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第36話 ある少女の記憶(第2巻プロローグ)

 天国と地獄。

 そんなものは、死を恐怖した人間が考えた都合のいい概念だと、わたしは思っていた。

 だけどそれは違った。

 天国はなくても、地獄は間違いなくある。

 そう言い切れる。

 だって――わたしたちが存在するこの世界こそ、地獄そのものなのだから。

 一度は入れば抜け出すことのできない迷宮。

 そこに蔓延る無数のモンスター。

 逃げ場なんてどこにもなく、わたしたちの未来は死に向かうしかない。

 向かうしか……ないはずだった。

 だけど、それでもわたしたちは生きている。

 いや、違う。

 その表現は適さない。

 生きているのではなく、生き抜くことができたのだ。

 仲間が――彼女がいてくれたお陰で。


『みんなで絶対に生きて帰ろう!』


 それは彼女の口癖だった。

 いつ死ぬかもわからないこの世界で、彼女だけは理想を語り続けた。

 でも、最初は誰もそんな夢物語に耳を貸しもしなかった。

 絶望する生徒たちに希望を与えるのは罪だった。

 だけど――それでも彼女は全員で生き抜くと、強い意志と共に言葉を紡ぎ続けた。

 そして実行した。

 この世界を突破する術があることを、彼女はたった一人で証明したのだ。

 クラスの雰囲気が大きく変わったのは、それからだった。

 人は理想や夢、そして希望に惹かれるものなのだろう。 

 絶望に染まっていたクラスの仲間たちが、彼女を中心に立ち上がったのだ。

 わたしたちの希望の象徴であり、クラスのリーダー。

 大好きなわたしの親友……だったのはずなのに。


(……なんで……)


 希望は途絶えた。

 いや――絶望に変わっていたんだ。


(……なんでなのよ)


 わたしの親友が――希望であったはずの彼女が、クラスメイトを殺した日から。

 それも、一人や二人じゃない。

 何の前触れもなく、いや……あったのかもしれない。

 だけど、それに気付けなかった。

 もしあの時に知っていたら、結果は変わっていたのかもしれない。

 だけどこれは既に終わった物語。

 変えることのできない過去。

 彼女による虐殺の時間。

 血の匂いが充満した教室。

 殺された生徒の欠損した部位からは、蛇口のない水道のように血が噴き出している。

 それは世界を赤く、黒く染め上げていった。


「なんでこんなことを……! やめて、やめてよ!」


 混乱に思考を支配されながら、叫び続ける。

 血の海に立つ【少女】――わたしの【親友】に向かって。

 でも、その声は届くことなく虐殺は続いた。

 それは、たった一人の惨殺劇。

 演劇を終えた役者は満足したように、最後の観客となったわたしを見つめる。


「こんな世界は壊さなくちゃいけない」


 全身を血塗れにしながら口にしたその言葉に、わたしは狂気を感じた。


「これでもう……後戻りはできない」


 恐怖で身体が硬直してしまう。

 一歩、また一歩と近付いてきた彼女が、わたし首に手を掛けた。


「……どう、して……」


 こんなことをするの?

 そう尋ねようとしたけれど、返事はない。

 わたしは彼女に裏切られたの?

 そう感じた時、怒りと憎しみが心に渦巻く。

 死にたくない。死にたくない。

 殺されるくらいなら、こいつを――殺すしかない。

 身も心も憎悪に支配されていく。

 でも――気付いてしまった。


(……なんで……泣いてるのよ)


 血に塗れた彼女が涙を流していることに。

 だけどわたしは最後まで……その理由を知ることはできなくて。


「うああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 わたしの意識は、彼女の怨嗟の叫びと共に――。

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