなって……」

「ご……ごめん。

 あたしの知らない子みたい」


 三枝は笑みを取り繕い、なんとか返事をする。

 それができたのは、七瀬に悪意がなかったからだろう。


「そっか、ありがとね。

 とりあえず部屋まで案内するよ。

 その後、食事の時間までおしゃべりでもしない?」

「……」


 三枝が俺に目を向けた。

 伝えたいことがあったのかもしれないが、直ぐに視線を七瀬に戻す。


「OK。それじゃ、行こっか」


 想定外の出来事はあったが、今はクラスに馴染むための第一歩。

 それを三枝もわかっているようだ。

 孤立を避けることができたなら、クラスでイジメを受けることはない。

 三枝を取り巻く環境は、以前に比べ遥かに改善されていくだろう 




               ※




 部屋に戻ると、俺はベッドに倒れ込んだ。


(……はぁ)


 一人になって気が緩んだのか、疲れがどっと押し寄せてくる。

 やるべきことは、いくらでもあるが……。

 今は疲弊した心と身体を休めたい。


(……一度、眠ってしまおう)


 そう決めた途端――強烈な眠気に襲われ俺の意識は落ちていった。




               ※




 深い暗闇に包まれていた視界が、突然真っ赤に染まった。

 ダンジョンの中で、モンスターが次々に殺され鮮血が舞う。

 信じられないことに、殺戮者は一人の少女だ。

 俺の知っている顔ではない。

 彼女は、自分がすべきをことを全うするように、淡々とモンスターを殺していく。

 その光景を、俺は怖いくらい冷静に見つめていた。

 そして、戦いを終えた少女は一人……鮮血の中を進んでいく。

 歩みに迷いはない。

 まるで、終わりのない戦いに身を投じるのが当然と感じているようだった。

 この世界に囚われ続けた者は、そう変わってしまうのだろうか?


(……俺たちもいつか……彼女のように……)


 複雑な感情を抱えながらも、彼女から目を離せなくなっていく。

 どこまで進み続けるのかと思っていたのだが――。

 ふと、少女は何かに気付き足を止めた。

 そして虚空を見て微笑む。


『……ああ、そうか。

 【リンク】したのだったな』


 今のは明らかに、この場にいるはずない傍観者に向けた言葉だった。


『こんなもの見ていてもつまらないだろ?』


 これは夢……ではないのだろうか?

 まるで本当にダンジョンの中で起こっている出来事のような――。


『宮真大翔――いい加減、目を覚ませ』


 なぜ俺の名前を知っているのか?

 疑問を感じた瞬間。


「っ!?」


 意識が強制的に呼び起こされた。


「やっと起きたか」


 艶めかしい声が聞こえて、反射的に目を向ける。

 俺が眠っていたベッドの端に、白い髪の少女が腰掛けていた。 

 寝る前は誰もいなかったはずなのに。


「……お、お前は……」


 慌てて身体を起こし声を絞り出す。


「何を驚いている? さっきも顔を合わせただろ?」

「さっき? ……――!?」


 警戒しながらその姿を改めて確認すると……間違いない。

 彼女は、夢の中に出てきた少女にそっくりだったのだ。


「……お前は……? あれは夢だったんじゃ……?」


「違う。

 お前が見ていたあれは、わたしの過去……のようなものだ」

「過去……?」


 まさか、この女もここに連れて来られた生徒の一人なのか?

 いや――だとしても、どうやってここに入った?

 なぜ今になって、俺に接触を持ってきた?

 そこには間違いなく、何らかの打算があるはずだ。

 この世界を生き抜く上で――メリットのない取引などあるはずない。


「……ふふっ、いい顔をするな。

 この世界の何も信じてない。

 お前の目はそう語っているよ」


 感情を出さないよう努めていたが、少女は俺の心を言い当てる。


「だが、だからこそ、わたしはお前を繋者リンカーに選んだ」

「リンカー?」

「わたしたち【亡霊《 ファントム》】に選ばれ、オリジナルスキルを獲得した者たちのことだ」


 質問の回答を得たが、疑問も増える。

 俺のそんな感情を読み取るように、少女は話を続けた。


「多くの疑問はあると思うが、まずは自己紹介をさせてもらおう。

 わたしの名はF――今はそう名乗っている」

「エフ……?」


 片仮名……いや、アルファベットのFか?

 だとしたら、それは名前と呼べるようなものでは――。


「……F? まてよ――」


 その名称に思い当たることがあり、俺は急ぎステータス画面を開く。

 確かめたのはオリジナルスキルの詳細だ。




               ※




○オリジナルスキル

 

 ・スキル名:一匹狼《 ローンウルフ》

  スキルレベルアップの条件

  レベル:0 獲得済み(あなたはFに選ばれました)

      1 獲得済み

      2 ???

      3 ???

      4 ???

      5 ???




               ※




 表示された詳細には、間違いなくFの名が書かれていた。

 つまり、この力は……。


「現時点で七つしかないオリジナルスキルの一つ――一匹狼ローンウルフ

 その力を得た感想はどうだ?」


 白髪の少女が妖しい笑みを浮かべる。


「本当にお前が、あの力を……?」


 オリジナルスキルは、通常の魔法やスキルとはレベルが違う。

 あの発動中の全能感、力が溢れ止まらなくなる感覚。

 それを与えたのが、この少女?


「信じられぬのなら、今から証拠も見せてやろう」


 宣言と同時に、スキル画面の文字が変化してレベルの獲得条件が表示された。




              ※




○オリジナルスキル

 

 ・スキル名:一匹狼ローンウルフ

  スキルレベルアップの条件

  レベル:0 獲得済み(あなたはFに選ばれました)

      1 獲得済み

      2 獲得条件:所属クラスの変更。

      3 ???

      4 ???

      5 ???




               ※




 レベル2の獲得条件は『所属クラスの変更』だった。

 Fの言葉に呼応してこの条件が提示された以上、彼女の発言を信じざるを得ないだろう。

 だが、相手の異常性を理解したことで、警戒心はより強まっていく。


「あまり警戒するな。

 私はお前の敵ではない」

「……もしそうだとして、俺に何をさせたい? 接触を図った理由は?」


 単刀直入に目的を問う。

 するとFは妖しく微笑み。


「話しが早くて助かる。

 わたしはこの世界を壊したい。

 全ての悲劇を終わらせるため、そしてこの世界から解放されるために」


 自らの目的を告げた。

 それは俺の想定とは全く異なるものだった。


「世界を……壊す?」


 考えもしなかった。

 そんなことができるのか?

 確かにオリジナルスキルの力は強大だが……。

 いや……もしできたとして、もしこの世界がなくなったとしたら、俺たちはどうなる?


「このダンジョンが全100階層というのは権限者から聞いているな?」

「聞いているが……権限者というのは?」

「この世界の運営権――その一部を、創造者から与えられているのが権限者だ。お前らは確か……担任と呼んでいるんだったか?」


 複数の情報が与えられたが、精査しきれない。

 一つ一つ確認を取られなければ。


「質問が複数ある。

 お前たちと権限者――担任は敵対しているのか?」

「当然だ。

 権限者は運営側――つまりこの世界と創造者を守る立場にある。

 が、わたしたちは創造者を殺し、この世界を破壊しようというのだからな」

「……敵対の理由は?」

「そんなの山ほどあるが――最たるは、こんな世界に連れてこられて殺された。その恨みから」

「殺された……だって、お前は……」


 ここにいるじゃないか。

 その言葉にする前に、Fの手が俺の頬に伸びて――。


「っ――」


 触れることなく、すり抜けていった。

 亡霊――俺はFがそう名乗った意味を、今になって理解する。


「わたしは生前、この世界に殺された。

 ……だが、あの時は……いや、言い訳をする必要はないか。結果としてわたしは負けた。そして今も、ダンジョンに魂を囚われている。実体もなく、戦うこともままならない、亡霊のような存在としてな」


 戦うことができない。

 だからこそ――繋者リンカーの存在が、この世界の破壊に不可欠というわけか。


「……この世界で死んだ者は、お前と同じ亡霊になるのか?」

「死者はこの世界を生かす餌となる。わたしのように魂を囚われるのはほとんどいない」

「餌? ならなんでお前は……?」

「さてな。

 お前たちよりは情報を持っていても、この世界の全てを知るわけではないからな。

 だが、亡霊が運営の掌の上なのか……と言ったら、そうではない」


 ニヤッとFは頬を吊り上げ笑う。


「奴らはこちらに干渉できない。

 たとえるなら我々は――この世界を住処にした修正不能なバグのようなものだ」


 バグ――この世界がゲーム的であることから、Fは敢えて自分の存在をそう形容したのだろう。

 修正できないということは、亡霊の存在を排除してしまうことは、この世界にとって何らかの支障をきたすことなのか?

 もし亡霊の存在が、そこまで大きなイレギュラーだとするなら、運営は全能というわけではないのかもしれない。


「敢えて見逃されているという可能性はないのか?」

「それはない。

 権限者たちが躍起になり、亡霊を排除しようとしていた時期があった――が、それはこの世界の崩壊を招きかけた」


 この世界を守るための権限者が担任たちであるなら、その危険を冒してまで亡霊を排除するメリットはないということだろう。


「何が原因で崩壊が起ころうとしたのかはわからない。

 だが……既にわたしたちは、消してはならないシステムの一部として機能していたのかもしれない」


 創造者に権限を与えられていないFが、オリジナルスキルという力を与えられることを考えると、その推論は正しいように思える。

 とはいえ……Fが事実を口にしているとも限らないわけだが。


「さて、話の途中だが……すまない、大翔」


 不意にFが謝罪を口にした。


「今回は軽く挨拶するだけのつもりだったのだ……だから、もう時間がない」


 彼女の姿がゆっくりと透過していく。


「……どういうことだ?」

「わたしたちの繋がり――お前の繋者リンカーとしての力が強くなれば、もっと顕現していられる時間も長くなるのだが……もう身体を維持しておけそうにない」


 繋者リンカーとしての力?

 それは、オリジナルスキルのレベルを上げろと言うことか?


「待ってくれ! まだ確認したいことは山ほどある。お前が俺に手を貸す理由は、この世界を壊すこと。

 なら、どうすればこの世界を終わらせることができる!?」

「この世界を破壊するには、100階層にいる創造者を殺す必要がある。

 そうすればこの世界は終焉を迎え……お前たちは無事に元の世界帰還し、わたしたちの魂も解放される……はずだ」


 それが事実なら、俺たちの目的は一致しているだろう。

 だが、Fが言ったように100階層に創造者がいるのなら――何故、担任は俺たちに100階層を目指せと言ったんだ?

 どれだけ自分たちが優位であったとしても、俺なら主を傷付けるような真似はしない。

 まさか、担任の中にも創造者と敵対するものが――


「――大翔、覚えておけ。

 創造者の定めたシステムやルールは絶対ではない。

 わたしが存在しているのがその証拠だ。

 システムの穴を見つけろ。

 それが必ず生き抜くことに繋がる」

「F! まだ聞きたいことが――」

「いいな。

 創造者の想像を超えろ。それができるならお前は――」


 最後の言葉を言い終える前に、Fの姿は完全に消失していた。

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